歪な愛の形成
やっとヒロイン出せた〜( ´Д`)y━・~~
〜菊乃視点〜
夕方の羊の時がそろそろ猿の時に変わるかどうかでしょうか、家から出て近くの川に向かっていました。家は少しだけ高い台地にあり、降りるとすぐ川があります。川までは降りるために切り開いた道が一本あるだけです。
いつもと同じ様に人気を全く感じない森の中で、存在する筈のない者が川に打ち上げられているのを見つけました。見たことのない黒い衣服を身につけ、男の黒い短髪の間から見える顔には擦り傷や裂傷を伴って血を流しています。唇は青く染まり、寒いのか体が少し震えてしまっていました。
しばし状態を観察していると男の方から微かに唸る声が聞こえてきて、とっさに駆け寄っていました。
「だ、大丈夫ですかッ! 意識は・・・薄いけどまだある!安心してください、助けますから。」
そう言って男の人を鬼術で家まで運びました。
「でも、変ですね。こちらには人間種はいない筈なのですが。考えてる時間は無いですね、早く服を脱がさないと体温が更に低下してしまいます。」
私は考えを停止して彼の服を脱がせ、大きめの着物を着させます。男性は鬼族には少ない事もあり、見たことがないので少し恥ずかしかったです!
着替えを終わらせてから彼を布団の中へ寝かせます。顔などの傷は鬼術で回復を促進させる事が出来ますが、鬼術には瞬時に傷を完治するの能力はありません。回復のお手伝いで精一杯です。
「どうすれば良いのでしょうか。布団の中に入れてもまだ震えてますし。やはり体温で...」
その時の少女の顔には陰りがあった。しばらく考え込み少女は布団に入り男を抱き寄せ温めた。
〜マサノリ視点〜
私は痛くて、寒くて、冷たくて、息苦しさを感じていた。
生前善行を積んで来てはいないが、地獄に行くような悪行はこれっぽっちもしていない。視界は暗く唯だ寒い。
上も下も無いような気持ちの悪い浮遊感は拭えない。自分一人が深海に沈められているような、人の温もりも五感も全て閉ざされ生も死もわからない。
この地獄は絶望を与える地獄なのかもしれない。
(ミカ、母さん、父さん今は何も感じないよ。これが死だというのなら、死は本当の終わりだよ。)
私は一人絶望をして虚無の暗い空間を見つめている。
そんな時、胸のあたりから頭にかけての辺りがポカポカと熱を帯びる。心地よい暖かさ、何かの花の匂いなのだろう甘い香り。微かに感じる柔らかな暖かさ、暗闇しかなかった空間にオレンジ色の光が灯る。私はその光を抱きしめていた。
目の当たりに日差しがあたり、目を覚ました。
視界に映るのは見知らぬ天井、作りとしては日本の田舎にある古民家である。
「ここは・・・何処だろう。」
いくら私がいたのが田舎であっても古民家は無かった。周りを見渡そうとして体制を変えた。
・・・フょん
左に顔を動かして失敗に気がついた。マズイですね。
この感触は....ミカが私の寝てるベットに忍び込んで来て、抱きしめられた時の感触。しかしミカがこの古民家にいるとは考えられないですし。とりあえず離れて様子を見ましょう。右に体をずらして離れようとすると
「....ダメです」
女性の声がして今度は後頭部から彼女の胸の中へ抱え込まれる。
「えッ⁉︎ あの...すみません、起きてもよろしいでしょうか?」
混乱のあまり彼女にそう伝えるが、スヤスヤと寝ていた。
この位置からでは顔も確認できない。仕方ないので彼女が起きるのを待つ。それから十分弱程そのままだったが、後頭部からゴソゴソと動く音がして解放された。
「あれ?もう起きていたんですか。痛いところとか大丈夫ですか?」
背後から私を気遣う少女の声がする。そしてお礼を言う為に急いで起き上がり振り返った。
「はい、どうも助けていただいたよう....でッ‼︎」
私は二つの意味で絶句した。
一つは漆細工のような美しさを持つ黒いストレート、蒼天の様な青い瞳、雪の様な白に桜の様な淡いピンクを混ぜた様な綺麗な肌。
年齢としては16歳くらいだろうか。少し痩せているが女性を思わせる身体のライン、身長は低めだが胸は大きい。そして何より少女の頭には二本の角が前髪をかき分け生えていた。
二つ目はそんな美少女が寝ぼけていて気がついていないのか、少女を包む着物は見事に着崩れを起こしている。ギリギリ隠さなくてはならない所を隠している。そんな少女を前に私が口にしていた一言目は
「美しい...こんな完璧な少女はいない。」
だった。我ながら頭がおかしい。先ずは少女から目を逸らし着崩れを指摘して直させるだろう。
そして状況からすれば、死にそうな所を助けてもらったことに感謝の言葉を言うだろうと思う。だが無理だった夢にまで見た鬼族との接触、自身のタイプを具現化した様な少女を前に私の頭はフリーズしていた。
「ふぇ!?わたくし美しくなんかッ...!」
自分の前で両手を振りながら少女は頬を朱に染めた。
「いえ、すみません。いきなり変なことを言ってしまって。ですが、あなたが美しいのは事実です。」
その言葉で少女は更に赤くなった。
私から目を逸らし首から下へと目を移した少女は、自身の着物が着崩れ肌が露出していることに気がついた。慌てて私に背を向けて着崩れを直した。
「こ...これはお見苦しい物をお見せしてしまいました!申し訳ありません!」
少女は土下座をする勢いである。
「待ってください!今回の件は私が非難されても、あなたには何一つ汚点はありません!私こそ早く教えるべきでした。見惚れてしまい気がつかず申し訳ありません!」
お互いに謝り出しお互いに止める。そのやり取りはいつしか二人の間に笑いをもたらした。
「では、今回はお互い悪いと言うことで収めましょう。」
少女は笑顔で許してくれた。
「はい、でもお礼をまだ言っていません。川に流された私を...人間種にもかかわらず助けていただきありがとうございます。このご恩一生忘れません。」
私は命の恩人である少女に深く頭を下げた。
「気にしないでください。それに私達鬼族も人間種全てが悪いとなど思っていません。力に溺れた一握りが悪いのです。」
鬼族である少女は優しく言ってくれた。
そのことが私には申し訳なかった。
「ですが...騙された人間種は無罪とは言えません。」
「あなた様はとてもお優しい方なのですね。私すら受け入れてくれるかもしれませんね。」
その瞳には言葉に反し絶望しかなかった。
こんな少女がして良い瞳では無い。そう思い話を再開する。
「自己紹介が遅れてすみません。私は不知火 マサノリと言います。人間種です。鬼族については色々と調べていたので、お会いできて光栄です。」
そう言い頭を少女に下げた。
少女は慌てて正座から土下座を始める。
「これはご丁寧に! 私は月下楼 菊乃と申します。よろしくお願します。」
「月下楼...」
私はその名前を蔵の文献で何度か目にしている。
私がその名を口にすると目に見えて少女の雰囲気は暗くなった。
「ご存知のようですね。たしかに月下楼は黒鬼に与えられる名です。私は化け物と言われている黒鬼の生き残りです。」
少女、いや菊乃は自称気味に言い放つ。少し私を盗み見て更に落ち込み出した。自分は受け入れてもらえない存在であると認識してしまったのだろう。しかし私は興奮していた。
「本当にあなたが黒鬼なのですか?」
私は確認のため聞き直す。
「はい...」
菊乃は力なく答えた。その表情はやはり暗く沈んでいる。
しかしながら私は歓喜していた。
「それにしても...本当に黒鬼に会えるとは、しかも命まで救ってもらっている。私はとても幸運だ。」
私の言葉に菊乃はこれまでの絶望した表情ではなく、驚愕した表情に変わった。そして菊乃は目を見開いて言った。
「あなた様は私達黒鬼が化け物と呼ばれている事を知っていますか?血を啜り、殺し、壊す。それが私達黒鬼です。
血を求めて暴走をした事で同族からも化け物扱いです。最厄を運ぶと呼ばれる程に。それでも...それでもあなたは!私と会えた事を幸せと呼べますか!」
後半には少しだけ怒気を感じた。菊乃のことを考えず発した言葉が菊乃を傷つけてしまった事実を理解する。
だから力強く、自身の言葉を放つ。
「幸せですとも!文献や壁画では鬼術の禁忌である"鬼魂混合"まで使い同族を助けたとされていました。最後まで戦い抜いた誇り高き黒鬼。私は黒鬼に憧れた。自分の信念のため自身が化け物と化すことすら厭わず、結果守り抜いた。私も黒鬼のような男になりたいと心から思った!
だから、あなたに会えた事は私の中では最上の幸運だと断言出る。」
私の力説を見て、聞いて、感じて菊乃は涙を浮かべつつも笑顔で言った。
「あなた様は変わっていますね。...そんな事言われてはもう、あなた様無しでは生きていける自信はありませんよ。責任とって下さいますか...」
その表情に遊びや戯れなど一切ない。
私は真剣に彼女に聞き返す。
「責任とは?」
正直、菊乃の言葉に理解は追い付いていなかった。
菊乃は顔お赤らめ上目遣いで真っ直ぐに私を見て言い放つ。
「私をあなた様の伴侶にしていただきのです。
やはり...こんな化け物ではダメでしょうか...」
意志を伝え終えた彼女の表情には、やはり諦めと絶望が見える。
その表情をなんとかしたいと私は強く思う。
「いえ、ただ私などでは君に釣り合わないのでは無いかと思ってしまっていただけです。本当に私で良いのでしょうか。」
これが私の本心だ。
私は妹以外に女性とはあまり関わって来なかった。
たまに妹と一緒に来た友達と話す程度である。要するに男としての自信は一切無いのである。
「私はあなた様が良いのです。化け物である私すらも受け入れて下さる、あなた様の...いえ、マサノリ様の妻としてお側に置いて頂きたいのです。どうかお願いいたします。」
菊乃は正座から頭を下げてまで私が良いと言ってくれた。
自信は無くともここまで必要とされれば、全力で応えたくなるものである
「分かりました。こちらこそよろしくお願します。
菊乃と呼んでも良いかな?」
「はい!わたくしもマサノリ様と呼ばせていただきたく存じます。」
少しだけ砕けた口調で話を切り出す。これは私から菊乃を心から受け入れると言う意識表示である。
「実は一目惚れだったんです。この様な素敵な女性と巡り会えたら良いと...そうしたらその理想の女性から結婚して欲しいと言われてしまった。本当に菊乃は私を幸せにしてくれる。ありがとう、そして一生をかけて君を愛するよ。」
キザな台詞であるがこれが私の本心である。
「はい、一生何処へなりともお供いたします。マサノリ様の障害は全て、わたくしが壊します!...だから永久にマサノリ様だけの菊乃として愛して下されば至上の喜びです。」
そう言う彼女の目からは黒い何かを感じた。これ程までに愛してくれる女性はいないだろう。だから私も全てを菊乃へ捧げて生きようと決めた。
歪なまでの愛を互いに捧げる夫婦が誕生した。
ハーレム要素は多分ないかなぁ
菊乃を
愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して
行くと思う!