アソコは力の崎!
「カア! カア!! カア! カア!! カアカアカアカカーア!! ギャア! ぷるぷるギャア! ピーイギャアギャギャア!!」
逢瀬川家の地下室に響き渡るギター&ボーカル、笑の奇声とパンクなサウンド。換気をしているとはいえ地下室という閉鎖空間では壁に音が反響し、重低音が余計に響いて地鳴りする。
キーボードで不協和音を奏でる花純はパンクやハードロックなどの激しい音楽に耐性がなく、半ば混乱気味。
「すごいわね、笑。これを即興でつくるなんて」
笑と同じく、いや、家族全員を失って一層ショックの大きい幸来が言った。
そう、この曲はたった今、この演奏をもって完成した即興曲。
「今朝ひとりで穏やかな波打ち際を歩いてたら思い浮かんだ珠玉の一曲だよ。カラスさんからのプレゼント!」
「なるほど、この世界に飛ばされてからちょっと頭おかしくなったとは思ってたけど、もっとおかしくなったのね」
「学校で最底辺クラスに振り分けられたこの桃原笑さまを侮るでないよ! なんとかと天才は紙一重っていうからね!」
「お姉ちゃん……」
「あはは……」
荒廃した姉を心配するドラムの夢と、とりあえず苦笑する花純。
「笑さん、すごいです! 即興なのにちゃんと音楽になってますよ! さっそくデータにしますね!」
DJの思留紅が言った。今回の演奏を思留紅が録音していたので、思留紅が音を読み取って譜面化、編曲をしてかたちを整える。曲が完成したらミュージックビデオを収録して楽曲に合わせ、動画サイトにアプロードする。
「ほんと、笑ちゃん天才! 私の思わず頭上下に振っちゃった」
笑の才能を紗織も絶賛。聡一はすぐに逃げられるよう防音扉の前に立ったが、逃げずに最後まで聴いた。音は脳みそがぶっ壊れて耳から液体が出てきそうなくらい大きく重厚だったが、雑音ではなかった。音の性質としては電車の中で聞こえてくるイヤホン、ヘッドホンの音漏れの小さな音のほうが遥かに不快だ。
「いやいやそれほどでもお。この桃原笑さんがほかでもないこの湘南の地に舞い降りたのには、ちゃんとした意味があるんだね!」
「笑ちゃん、この曲が浮かんだのはヘッドランドのあたり?」
紗織が訊ねた。ヘッドランドは笑たちが普段から散歩している茅ヶ崎海岸の、岩場が突き出た部分。このヘッドランドがあることで砂浜の侵食が抑制され、茅ヶ崎の地形が保たれている。
「うん! アソコを超えて東側の砂浜!」
「そっか! アソコはね、力の崎なんだよ!」
「力のサキ?」
「そう、力の崎。私も詳しくは知らないんだけど、創作意欲とか命の営みに関することとか、そういうのがみなぎってくるパワースポットって言われてるんだよ、一部の人の間で、諸説あると思うけど」
「ほうほう、諸説ある!」
「でも、すごいですよね、この街。国民的なミュージシャンもいれば、成ること自体すごく厳しい宇宙飛行士を二人も輩出したり。茅ヶ崎出身の小説家さんや漫画家さんもけっこういるんですよね」
と花純。宇宙飛行士のうち一人は花純と同じ中学校出身で、彼女にとってそれがさりげない誇りだったりする。
「私も、いつか茅ヶ崎から世界に名を轟かす逢瀬川思留紅になりたいです!」
「がんばろう思留紅ちゃん! 思留紅ちゃんのシルクロードは無限大だよ!」
笑が思留紅を激励した。
「はい! 超絶最強人気の笑さんに言われたら、私も有名になれる気がしてきました!」
ピンポーン。インターホンが鳴った。演奏中に鳴っていたら絶対に気付かなかった。
「あ、来たかな」
紗織が受話器を取って応答し、玄関へ上がっていった。




