世界を救う潜在能力
「ということで、現在に至ります」
時は現在、私たちと幸来さんの両親の死を告げた、茅ヶ崎海岸。私は幸せをアピールしつつも、俯くしかできなかった。
「そっか、うん、夢も幸せに暮らしてるってわかって、良かった」
「ええ、ほんとうに、良かったわ」
そう言いつつも、お姉ちゃんと幸来さんは夕陽を背にして涙をぼろぼろ流している。当たり前だ。大切な人の死を知らされたのだから。
ああ、言わなければ良かったかな、みんなに見抜かれていたとはいえ、私が誤魔化していれば、残酷な事実をまだ、もう少しの間は突きつけずに済んだかな。ううん、それは無理だ、絶対に通用しない。どのみち、こうするしかなかったんだ。
この状況下で、いちばん辛いのは幸来さんだ。幸来さんにはきょうだいがおらず、家族はもう誰一人、この世に存在しない。
この世界では優れた人ほどつらいことが多いというけれど、ならばそれだけの幸せを、しっかり与えてほしい。つらいことを全部忘れて、何も心配しないで、ただただ幸せだけを噛み締められる、そんな日々を、末永く与えてほしい。
「でも、でも、お姉ちゃんたちは、お母さんと、お父さんと会うために、一生懸命音楽をやって、その結果がこんな……。私さえ現れなければ、知らずに済んだのに……」
「ううん、何言ってんの。生きてる夢はちゃんと見つけられたじゃん。大収穫だよ!」
「ええ、ちゃんと成果は出た。それに、まだまだ、お友だちだって、商店街の人たちだって見つかっていない。私はみんなの安否が確認できるまでは続けたいわ」
「うん! また悲しいこともあるかもしれないけど、夢と再会できたみたいにうれしいこともあるかもしれない。それに、音楽自体がなんだか楽しくて。ね、幸来ちゃん」
「そうね、まだけっこう恥ずかしいけど、楽しいわね」
「お姉ちゃん、幸来さん……」
「だから夢、これからよろしくね! きょうから夢もラブリーピース!」
「ええ、夢ちゃんもいっしょに、この世界に元気を与えましょう」
「はっ、はい!」
お姉ちゃんも幸来さんも、まだ空元気だと思う。これからタイミングを見計らって、どこかで泣くのだと思う。
「さて、帰ろうか。夢はきょう、泊まってく?」
「ううん、お姉さんたちが待ってるから、ご飯だけいただいてお暇しようと思う」
「そっか、お姉さんたちによろしく言っておいてね」
「うん、わかった」
回れ右をして来た道を戻る。山の向こうへ沈もうとしている太陽の光が乱反射して、自分も涙を流していると気づく。もうとっくに渇いたと思っていたのに。哀しみとうれしさが入り混じって、感情を整理できないでいる。
私たち三人は、これからしばらく、もしかしたらけっこう長く、こういう感情を抱き続けるのだと思う。喜びも悲しみを、すべてを纏って、そのうちいくらかを払い落としたり忘れたりして、生きてゆく。ハートフル少女、ラブリーピース。ハートフルっていうのは、温かさだけじゃなくて、そういうことも含んでいるんだな。それを平均的な人よりたくさん知っているから、世界を救う潜在能力があるのかも。
私もきょうからラブリーピース。いろんなことを知って学んで、心に潤いを与えられる音楽を届けて、大切な人を探しながら、世界を救ってゆこう。




