浜降祭
パンパンパンパン!
ひゅー、ドンドン!
「なになになになにこんな夜中に!? 腰振る音にしては大きすぎるよ!」
7月15日、午前0時。外から突如、何かが破裂したような大きな音が聞こえてきた。
笑が驚いて自室から廊下に飛び出ると、同じタイミングで幸来も出てきた。
「腰振るって、こんな大きな音、あなた、どれだけ大きな動物が現れたっていうのよ」
「ま、まさか、宇宙人!?」
「花火ですよ。浜降祭が始まったんです」
外を心配する二人に状況を説明するため、思留紅も自室から出てきた。
花火は数発で終わり、家には再び静寂が訪れた。
しかし茅ヶ崎の街は、夜中だというのに騒がしくなってゆく。
「浜降祭?」
同時に問う笑と幸来。
「はい。毎年海の日に、茅ヶ崎と寒川(茅ヶ崎の北隣)の神社にある御神輿が、サザンビーチに向かって担がれるんです。サザンビーチに着くと、そのまま海に浸かります」
「な、なんじゃそりゃ……」
「そういえば、御神輿って、どうして上下動しながら練り歩くのかしら」
「私も気になってお父さんとお母さんに訊いてみたんですけど、いずれわかるって、教えてくれなかったんです」
「むむっ、何か大人のにおいを感じる……」
「ていうか、そういうことかしら?」
「マジで?」
「さあ……」
「えっ、二人とも、わかったんですか?」
「うん、たぶん……」
「大方ね」
諸説ある。
「えー、なんですか? 私だけわからないなんて、なんかモヤモヤします」
「まだちょっと、思留紅ちゃんには早いかな~」
笑が冷や汗気味に言った。
「えー、いじわる」
そう言われてもなぁ。
笑と幸来が困っていると、
「どうしたの?」
紗織が1階リビングの窓を開けてこちらを見上げ、声をかけてきた。
「お母さん、御神輿って、どうして上下動させながら担ぐの?」
良かった、あとは紗織さんがどうにかしてくれる。
笑と幸来はホッと一安心。
「知りたい?」
「うん」
「あれはね、命の躍動を表現してるの」
「命の、躍動?」
「そう、躍動する御神輿は、生命の源、母なる海に浸かって更にパワーを得る。そして再び街を練り歩き、地域に繁栄をもたらす。いわば一種の魔術なの」
「魔術!? なんて厨二病的な……!」
「でもこの街、芸術肌の人、多いでしょ?」
「た、確かに。日本人ならほとんどが知っているであろうあの人もこの人も、人口24万人のそんなに大きくない街なのに、片手じゃ足りないくらいいる……」
母の解説に、どうやら納得した様子の思留紅。
実際の浜降祭は罪や穢れを清める禊と言われているが、その際に海から何らかのパワーを授かっていると考えると、多方面にセンスの優れた人物が茅ヶ崎に突出して多い理由の仮説が成り立つ。
「よし、じゃあ私も海に入ろう!」
笑が思いつきで言った。
「いいわね、海。へいわ市にもあったのに、もう何年も入ってないわ」