再生世界
「あら二人ともおかえり〜。お友だち連れてきたの?」
キッチンへ進むと笑と夢の母が何らかの作業をしていた。ステンレストレーにキッチンペーパーが敷かれ、その上に薄黄色く丸いものが24個置いてある。
「あ、うん、ただいま」
「ただいま」
「おじゃまします。逢瀬川思留紅と申し上げます」
「思留紅ちゃんね。ゆっくりしていってね。いまちょうどクッキー焼くところだから、ちょっと待っててね」
「はい」
思留紅の存在を除いては、世界消滅前と変わらない日常が、そこにあった。
洗面所に行き、思えば意味不明なハンドソープ『ミュース』で手を洗い、『インジソうがい薬』でうがいをした。ちなみに胃腸薬に至っては『キャベジソ』と、もはや別の植物を配合している。
状況を整理、推論するため、笑の部屋で作戦会議。夢の部屋も確認したところ、盗撮した幸来の写真を収めたアルバムもベッドの下にちゃんとあった。
「思留紅ちゃん、この世界の麦茶、飲んでみる?」
「はい!」
ゴクゴクゴク。現実世界と変わらない普通の麦茶。パッケージにプリントされたキャラクターはやはり少し違って、笑福亭鶴瓶ではなくサングラスをかけたスキンヘッドのオッサン。
思留紅は思った。女児向けアニメのプロップデザインではないと。
「ふはああああああ、疲れたあ〜」
笑はプラスチックのコップに注いだ麦茶を一気飲み、座卓にそれを置いて絨毯に大の字で寝そべった。
「まだ油断できないよ、お姉ちゃん」
「そういえば、幸来さんたちはどうしたんでしょうか」
と思留紅。
「連絡してみます!」
思留紅のスマホは使えないようで、夢から幸来へメッセージを送った。すぐに返信があった。
『いまのところ、消滅前と変わった様子はないわ。でも、どこにバグや罠があるかわからない。油断しないで、悲しいけれど、ご両親相手でも』
世界の消滅とともに親を亡くした幸来だが、冷静だった。いや、だからこそ冷静なのかもしれない。糠喜びはしないのかもしれない。三人はそんなことを思い、口にはしなかった。




