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ハートフル少女ラブリーピース! ~届け、私たちのミュージック!~  作者: おじぃ
新しいスタート!

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桜野姉妹の夜2

 私には、何もない。笑ちゃん、幸来ちゃん、夢ちゃんみたいにアニメの世界から来たわけでも、思留紅ちゃんみたいに音楽のセンスを持って生まれたわけでもない。これといって得意なこともない。


 メンバーの中ではいちばん年上だけど、いちばんモノを持っていないのも私。


 そんな私が、あの茅ヶ崎出身の国民的アーティストも立った球場で有料のライブをするために、楽曲の準備や練習をしている。


 場違いだよ、私なんかがあの球場に立つなんて、アニメにも出てないし、特別な才能があるわけでもないのに……。


 私は逢瀬川さんの家の子でもアニメの世界から来た家なき子でもないから、『ラブリーピース!』のメンバーで唯一別の家(桜野家)で暮らしている。だからちょっと、他のメンバーに比べてコミュニケーションが少ない。メンバーだけどどこかゲストというか、輪の外にいるような、そんな感覚の中で活動している。


 私は笑ちゃんと幸来ちゃんのダンス動画を見てファンになって、自分から彼女たちに声をかけて、いっしょに遊びに行ったりおしゃべりをするようになって現在に至る。最初は私がこの世界や茅ヶ崎の街を案内するつもりで声をかけたけど、いまや音楽を披露するようになっているなんて、人生ってわからないなあ。


 おさらいだけど、笑ちゃん、幸来ちゃんは世界を救うために生まれたアニメキャラクター。この世界に来てからは、戦闘ではなく音楽で人々の心に手を差し伸べる、そんな想いで活動をしている。私もその一員になれたのは、誇らしくて不安でもある。


 何もない私が誰かの力になれるのかな、自信ないな、他の子たちはすごいな。その堂々巡り。


「やっぱり不安?」


 夜9時の少しひんやりしたベランダ。長い夜に歌う虫たちの声。ホットココアを片手に澄んだ星空を見上げる私の右隣りに、姉の香織かおりがカモミールティーティーを片手にスッと現れた。


「私には、何もないから」


「そうかな」


「そうだよ」


「アレマTVに出て、こんどは野球場でライブをする子が、何もないの?」


「それは、笑ちゃんたち他のメンバーの実力あってだよ。私はオマケ」


「花純ちゃんのファンもいっぱいいると思うけどなあ」


「うん、私のことを好きって言ってくれる人はいる。それはすごくうれしい」


 事務所がなくファンレターを送る宛先がない私たちは、SNSのダイレクトメッセージでファンメールを受け付けている。幸来ちゃんと思留紅ちゃん、夢ちゃん宛のメッセージが多いけど、私にもたくさんの応援メッセージを送ってもらえている。それはほんとうに、とてもうれしくて、心がほかほかする。たまにホテルへのお誘いとか、過激なメッセージも届くけど……。


「それでも、自信がないんだ」


「うん……。贅沢だよね、私。応援してくれている人がいるのに」


「個別の曲をつくるのがプレッシャーになってるのもあるんじゃない?」


「そうだね、みんな当たり前のように曲をつくって、私は行き詰ってるから、それは比重として大きい」


「そうだよね、私も花純ちゃんみたいに自分で曲をつくることになったら、あわあわしちゃう」


「お姉ちゃんでも?」


 高貴でなんでもそつなくこなすお姉ちゃんも、そんなふうになるの?


「私だって、ピアノは弾けるけど、作曲はしていないもの」


 私たち桜野姉妹は、小学生のころに市内の音楽教室でピアノを習っていた。だから、鍵盤楽器は得意。けれどお姉ちゃんは加えて茶道や生け花、他にも私が把握していない様々な物事を心得ている。


「そっかあ、じゃあ、私はどうすればいいんだろう」


「うーん、そうねえ、私だったら、自分の思うままを詩にしたためるかな」


「思うまま?」


「そう、思うまま。花純ちゃんは今、どんなことを思ってる?」


「コンプレックスだよ。最年長でいちばんしっかりして、色んなこともできなきゃと思うのに、みんなよりできることが少ない。才が足りない」


「そうかあ、うん、私もわかる、その気持ち」


「ほんとうに?」


「ほんとうに。人生ってね、なかなか思うように行かないの。花純ちゃんも今、壁に対峙して、どうやったら乗り越えられるだろうってもがいているところだと思うけど、私もずっとそう。いつになったら山頂に辿り着けるだろう、一先ず休憩できる山小屋に辿り着けるだろうって、森の中で目の前の木を見てる。ああ、私、この先の人生どうなっちゃうんだろうって、そんな想いを抱えている人はたくさんいる。数えきれないほどいる。花純ちゃんも、私も、そのひとり。だからそんな、同じ想いを抱えている人たちの心に届く曲を、花純ちゃんならつくれるんじゃないかな」

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