春休みの異世界トリップ
一度行ったら現実世界に戻っていかもしれないアニメ世界での映画撮影。
しかし聡一と紗織は愛娘の思留紅を止めようとはしていない。またも紗織の「オッケー」で済んでしまった。
「これって、映画がヒットしないで私たちはまたあっちの世界から強制退去させられるってことじゃない?」
夕食後、笑の部屋に幸来、夢、思留紅が集まり、花純とはリモートでつないで会議中。
「笑、賢いわね。私もそうとしか考えられないわ」
「お姉ちゃんと幸来さんが同意見なんて、火を見るより明らかというやつですね」
「でもそしたらなんで、よつばさんはヒットしない映画をわざわざ撮ろうとしているのでしょうか」
「私たちを家族とか友だち、街の人たちと再会させるため?」
「つまり、温情で億単位の赤字を出す、ということかしら」
「いやいやでも、ラブリーピースはアニメが1年続いた大型コンテンツですよ? 勝算は十分あると思います! 私みたいな大きくなったお友だちがたくさん見に来ると思います! 放映当時から大きかったお友だちも!」
「そうだ! そうだよ思留紅ちゃん! 私たちは国民的アニメのキャラクターなんだよ! ヒットしないわけがない! そこそこいい線は行くはず!!」
◇◇◇
相談や打ち合わせを重ね春休み、いよいよ旅立ちの日を迎えたラブリーピース五人。よつばが逢瀬川家に出向き、普段音楽やダンスの練習をしている地下室にアニメの世界へのゲートを設けた。何かをオマージュしたようなピンクのドアで、胡散臭い。
「それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい。いざというときは聡ちゃんがどうにかしてくれるから」
「あの、ずっと気になっていたのですが、聡一さんって、何者なのですか?」
幸来が訊いた。
「各界とコネクションがある、知らなくてもいいことをたくさん知っている民間人だよ」
「いやいや、ただの民間人だよ」
紗織に続いて聡一が答えた。
「娘さんたちは、私が責任を持ってお預かりします」
「よろしくお願いいたします」
聡一と紗織は深々と頭を下げた。
あ、やっぱりさよならじゃないのね。帰ってくるの前提なのね。
旅立つ五人は悟った。これは春休みのちょっとした異世界トリップだと。




