鵠沼暮らしの夢
「ところで夢ちゃんはいま、どこでどんな人と暮らしてるの?」
紗織が訊ねた。
「親切な二人のお姉さんに拾ってもらって、鵠沼のマンションで暮らしています」
「そっか、ちゃんと食べさせてもらってる?」
「はい! とても親切なお姉さんたちですよ!」
「そっか、それは良かった」
紗織は同居者について聞き出すタイミングを片瀬江ノ島駅で会ったときから見計らっていた。逢瀬川家にはもう余っている部屋はないから、同居するとしたら笑と同じ部屋にしようかなどと考えていた。また、話の流れによっては笑と幸来にとっての大切な人が死亡した旨の情報も入る場合も有り得る。だから公の場より、家で訊いたほうが良いと判断した。
「こんど私も挨拶に行かなきゃね! 妹がお世話になってますって」
「うん、本当にいい人だから、会ってほしいな」
◇◇◇
夕暮れ時、夢は‘鵠沼のお姉さんたち‘に夕飯を姉が世話になっている家で食べることを通信アプリで連絡し、笑、幸来と散歩に出た。茅ヶ崎公園前の国道を跨ぐ歩道橋から砂浜に出て、夕陽を背に波打ち際をのんびり歩く。
「お姉ちゃんたちも、いい人たちといっしょに住まわせてもらってて良かった」
「それはこっちの台詞だよぉ、夢が変な人に監禁されてるんじゃないかとか、すごく心配だったんだよお!」
笑はわんわんぎゃんぎゃん夢の腰に頬ずり。
幸来はそれを見ながら微笑んで「ほんとよね、みんな家なき子でこの世界に来たのだもの。こうして温かい人が拾ってくださって、ほんとうに幸せよ」と言いながら、自分たちの幸福を再度認識した。
「それに、景色もきれい! 世界の絶景スポットみたいなので見るような景色がお家のすぐそばで見られるなんて、奇跡だよ!」
ざぷん、ざぷんとやさしく打ち寄せる波とろける一直線のオレンジは、波の引き際で粒子になって砂浜を刹那にきらめかせる。
「うん、この眺めはほんとうにすごいよね、他所の街の人が茅ヶ崎の人に「きれいな夕陽を見せてあげる」って言って、これ以上のものを見せるのはすごく難しいと思う」
「おお、現実的なことを言いますな我が妹よ」
「でも、確かにそうよね。この辺りの人って、ここみたいな砂浜の夕陽も見ていれば、江ノ島の灯台みたいな高いところから見る夕陽だって見ているだろうし、そんなに遠くないところにいくつかの山があるから、山の上からの夕陽も見ているかもしれないし、茅ヶ崎とか湘南地域と同じくらいきれいな景色はあっても、これを上回るほどというか、心底満足させられる景色を見せるのはなかなか難しいと思うわ。それでも、その土地ならではの良さはあると思うけど。へいわ市みたいに」
「さすが幸来ちゃん、頭脳明晰だあ。男ウケ悪そう」
悪怯れる様子もない笑。
「な、なんですって!?」
「だ、大丈夫ですよ! 仮に男ウケが悪くても、私は幸来さんのこと、好きです!」
「うう、ありがとう夢ちゃん、私も夢ちゃん大好きよ」
夢の腕に泣きつく幸来。この3人の中では夢がいちばんしっかりしているようだ。




