再来、ザコキャラダーDQN
「帰ろかな、やめよかな、帰ろかやめよか考え中」
よつばからの提案を受けた笑、幸来、夢はサイクリングロードの脇にある海を臨むデッキに腰かけ話し合いを始めた。太陽は雲に姿を隠してはときどき沖合いに梯子をかけ、潮風と波音が重なる。背後や足元の木道は散歩やジョギング中の人がよく通る。
「お姉ちゃんは、帰りたいの?」
「うーん、どうかなぁ、向こうの世界のみんなと再会できるのはうれしいけど、その魂は、あのころのままなのか、新しく作り直した魂なのか」
「それは有りうるわね。少なくとも身体は再生成されるのだから、例えば親なら、魂としては親でも肉体的には親にはならないわ」
「うむうむ。私は魂が同じなら構わないけどね。いまここに幽霊として出てきても、親は親だし友だちは友だち」
「真理ね」
「それに、この世界に来てから未発見の人もまだいますから、その人たちはどうなるんでしょう」
「強制送還? すべては私たちの掌に」
「笑、独裁者みたいなこと言うわね」
「結果そうじゃん。それとも帰るも帰らないも一人ひとりに自由選択権があるの?」
「自由、選択権……?」
「お姉ちゃんが、自由選択権……?」
「え、なに、どういうこと? 私は自由選択権じゃないよ。桃原笑だよ」
「笑が難しい言葉をつかったから驚いたのよ」
「そうだよ、お姉ちゃん、もしかして誰かと……」
「入れ替わってないよ! 偶然でも運命でもなく必然宿命的に桃原笑、ラブリーピンクだよ!」
「必然宿命的……!」
「お姉ちゃん、AI に乗っ取られてない!?」
「ないよ! 私だって日々学習してるんだよ! 昨日の桃原笑は今日の桃原笑じゃないよ! 毎日アップデートときどきお休み!」
「ああ、どうしましょう、このままだとこの世界まで終わってしまいそうだわ……」
「そうですね、私たち今度こそ死にますね」
「大丈夫問題ない。私がエリートになったくらいで世界は終わらない。なぜってこの世界にはまだまだクズやザコがいっぱいいるからね」
「そうさ、この世界にはまだ、クズやザコがいっぱいいる……クフェフェフェフェ……」
三人の前に突如現れたれた怪しい男。真冬なのに競泳パンツ一丁、股間がもっこりしている。
「こ、この声は……!」
「え、知ってる人なんですか?」
「知っているけれど、思い出したくないわ」
笑と幸来は俯き、その男に視線を遣らないようにしている。
「私は知らないよ」
思い出したくない幸来と、シラを切る笑。
「知らないはずがないだろう。それに桃原夢、キサマとて私を知っているだろう」
「いえ、知りません」
広大な海の景色を股間に遮られた夢は俯いてキッパリ否定した。
「そうか、異世界転生に伴って記憶が消し飛んでしまったのかもしれないな。なら改めて自己紹介するとしよう。我が名はザコキャラダーDQN! 世界は消えても我は消えない! 永遠に不滅だけどブラックサイダーのメッキは剥がれ、こっちの世界に来てからは独立して生きているのだ!」
「うっわ、よりによってコイツが生きてるよ」
「いちばん要らないわね」
「また毎日のようにこのもっこりを見せつけられるのかな。お巡りさん呼んだほうがいいかな」
死亡報告が相次いだ中、せっかくアニメ世界の住人が見つかったのに計り知れないほどの落胆を見せる三人。
「三人とも酷いぞ? 青森のネカフェで配信を見て、ここまで遥々歩いてきたというのに。我がラブリーピース専門のドMじゃなかったら法的措置だぞ?」
「津軽海峡渡っちゃえば良かったじゃん。試される大地が待ってるよ」
「法的措置だなんて、コイツも色々学んでいるのね」
「確かに訴えられたら勝ち目がないので、これ以上はやめておきましょう幸来さん」
「そうね、大変遺憾な事実を受け止めて、神南よつばさんにこのザコの生存報告をしましょう」




