眠れない街24時
9月2日の2学期初日、笑が所属する1年20組の教室は朝からエレキギターやパフパフラッパの音がけたたましく響いていた。
鬼のような量の宿題はほとんどの生徒が手付かずで、笑は幸来の力を借り、泣きながら解答欄を埋めた。半分くらい。
担任の門沢まみ子は今学期も初日からお決まりのサーフィン遅刻で絶好調! 減給はされるが給料より自由気ままな暮らしを選ぶ女は格が違う。そんなこんなで朝のホームルームは実質カット、始業式は「まみちゃん来てないから不参加でいいんじゃね?」ということで不参加のまま11時半の終業時間を迎えた。
「おーう悪かったなあ、波乗りしてたらラーメンが食いたくなって、朝からやってる店を探すも見つからなくてコンビニでカップ麺買って食ってたらこんな時間になっちまった」
「オーケー気にすんなまみちゃん!」
「クラスは俺たちが回しといたぜ!」
数人の男子が調子の良いことを言ったが、結局は何もしないまま終わって、教室をよく見ると十数名が無断早退していた。笑の前に朝はいた、三つ編みで一見文学女子ながら舌の外周ピアスまみれのガチでヤバめなクラスメイトもいつの間にかいなくなっていた。
そういえばお父さんがやってるタピオカ屋さんが儲かっているうちに稼がなきゃいけないから行列さばきを手伝わなきゃとか言って帰ったんだっけ。と、笑は彼女の健気さに感心していた。
「おーう桃原! ちょっといいか」
教室の一番後ろの席にいる笑だが、教室が徐々に静か(といってもパチンコ店の半分くらいの騒音)になってきたので、さほど張り上げていない声でも届いた。
うげ、宿題半分くらいしかやってないから怒られるのかな?
笑は気重にのそのそと、教壇まで移動した。
「宿題サボったから説教ですか?」
「あ? 宿題は真面目過ぎるくらいよくやってきたじゃないか」
「え!?」
あれで、真面目……。どんだけ基準低いんだよこのクソクラス……。
「ん?」
まみ子はキョトンと首を傾げた。
「じゃあ、どんな用件で?」
「宿題は真面目にやってきたし、日頃の行いがいい桃原たちラブリーピースに、あのアレマTVからオファーが来た」
「うえ!? アレマTV!?」
アレマTV。ラブリーピースのアニメを放送していたテレビ局の傘下にあるインターネットテレビ局。つまるところ大手だ。
「そうだ、アレマTVの音楽番組にラブリーピースを出演させたいと、さっき私にオファーの電話があった」
「まみちゃん先生に? 私たちに直接言えばいいのに」
「ああ、それはだな、前に私がバラエティー番組の『眠れない街24時』っていうコーナーに出たんだが、そのときに局員と名刺交換して、さりげなくお前らのことを売り込んでおいたんだ。恩に着ろ」
「眠れない街に出たんですか!?」
「ああ、出たとも。すごいだろ」
「すごい! マジすごい! 眠れない街、私も出たい!」
笑も大好きな『眠れない街24時』はアレマTVで毎週放送している人気バラエティー番組のメインコーナー。インタビュアーが同じ街を24時間ぶっ通しで歩き回り、通行人にインタビューしてゆく。
芸能人でもなんでもない単なる通行人にインタビューをしているだけのはずなのに、出てくる人の多くは路上に寝転んでいる泥酔者や何度負けても懲りない勝負師、上半身をぼろんぼろんしかねないおばちゃん、下半身をブルンブルンしかねないおじちゃんなど、キャラの濃い人が多い。
そんなコーナーにインタビューを受けたまみ子は、めでたくカットされず出演を果たした。
そんな優秀な担任の助力を得て、ラブリーピースは5年の時を経て、こんどはミュージシャンとしてデビューを果たす。知名度を上げて、生き分かれた仲間を見つける絶好のチャンスだ。




