ある意味一線を画す美少女コンテンツ!
楽曲制作に疲れた私、桃原笑は気分転換にひとりで海岸を散歩中。秋が深まってきて風はひんやり、空にはぽつぽつした雲が漂っている。海岸のサイクリングロードに沿った生け垣にはアキアカネが留まり、その上空にもトンボが群れている。
秋ですなあ、空が青くてトンボがいっぱい! 雨の日も、こころはいつもアオイソラって、珍しくクラスの男子が知的なことを言ってたのを思い出したよ。
ん、なんかバタバタ音がする。音のしたほうを向くと。
「ううっ、トンボがトンボを食べてる……」
大型のトンボ、ギンヤンマが木の枝先に留まって小さなアキアカネを捕食しているところに遭遇した。バタバタ音の正体は、トンボ同士の攻防による羽音だったみたい。アキアカネの首筋にかぶりつくギンヤンマの牙は、バリバリムシャムシャ派手な音をたてて胸部を喰らっている。肉食動物が獲物の首を噛むように、トンボも狩りのコツを心得ているようだ。
それはそうと、アニメの世界でのトンボは秋の象徴で穏やかな生きもの。そのトンボさんがこんなことをするなんて、笑ちゃんショック。肉食なのは知ってたけど、蚊とか蛾みたいなちっちゃい虫しか食べないと思ってたよ。
この世界に来てから、私は自分たちと近いものを感じる美少女アニメをよく見ている。ラブリーピースの後枠で放送している戦闘少女モノ、アイドルアニメ、音楽アニメなど。そのどれもがかつてアニメの世界で活躍していた自分たちのようにキラキラしていて、敵や困難と真っ直ぐ向き合って、明るい未来を切り拓いている。
それで、そういうジャンルの一員である私はいま、グロテスクなトンボの共食いをまじまじと見ている。普段はブブセラ響く教室でろくな授業を受けられず、だからといって自宅学習をする気もなく赤点まみれ。レッドポインター桃原笑。
はて、この差はどこで生じたのか。そもそもクリーンに創造されたアニメの世界と穢れに満ちた現実世界に生きる自分を比べるのもおかしな話だけど、やっぱりキラキラしていたい。それが乙女心というもの。
「ま、ごちゃごちゃ考えても仕方ないか」
他所は他所、うちはうち。見てくれる人が元気になったり感動する音楽をつくる。楽しい動画もつくる。この世界にいる桃原笑ができるのはそれくらいっきゃない。
開き直った私はサイクリングロードから砂浜に出て回れ右、江ノ島を背に波打ち際をゆっくり歩いて家に戻る。
ざぶん、さらさらさら……。
打ち寄せた波は引き際、陽光を反射してギリギリ直視できるきらめきを放つ。
いつも思うけど、ここまでのきらめきは私たちの世界では見られないんだよなあ。なんかこう、心ごと引き波に吸い寄せられそうなまばゆさ。
ベチャッ!
「うわっ!」
足元にカラスの糞が落ちてきた。
「マジできったねー世界だなここは!」
トンボの共食いにカラスの糞。心を落ち着かせたかったのにアクシデントの連続。いまいち腑に落ちない感じで帰宅した私は、さっそく自室に籠って作詞を始めた。次のライブで披露する予定で、完成次第動画サイトにもアップロードする。
作詞作業は地味。私の場合はまず机に向かって楽曲のテーマを決め、思い浮かんだ単語をノートに書き散らす。その単語を言葉として紡いでゆく。曲が先にできている場合はメロディーに詩を当てはめてゆく。
勉強が苦手な私は机に向かっての作業自体が苦手だけど、作詞作業は「これをつくれば喜んでくれる人がいる。自分たちの音楽で人を喜ばせたい」という目的があるから、なんとか頑張れる。
同時に地下室では思留紅ちゃんと沙織さんによる編曲作業が進められ、幸来ちゃんと花純ちゃんはそれぞれ衣装の制作や、他の楽曲をつくっている。この地味な作業の繰り返しが、キラキラした楽曲、動画、ライブへとつながる。
いまつくってる曲も、聴いたみんなが喜んでくれたらいいな。
この世界に来てだいぶ心が汚れたけど、音楽をやっているときだけはへいわ市で暮らしていたときの、素直な自分になれる。
みんなに向けてつくっている音楽が、私自身の大切なものをつなぎ止めている。音楽って、不思議だな。
「ふひー、ここらでちょっと休憩~」
何分間やったかわかんないけどどちゃくそ作詞してたら集中力が切れた! ベッドに横たわってちょっと休憩!




