DM from 神様
「翼ちゃんと小町ちゃんのデビューを祝して、カンパーイ!」
カンパーイ! 笑の号令で皆がグラスを軽くぶつけ、シャンパンやジンジャーエールを飲む。
「ぷはー! ジンジャーエールうまい!」
笑は氷の入ったグラスに注がれたジンジャーエールをぐびっと一気に飲み干した。
テレビ収録を終えて帰宅後、つばさとこまちのインディーズデビューを知った笑たちは、さっそくお祝いパーティーを企画。3週間後、こうして逢瀬川家に集まった。
この日はラブリーピースが出演する『音楽の駅』放送日。インターネットにつないだテレビを点け、飲み食いをしながら視聴待機。番組の放送は21時、まもなくだ。きょうはつばさとこまちは逢瀬川家に宿泊予定。夜道に気をつけて帰る必要はない。
番組が始まると、まずは人気男性アイドルグループが新曲を披露。その後はランキングなどを流して40分過ぎた。
『さて、続いてはこちらの皆さんです』
女声ナレーションが流れた。
「お、いよいよ!」
目を輝かせる笑、思留紅、沙織。固唾を飲む幸来。ドキドキする夢と花純。穏やかに見守る聡一、つばさ、こまち。
テレビには現実世界に来たばかりのときに収録したヘッドランドビーチでの動画が流れつつ、ナレーションが入る。
『5年前、大人気を博した女児向けアニメ、『ハートフル少女ラブリーピース!』、そのメインキャラクター、桃原笑と海風幸来を名乗る、なんと本名も同じ少女と仲間たちで結成したダンス&ガールズバンド、『ラブリーピース!』、今回アニメ公式に承認され見事『音楽の駅』に出演決定! アニメヒロインを勝手に名乗る謎の少女たちのパフォーマンスが、このあとテレビ初登場!』
「勝手もなにも本人だし!」
「アニメの世界から現実世界に来るなんてオカルティックなことを言っているのだから、そう捉えられても仕方ないわ」
ナレーションに反論する笑と、状況を冷静に分析して宥める幸来。
何はともあれ、一同テレビ画面に全集中。ラブリーピースのパフォーマンスは無事放送された。
パチパチパチパチ。沙織が拍手をした。笑たちは「いやはやどうも~」と照れ笑い。
「私も歌いたくなちゃったなあ」
「お母さんも活動再開?」
「え、思留紅ママ、歌い手なの?」
笑と幸来は沙織がバンドのギター&ボーカルだとは知らなかったが、他の者は知っていた。
「私は聡ちゃんと、まみちゃん先生、夏穂ちゃん先生といっしょにバンドやってるんだよ。不定期活動だけど」
「そ、聡一さんも!?」
口を塞いで驚く幸来。
「僕はベースギターが主だね」
「ひえ~、思留紅ちゃんはDJだし、音楽一家なんだね」
沙織が自分たちラブリーピースの楽曲を編曲しているのは知っていた笑だが、改めて驚いた。
「思留紅ママパパバンドやってるし、翼ちゃんと小町ちゃんもデビューだし、私たちもデビューしたいなあ」
「もうデビューしてるじゃない」
と、小町。
「アレマTVに出てるもんね。しかも看板番組の『音楽の駅』! 事務所とかレコード会社とは契約してなくても、もう立派にデビューしてるよ!」
翼が後押し。
「言われてみれば! 私たち、もうフリーでデビューしてる!」
他方で思留紅はスマホでSNSを開き、黙々と放映の反響をチェックしている。
『ラブピアニメ新作キボンヌ』
キボンヌ? ああ、昔の言葉で希望かな?
『しるくママべろんべろんしたいお♪』
ううっ……。
『著作権法無視のパチモンがなんでアレマに出てんの?』
パチモンじゃねーし。でも確かにラブリーピースのテーマソングの権利は制作委員会にあるから今回はテレビ出演を快諾してくれた公式さんに感謝だよ。
視聴者からの声に冷静に向き合う思留紅。
思留紅はSNSのアカウントを自分用のプライベートアカウントからラブリーピース公式アカウントに切り換えた。このアカウントは思留紅ほかメンバー全員が自由に使える。
タイムラインの右下を見ると、1件の通知があった。ダイレクトメッセージだ。さっそく思留紅はそれを開いた。
『ラブリーピースの皆さま、関係者の皆さま、はじめまして。私、テレビアニメ『ハートフル少女ラブリーピース!』にてキャラクターデザインを担当いたしました神南よつばと申します』
「か、神南よつば!?」
思留紅は思わず声を漏らした。
「どうしたの思留紅ちゃん」
笑が驚いて思留紅を見た。
「皆さん、公式アカウントのダイレクトメッセージを見てください」
言われた通り、笑、幸来、夢、花純はダイレクトメッセージを読んだ。
「え、すごい! デザイナーさんからのメッセージだ!」
と反応したのは花純。
アニメの世界から来た3人はぽかんとしているが、自分たちの容姿をデザインした人だということは理解した。
「え、え、え、神南よつばさんからメッセージ!? すごい!」
ラブリーピースファンのつばさは興奮して、隣にいる花純のスマホを覗き込んだ。
「わ、わあ! 本物だ!」
メッセージの続きはこうだ。
『皆さまのこと、実はスタジオでこっそり拝見させていただきました。笑ちゃん、幸来ちゃん、夢ちゃんはピンとこないかもしれないけど、私はあなたたちの容姿を決めた神様のようなものです。お母さんもお父さんも、ブラックサイダーも、全員私が決めました』
思留紅は文面の『決めました』を、『描きました』と表記していないところに、生身の人間である笑、幸来、夢を尊重していると感じた。
『あなたたちを見たとき、私は思わず涙ぐんでしまいました。挨拶をしたいと思いましたが、そのときは慣れないスタジオでびっくりさせてしまうと思い、また今度にしようと思いました。それで、もしよろしければ、私が茅ヶ崎のほうへ伺いますので、ぜひご挨拶させていただけないかと思い、こうしてメッセージをしたためさせていただきました。お手隙の際にお返事いただければ幸いです。お待ちしております。 かしこ』
「すごいじゃん! 私会いたい!」
沙織も神南よつばに興味深々。
「私たちの神様かあ。神様に会えるって、すごいね」
「え、ええ。きっとすごいことだわ」
「うん。私も会ってみたいかも」
神南よつばにデザインされた当の3人はいまいちピンときていない様子だが、会う方向で話が進んだ。




