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ハートフル少女ラブリーピース! ~届け、私たちのミュージック!~  作者: おじぃ
7月

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32/92

あなたのアソコはどれくらい?

「いいですよ、ごゆっくり」


 笑はそう言ったが、姉妹のどちらかといえば社交的なほうが「いえいえどうぞどうぞ」と場を譲り、結局は逢瀬川家の四人が先に写真を撮った。


「さ、私たちも撮ろう」


「い、いいわよ、観光客じゃないんだし……」


 相変わらず恥ずかしがって撮影に応じない女性。どうやら二人は地元住民のようだ。


「全世界に音楽を配信してるのに、私たち二人のためだけの写真は恥ずかしいんだ」


「そ、それとこれとは、話が別。私は昔から、写真が苦手でしょ」


 音楽配信。それを、逢瀬川家の四人は聞き逃さなかった。


「音楽配信してるんですか!」


 立ち去ろうとした二人の足を止めて、笑が話しかけた。


「はい、してますよ!」


 ニコッと、社交的なほうの女性が答えた。


「し、し、してません。してない、してないから」


 恥ずかしがりな女性が今更の否定。


「私たちも、してるんです! 音楽の動画配信!」


「え、そうなんだ。なんていうの?」


 恥ずかしがりの女性を無視して、笑と社交的な女性は会話を続ける。


「ラブリーピースです!」


「ラブリーピース? 昔やってた朝アニメみたいな名前だね」


「そう! それです! 私たち、本人なんです!」


「え」


 社交的な女性は、そこで固まった。


 彼女はアニメに造詣ぞうけいが深く、ラブリーピースの声優の顔や年齢を知っている。つまり目の前にいるピンク髪の少女は声優ではない。となれば着ぐるみショーの中の人? それにしても幼い。年齢は私たちとそう変わらないだろう。外見と声は確かにラブリーピースとそっくり。


 となれば、ラブリーピースのなりきり、もしくは何かヤバい人。


「あ、逢瀬川先生の奥さま……」


 口をつぐんでいた恥ずかしがりの女性がぼそり言った。


「ん? そうだけど、どこかで会ったかな」


 と紗織。紗織は声をかけてきた女性を知らないようだ。


「先生が、よく家族写真を見せてくださるんです」


「そうなんだ。ていうことは、生徒さんだね」


「はい、3年1組の、白河しらかわ……」


 名乗っている途中、背後から


「あれ、つばさちゃんと小町こまちちゃんもいる」


 ジャージと白シャツ姿の花純が自転車に乗って現れた。シャツからはオレンジの水着が透けている。花純は逢瀬川家の四人と合流する約束をしていた。


 メンバーが6人に増えて、少し窮屈なレジャーシート。午後に入り暑くなってきたのもあり、レジャーシートを折り畳んで、海の家に移動した。少し肌寒いので紗織の奢りでみんないっしょに昔ながらの醤油ラーメンをすすっている。テラス席からは砂浜や海の様子が一望できる。


「翼さんは歌う恥ずかしがり屋さんなんですね」


 いち早く麺と具を食べ終え、スープをすすりつつ、笑が言った。


 白河翼、小町。湘南海岸学院3年、双子の姉妹。


「悪い?」


 ギッと睨みを利かせ、話しかけるなオーラを出す翼。


「わ、悪くはないですよ。でも、なんか勿体ないなぁって」


「そうそう。私もよく言い聞かせてるんだけど、翼ちゃんはなかなかね。そうだ、ちょっと砂浜でアカペラやってみる?」


 つっけんどんな翼に相対して、気さくな小町。


「や、やるわけないでしょ」


「あ、じゃあ私、やります! ちょうどソロ曲をつくったところだったので、初お披露目ということで」


「笑、いつの間につくってたの?」


 何も聞かされていない幸来は少々驚いている。


「それはカップルが子づくりに励む深い深い夜に、夜なべをしてこっそりと」


「そう」


 呆れる幸来、苦笑する花純と小町。あ、私のこと? と思い当たる節があれど口に出さない紗織と、とんちんかんな思留紅。お母さんとお父さん、昼間でもしてるよね。なんで深い夜に限定するのかな。


「よーし、じゃあいっちょ、披露しますか!」


 スープを飲み干し塩分補給完了! 笑はスマホを首に提げ、DTM音源を再生し始めると海の家を飛び出し、なぜか近くを歩いていた気弱そうな若い男性に駆け寄りながら歌い始めた。


 はじめ、見ている五人は意味がわからなかったが、謎はすぐに解けた。


「はーいそこのお兄さん! あなたのアソコはどれくらい? 私お父さんのしか見たことないのー!」


「え、なになに、なんですか?」


 突然の出来事に混乱する男性。何事かと視線を向けるギャラリー。混沌のはじまり。


「噂によれば大きい小さいサイズはいろいろときにはおっきで暴れてもう限界!」


 これはまずい。あの子、とんでもない歌をつくってくれたわ。保護者の紗織が止めに出ようとした、そのとき……。


「警察だ! 君! なにやってるんだ!」


「え、え、え、え?」


 私服警官の登場に、男性の困惑度は増す一方。とんだ災難だ。


「あなたじゃない! そっちのピンクの女の子!」


「え、私?」


 音源を流したままきょとんとする笑。


「いいから音楽を止めなさい!」


 それから笑は、警察官にこってりしぼられた。


「女の子だってそういうことやっちゃだめなんだよ! わかった!?」


「わあああん! ごめんなさーい!」


 わんわん泣きじゃくる笑。なんか私、出て行きたくないなと思った紗織だが、仕方なく出て行って被害男性と警察官に謝罪した。


 数分後、笑は紗織と手をつないでとぼとぼと海の家に戻った。男性の了承を得て立件はされなかった。


「おつかれさま」


 紗織が笑の肩に手をポンと添えた。


「ごめんなさいでした」


「うんうん、そういうのは第三者を巻き込まないで、予め男子をセッティングしてやるんだよ」


「わかりました」


「ヨシ」


 予め男子を用意してもあまりよろしくはない。


「さあ、私は頑張りました! 次は翼さんの番です!」


 紗織に謝罪し許してもらうと、笑は瞬時に開き直って翼に振った。


「イヤよ、絶対イヤ」


 眼と語気がねっとり、じっとり、もはや侮蔑ぶべつしかない。


 笑が夜なべをして編んだ曲により、ますます歌う気を損ねた翼であった。


 他方、警察官と男性はまだ何か会話をしている。


「ところでお兄さん、これは何?」


 警察官が男性のスマートフォンに興味を示している。この男、怪しいと思ってマークしていたが、押さえる前にイカレたピンク女が沸いてきやがった。だが、ピンク女がホシに絡んだおかげで聴取しやすくなった。口には出さないが、警察官はポイントをくれた笑に内心感謝していた。


「あ、あの、こ、ここっ、これはですねっ、シラハマサキたんの通学風景でですね、こっちはキノサキマドカたん、こっちはコヒナタツグミたん、これは絵本作家のホシカワミソラさま……」


 どうやら彼は、盗撮容疑で逮捕されるようだ。撮影した女性の名前を一人ひとりしっかり覚えているあたり、女性たちについてかなり深く調べていそうだ。思わぬかたちで人を救ったラブリーピンクであった。

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