そんなシーンは放映されません!
『夢です。桃原笑、ラブリーピンクの妹の夢です。姉は朝起きる前にお股に手を突っ込んでいるといえば信じてもらえるでしょうか。会いたい、今すぐ会いたい』
「これって、本当に夢ちゃん?」
新曲『きらめきたくても頑張れなくて』を公開した翌10時、自室で朝の読書を終えスマホを手に取った幸来は、動画サイトに書き込まれたコメントに気づいた。
さっそく幸来はリビングに下り、ソファーに座って思留紅、紗織と専用コントローラハンドルを握ってカートレースゲームで遊ぶ笑に背後から問う。
「ねぇ、笑って、朝起きる前にお股に手を突っ込んでるの?」
「へ? ああ!!」
笑のカートがバナナの皮を回避できずスリップ。聡一はグラスでアイスミルクティーを飲みながら、愛する家族をのほほんと俯瞰している。
ゲームを終えた笑はソファーに座ったまま「なんでそんなこと訊くの? 確かに突っ込んでるけど」と膨れっ面で幸来のいる背後を向いた。
「別にね、ムラムラしてるわけじゃないんだよ? クセで突っ込んでるというか。でも、突っ込んでるのは左手だけで、ちゃんと手を洗ってから、スマホとかドアノブとか触ってるからね?」と補足。
「あー、そこまで聞いてないけど。それでね」
幸来は笑が股に手を突っ込む事実を確認した理由、つまり笑の妹、夢を名乗る人物からメッセージが来た旨を伝えた。
「え……、ほんとに?」
キョトンとした笑。いまいち実感が湧いていない。
「ほんとうよ。ほら」
幸来は笑にスマホの画面を見せた。
「ほんとだ」
「でも、私たちの暮らしはこの世界のテレビで放映されているから、笑が寝起きにアソコをいじっているくらい、周知の事実なのかも。だから成りすましの可能性もあるわ」
「大丈夫ですよ、深夜アニメならともかく、朝アニメでそんなシーンは放映されません! それに、私はラブリーピースを全話見てますけど、そんなシーンやそれを匂わせるような台詞はありませんでした」
と、思留紅が胸を張って幸来の懸念を払拭した。
「それで、送り主はどこに住んでいるのかな?」
と、蚊帳の外でティータイムを満喫していた聡一が突如己の存在を示した。
聡一の助言により、笑がSNSに捨てアカウントを作成、アイコンにはツヤツヤ光る桃のイラストを使用。動画サイトにアカウント名を載せてコメント主に返信した。
数分後、笑の捨てアカウントにアイコン画像が赤い背景に白い人形の、できたてホヤホヤアカウントからフォローされたので、笑はさっそくフォローバック。以下のようにダイレクトメッセージを送った。
『えっへん、世界一頼りになるお姉ちゃんです! あなたが本当に夢なら、自分のベッドの下に何を隠していたか、答えられるよね?』
『幸来ちゃんの日常をこれでもかと盗撮した写真が幾千とありましたけど何か?』
と、1分も経たず返信があった。
「よし、本物だ」
「ええ!?」
納得した笑と、顔を赤らめ焦燥する幸来。
苦笑する思留紅、紗織と、再会の兆しに頬笑む聡一。
笑は続いて居住地を訊ねると、茅ヶ崎市の東隣、藤沢市の鵠沼にあるアパートに住んでいるとのことなので、14時にその近くの片瀬江ノ島駅で落ち合う約束をした。




