もうこの世界にはいない
自然な流れで会話が途切れ、アニメの世界で暮らしていたときの三人のリズムが戻ってきた。
片瀬江ノ島駅で再会したときはあることに触れないように、けれど感極まってあれもこれもと会話をしていた。そして今は話題を出さず、自然な流れで無言のときが流れている。
幸来は「自分の家族も早く見つかるといいな」と寄せては返し世界を巡る波に想いを馳せて、無言で砂地を歩む。江ノ島の灯台が点灯して、その光は7キロ離れたここまでぐるりぐるりチカチカと照らす。
背後に夕陽のきらめき、前方に灯台の光線、足元からの波音、空からカラスの声。夢はそのもっと高く、うっすら見える満月より遠くを仰いでいた。
「夢、もういいよ」
空を仰ぐ夢を、笑はいたわりを込めて微笑み見つめている。
「え、何が?」
と言いつつ、夢は笑や幸来の目線を合わさず、前方斜め下を見ている。無数の砂と、波に揉まれて丸くなった砂利が散らばっている。
「もう、いないんだよね、お母さんかお父さんか、どっちも」
笑が言ったそのとき、ふんわりやさしい南風が吹いて、少しばかりの砂を膝の高さまで巻き上げた。
「え、なんで……」
隠していたのに、どうしてわかるの? そう疑問を抱くと同時に、もう隠していたくない、打ち明けてしまいたい気持ちに切り込みを入れられて、夢は笑の問いを認めた。
「わかるよ、だって私、夢のお姉ちゃんだもん」
笑は察していた。片瀬江ノ島駅で再会したときから、音楽配信で人探しをしている自分たちに、両親の行方の手がかりを全く訊いてこなかったこと、また、その話題に一切触れなかったこと。それは幸来も紗織も聡一も、思留紅も察していた。だからその場にいた全員が、敢えて触れなかった。
それと、大事なことはなかなか言い出さない夢の性格や、姉として、女としての勘。そういうものが、日ごろ馬鹿なことばかりしている笑にもある。
「うん、そっか、そうだよね。うん、お姉ちゃんは、誤魔化せないか」
自分で聞き出しておきながら、覚悟しておきながら現実感が込み上げてきた笑は口をつぐんで、涙をぽろぽろ零し始めた。
「お母さんも、お父さんも、もうこの世界にはいない。あの、とても言いにくいのですが、幸来さんのご両親も」
「えっ……」
幸来は驚きつつも、心の割と手前のほうで、それを覚悟していた。
「私たち5人はこの世界に飛ばされたとき、森の中で目を覚ましました。周囲には本当に木しかなくて、すごく不気味な場所です。そこに来たときにはもう、私以外は息をしていませんでした。人工呼吸も試みましたが、ダメでした。
私は20分くらいかな、それくらいかけて森を抜け出して、人通りの少ない街に出て、そこで出会ったのが、いまお世話になっている二人のお姉さんです」




