胸に秘めた曲
私、海風幸来にとって、きょうはちょっとうれしい一日だった。茅ヶ崎が秘めた不思議な力の考察について、あれほど絶賛されるなんて思いもしなかったから。
夜になって自室でひとりになっても、ウキウキが止まらない。ウキウキという気持ちは楽しみなことがあるときだけじゃなくて、うれしいことがあったときにも沸き上がるんだと、そんな、思えば当たり前のことにも気づいた。
学習机の椅子に座って、机に右腕を添えてスマホを見る。
「へえ」
きょう公開した『カラスのパンク』が、ちょっと好評みたい。これまでの曲が一日あたり数十から数百だったのに対し、『カラスのパンク』は7百超え。ただ女子高生たちが狂っているだけの動画が意外にもウケた。
「わからないものね」
これはヒットするだろうと思った曲がそんなにヒットしなかったり、あまりヒットしないと思った曲がヒットしたり。これまでのポップ路線だけでは見えなかったものが見えた。
笑がバラードをつくりたいと言っていたけれど、なんだかいま、思い浮かんできた。お部屋でひとりのとき、お風呂に入っているとき、眠る前、起き上がる前など、そんなふとした瞬間に曲が浮かんでくる。
「この曲なら、ピアノかキーボードがあればソロで演奏できそうね」
浮かんだ曲は、きょうのうれしさとは裏腹に、私の深層心理を表したものだった。
◇◇◇
『うれし涙の夢のあと』
作詞、作曲、編曲 海風幸来
うれし涙の夢のあと
泡沫に消えるまぼろしよ
期待した夢 無に帰して
行く当てもなく彷徨うの
どうして? 神様
私にはどれだけの試練を与えるの?
穏やかに生きていたい
それだけなのに
◇◇◇
この曲は、そっと胸にしまっておきましょう。家族を全員失った私に対して、夢ちゃんと再会できた笑を羨んでいるだけの曲だから。




