痛みと歩む少女のバラード
すごい、きれいな歌声。
電子ピアノみたいな楽器の音もやさしくて、清らかに流れる水のように心に沁み込んでくる。
音色に吸い寄せられた私は、気付いたら白い骨組みでガラス張りのステージの前にいた。
でも残念、ちょうど曲が終わったところで、数十人の観衆から拍手が起き始めた。
「翼ちゃんと小町ちゃん!」
びっくりした。パフォーマーをよく見たら翼ちゃんと小町ちゃんだと気付いて、思わず声が出た。二人に向けられるべき観衆の視線が私に集まった。
にこにこひらひら。キーボードの前に立つ小町ちゃんがこちらに手を振ってくれた。
マイクを握る翼ちゃんは仰け反って、マイクからばふっと、刹那に変な音がした。明らかに動揺している。
「お友だちが来てくれました! ひゃあうれしい!」
小町ちゃんが改めてこちらに手を振ってきたので、私も笑顔で小刻みにぶんぶん振り返した。花純ちゃんはひらひらと上品に。幸来ちゃんと思留紅ちゃんは微笑んでお辞儀をした。
「あ、でも次の曲はしっとりバラードです! 私たちが音楽を届けたい! っていう想いを詰め込んだ大切な曲です。聴いてください『助けて』」
◇◇◇
『助けて』
作詞、作曲:白河翼、白河小町
どうして?
こんな日々が
いつまで続くというの
「違う、そうじゃない」
「いつの日か必ず」
そう心の中燃やした大きな火は
もういまにも消えてしまいそうだよ
Ah 誰か助けてよ
救い求めても蹴落とされるだけ
この世界に希望などない
生きていることしか望みはない
だけど生きてゆくんだ
ずっと闇の中彷徨い続けて
すべてを終わらせようと何度もしたけれど
それでもいまも私は生きている
どうして
こんな日々が
いつまで続くというの
「きょうも変わらない」
「なんのために生きてるの?」
その答えはまだ見つからないの
きょうも誰かが旅立ってしまったよ
Ah あなたを助けたい
気持ちはあるのに気力がなくて
希望の光を灯したいあなたに
だから私は歌うと決めたんだ
いつかすこしずつだけど
ほんのすこしずつだけど
希望は見えてくる信じられないでしょう
それでもきょうも私は生きてゆく
消えかけていた火は
また大きくなってゆく
出逢いと別れを繰り返しながら
呪縛もなにもかも飲み込んで
私もまだまだ
救われてなんかいないよ
だからあなたの手を貸してほしい
◇◇◇
聴き惚れながら、私は二人の生い立ちに想像を巡らせた。
翼ちゃんと小町ちゃんにも、ブラックサイダーみたいに暴れて、無関係な人々を不幸に陥れたいと思った瞬間はあるのだと思う。
でも、そうはしなかった。
想いを音楽に込めて、つらい想いをしている人たちに手を差し伸べる方法を採った。
翼ちゃんと小町ちゃんは、この世界のラブリーピースだ。




