心がきらめき始めたよ
「幸来ちゃん幸来ちゃーん!」
アレマTVに出演する興奮とともに、笑は3組の教室に駆け込んだ。幸来にオファーを知らせるためだ。
が、幸来はいなかった。ただただ残っていた数名の冷ややかな視線が突き刺さった。
「あの、幸来ちゃんはどこに行ったか、知ってますか?」
「さっき、先生といっしょに出て行きましたけど……」
と、大人しそうな女子生徒の集団の一人が教えてくれた。そこそこ大きな声で喋っていた連中は黙り込んで何も教えてくれなかった。笑はこの世界の片鱗を見た気がした。
先生といっしょにってことは、職員室かな。
「ありがとうございます!」
教えてくれた女子生徒に礼を言って、笑は職員室へ向かったが、職員室にはなんとなく入りたくないのでその前まで行って通信アプリで幸来に『いまどこ?』と送った。
『生徒指導室』
「うわ、幸来ちゃんが生徒指導室? もしかして教室でナニかした?」
思わず心の声を漏らした笑。生徒指導室は職員室の奥にある。
『笑も来て』
「え? なんで?」
私も呼び出されるってことは、まさか路上パフォーマンスが問題視されて拷問部屋にぶち込まれた?
「あ~入りたくないな拷問部屋……」
言いつつ、笑は「失礼しま~す」とボソリ言って職員室に入り、そのまま真っ直ぐ奥へ進んで右手の生徒指導室の扉をそっと叩いた。
「はーい、どうぞー」
声の主は3組の担任、米沢夏穂。ショートヘアで清純そうな23歳の新任現国教師。
「失礼しまーす」
処分とか説教みたいな雰囲気じゃないけど、油断させておいてグサッとくるパターンがこの世界にはよくあるからなと、笑は身を反らしてこちらを見る幸来と、対面する夏穂の様子を窺いながら恐る恐る室内に入った。
「ど、どうしたの? あ、もしかして生徒指導室だからってビクビクしてるの?」
と、ビクビクしながら夏穂は言った。
「はい。そりゃあもう……」
「だ、大丈夫だよっ、指導とか懲罰的なことじゃなくて、門沢先生から聞いてると思うけど、アレマTVからオファーがあって、そのことを幸来ちゃんに告げていたところなの」
「あ、ああ、そうだったんですか」
怖がり損だった。笑は自らの杞憂にほっと胸を撫で下ろした。
「でも、どうして生徒指導室で?」
「あ、それはね。この資料を二人でいっしょに読んでて。まだ部外秘の情報だから、他の生徒には聞かれないようにここで話し合っていたの」
と、夏穂は卓上に置かれたA4サイズの資料を手に取って見せた。
「なになに、アレマTVの企画書? 私、そんなの渡されてない」
「門沢先生は、その、難しいことは任せたって」
言いながら夏穂は俯いた。
夏穂から手渡された企画書の内容は、特に難しくなかった。ラブリーピースに支払われるギャラや撮影スケジュールなどが記されている基本的なもの。お勉強が苦手な笑でも理解できた。
笑は察した。あの人、そういうの食わず嫌いで読まない人だと。
企画書を手に取って、目を通して、笑は思った。
ひょっとしたら、生きているみんなと再会して、世界を救えるかも。そんな淡い期待に、胸が沸々とし始めていた。




