好きなようにやればいい!
「バラードの作り方?」
「はい! バラードの作り方を私に教えてください!」
困惑する翼と、跪いて脚を舐めそうな笑。
インターホンが鳴って紗織が出迎えたのは双子の姉妹、翼と小町。地下室に通された二人の前に笑が立ち、そのまま土下座した。
翼と小町は顔を見合わせた。
「そう言われても、なんとなく浮かんできたものを書き起こして曲にしたとしか言いようがないわ」
「ふむ~」
翼の返答に、親指と人差し指を顎に当て‘考える人’になった笑。
「あの、その……」
「はい?」
言い淀む翼に、首を傾げる笑。
「今回は、残念だったね、ほんとうに」
小町が言った。両親が死去していたことは既に幸来から連絡済み。
「それで、この子が夢ちゃん?」
小町が夢のほうを見て言った。
「はい! 桃原夢です! いつも姉がお世話になっております!」
夢はべこっと深く頭を垂れた。
「夢ちゃん! 大きくなったね! 私、ラブリーピース見てたよ! ああ! まさか夢ちゃんにも会えるなんて! よしよし、大変だったね、よく頑張ってここまで来たね」
夢の頭をさわさわと撫でる小町。どうしたらいいかわからない夢はとりあえず目を閉じて、ネコのように大人しく撫でられている。
そんなこんなの応酬があり、楽器の前は広めのスペースになっているのでそこで大きな円になって座ってティータイムを始めた。クッキー、プレッツェル、ポテチ、天然水、ミルクティー、ローズヒップハニーティーを用意した。これらを家から少し離れた浜見平のショッピングセンターまで買いに走ったのは聡一。
「でも、どうしてバラードをやろうと思ったの?」
小町が笑に訊ねた。
「うーんと、まずは、バラードとか、いろんなジャンルの曲をやれば、リスナー層が広がると思ったんです。そうすれば、お友だちとか、地域の人を見つけやすくなると思って。それと、世界を救うラブリーピースだから、いろんな人の心に響く音楽を届けたい。そして!」
「そして?」
小町が言った。全員の視線が笑に集まった。
「私が! 世界を救ったこのラブリーピンク様が! いろんな曲に挑戦したくなった!!」
場が静まり返った。先ほどまでパンクをガンガン演奏していたとは思えないほどの静けさだ。
「それだ! それだよ笑ちゃん!」
ぱあっと表情が華やいだ小町。
「私もそう思う! 音楽は音を楽しむものだもん! ミュージシャンだって楽しまなきゃね!」
「そうです! 音楽は自分も楽しむものです! さすが笑さん!」
小町に続いて笑を絶賛する紗織と思留紅。翼はクールに、幸来、夢、花純、聡一は穏やかに微笑んでいる。
「それで、笑、あなたはバラードを楽しめるの?」
と、微笑みながら問う翼。
「うーん、それなんだよなあ」
「なら、無理しないで、好きなようにつくればいいわ。その結果できたのがバラードなら、それでいいじゃない」
「そうだよね! そうですよおっしゃる通り! それでさっきカラスのパンクをやったら、なんだか頭痛そうなリアクションをいただきまして……」
笑から視線を逸らす幸来と花純。
「あの曲は、もう収録したし、サプライズみたいな感じでたまにやるのがいいんじゃないかな?」
と、珍しく意見を言った花純。とはいえ生理的に苦手な曲でも、花純はしっかり不協和音を奏でた。
「そう言われると、聴いてみたくなるわね」
「音源ならありますよ」
思留紅が言って、ノートPCにヘッドホンを接続して翼に差し出した。
「頭おかしいわね」
4分後、カラスのパンクを聞き終えた翼の感想。
「ええ!? 好きなようにやればいいって、さっき言ったじゃん!」
「フッ、頭おかしいからって、禁止はされないのが音楽よ」
翼は鼻で笑った。
「それな! さすが翼ちゃん!」
「フフッ、それほどでもないわ」
子どもに悪知恵を植え付けて礼を言われた悪い大人のように不敵に笑む翼。
「翼ちゃん、褒められたら素直に笑って喜べばいいのに」
と、いつも通り小町は翼をいじった。
「う、うるさい!」
翼はきょうも、恥ずかしくて頬を赤らめた。




