新作アニメ企画
ライブ後の余韻に浸りながら会場目の前の家に帰り、翌日はステージセットや客席の後片付け。客席にはゴミ一つ落ちていなかった。
片付けが終わって野球場を元通りにしたら、夕方からは国道134号線、サザンビーチ前のハワイアンレストランで打ち上げ。
「悪いわねぇ、私まで呼んでもらって」
「なんまいだーなんまいだー、天地創造の神様……」
「お姉ちゃん、確かによつばさんは私たちの神様だけど、なんか失礼だよ」
「チケットを真っ先に購入していただいたそうで、ありがとうございます」
笑、夢、幸来は、窓辺のテーブル席に座るアニメ『ハートフル少女ラブリーピース!』の原作者、神南よつばに深々と頭を垂れ、笑は膝を床に着き手を擦り合わせて崇めている。
客席の最前列ブロックにいたよつばの姿を見つけたのは、警備のため会場内を巡回していた紗織。せっかく来てくださったのですから、ラブリーピースと会っていってくださいと、この打ち上げに招待した。
「あなたたちがステージに立つのだもの。見逃すわけにはいかないわ」
「でも、寒かったでしょ?」
と、笑。
「甘酒を飲みながら、あなたたちが元気に歌い踊る姿を見ていたら、寒さなんて吹き飛んじゃったわ」
「ははーっ、恐れ多きお言葉」
笑は床に両手と額を着けて土下座した。
「あらあら。それでね、ちょっと相談があるの。幸来ちゃん、夢ちゃん、皆さんも、いいかしら」
飲食の手を止め、一同はよつばのもとへ集まった。
「実はね、いま、こんな企画があるの」
よつばは側に置いているバッグから、おもむろに紐で綴じられた書類を取り出し、その下部を掴んで皆に提示した。
表紙にはゴシック体で『ハートフル少女ラブリーピース! アフターストーリー(仮)』と記されている。
「私たちのアフターストーリー!?」
感嘆する笑。これにはここに集う全員が興味を示した。
「あの、よろしければ、中身を確認させていただいてもよろしいですか」
怖いもの見たさとよつばへの敬服で、恐る恐る請う幸来。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
幸来は黙々と目を通し、ぺらぺらページをめくってゆく。
「幸来ちゃん、なんて書いてあるの?」
「笑が読むべき内容ではないわ」
「え、どういうこと?」
「私の口からは言いにくいけれど、よつばさん、笑にも見せて、よろしいでしょうか」
「ええ、もちろんよ」
にんまりと、よつばは御釈迦様のような笑みを浮かべた。
「アリガトウゴザイマース!」
笑はタイ人のようなイントネーションで礼を言い、幸来から企画書を受け取った。
「なになに? 大人気アニメ『ハートフル少女ラブリーピース!』放送から6年、文字通り平和になったへいわ市でいま、ラブリーピースはどんな暮らしをしているのか」
というさわり。
問題はその先に記されているキャラクター設定。
「キャラクター紹介。桃原笑、高校1年生、元ラブリーピンク。当時明るくまっすぐだった笑は、いまやすっかりスレて、暇さえあればポテチにコーラ。自堕落な日々を送っている。彼女の奔放ぶりは動画サイトでよく知られ、もはやアニメを子ども向けには作れないほど修正困難な状況。秘かに正統派の続編を企てていたスタッフはそれを断念せざるを得なくなった。諸悪の根源はすべてコイツだ」
「よく音読したわね」
ため息をつく幸来、苦笑いの一同。
「人はね、変わるんだよ。もうあのときの私はいないけど、純心だけは残ってるからね」
笑はにんまりまり○っこりのように歪な笑みを浮かべた。
「それでね」
よつばが切り出した。
「このアニメをつくるとしたら、あなたたちにはへいわ市に帰ってもらわなきゃいけないの」




