チケットが売れない!
『ぜひ会いたいです!』
神南よつばにそんな趣旨のメッセージを返した笑。「まさか神様に会う日が来るなんて、神懸かってる私は頭百個くらい飛び抜けてるね」と、胸を張って自惚れた。
こうしている間にもラブリーピースの動画チャンネルはアクセス数爆上がり。新曲、新作アニメなど、ラブリーピースの今後の活躍に視聴者の期待が高まっている。
好評を受けてテンションが上がった笑からは、自ずと新曲が沸き上がってきた。沸き上がってきた曲は笑が鼻歌で歌い、幸来もしくは思留紅が譜面に書き起こす。
そしてなんと、湘南海岸学院の後援により有料ライブの開催が決定! カネのニオイがする生徒に学校側が擦り寄った!
場所は逢瀬川家の目の前にある野球場。席数2756のなかなか大きい球場で、地元の大物ミュージシャンがライブを開催したときは場外の道路やほとんど音が聞こえない浜辺にまで人が押し寄せた。
「いやあ! アレマTVに出てからというものの、順風満帆ですなあ! わはははは!」
昼、リビングのソファーで脚を広げて扇子を仰ぐ笑に、幸来が冷ややかな視線を向けている。
一方現在、思留紅と沙織は地下室で編曲作業中。
「調子に乗って潰れる典型的なタイプね」
「何を言っておるんだね海風幸来君! ライブの費用は学校が取り持ってくれてるんだし、仮にお客さんが来なくて赤字になっても私たちには関係なし! ノーリスクじゃないか! ははははは!」
「そのことなんだけど」
と、テーブル席でホットココアを飲む聡一が笑の背を見て言った。「ん?」と笑は聡一のほうに身体を向けた。
「まさか赤字になることはないと思うけど、もしそうなっちゃったら、その分だけの労働をしてもらうっていう条件なんだ。生徒に配るプリントの作成とか、バカンスに出かける予定の用務員さんのお仕事とか、その他諸々をラブリーピースのみんなにやってもらうっていう」
「ほらみなさい、そんなムシのいい話なんてないのよ」
やれやれと、幸来は溜め息をついた。
「な、なんですと!? で、でもそれは、労働基準法違反なのでは?」
「大丈夫、労働時間は赤字補填分だけ。黒字になればなんの問題もないよ」
「そ、そそ、そうだよね! そうそう! 黒字になればなんの問題もない! 私たちは天下のラブリーピース!」
「天下? ラブリーピースの後枠で始まった美少女アニメは5年以上続いているのに、私たちは1年だけだったわよ」
「え……。あ! でも! アニメは長さじゃない! 3ヶ月のアニメでもヒット作はたくさんあるし! アニメじゃなくて、音楽から入ってくれたファンの人もいるだろうし!」
「それで、聡一さん」
笑と聡一の間に立つ幸来が訊ねた。
「なんだい?」
「いま、私たちの公演チケットは、どれくらい売れてるんですか?」
「1枚だよ」
「ありがとうございます」
「い、1枚!? 定員2756人で、1枚!?」
「現実を受け止めなさい笑、世の中そんなに甘くないわよ。それに」
「それに?」
「私たちの目的は‘売れる’ことじゃないわ。世界を救うこと。たった一人でもお客さまが来てくれるなら、その人のために一生懸命歌いましょう」
「そ、そうでした。私、すっかりスレてました。でも、赤字になったら強制労働……」
そのとき。
「あ、翼さんと小町さんにゲスト出演してもらうことを告知したら途端に百枚売れた」
と聡一。
「よしきたあ!」
「笑にはプライドっていうものがないのね」
「プライドなんて持ってたって背負うものが増えるだけだよ! それより赤字リスクを低減できた事実に乾杯! よっしゃ頑張るぞー! 私たちのファーストライブ!」




