表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/125

09.隠滅の方法

 それは置いておいて、と一番肝心な部分を早々にすっ飛ばす気満々のブルーノは口を固く引き結びながらも問う。猜疑心のたっぷりと詰まった、明らかにルーファスその人をまるで信用していないような声音で。


「まさかルーファスさん、帝国と関わりがある訳じゃないですよね?」

「えー、僕がかい? んー、無いねぇ。大体、帝国に関わって僕に何かメリットがあるのかい?」

「そりゃ俺が聞きたいんですけど」

「君は馬鹿ではないからね。理由も何も思い付かないって事は、きっと無いって事なんじゃないかい」


 薄く笑うルーファスの表情から、真意は窺えない。何というか、嘘を吐いているようでもありその逆、真実を話しているようでもある。彼から情報を引き出すのはきっと難しい。

 そういえば君、とブルーノが考え込んでいる隙に賢者の興味は吸血鬼に向けられたようだ。面白そうに目を細めたルーファスは、聞いているのかいないのかも分からないチェスターに話を続ける。


「どこかで会った事無いかい? 例えばそう、『真夜中の館』とかで」

「……何故そう思う?」


 図星を指されたからか、僅かにチェスターの顔が引きつった。当然、そんな挙動をルーファスが見逃すはずもない。してやったり、底意地の悪い笑みに変わった彼は答え合わせの言葉を紡いだ。


「ああやっぱり! 僕、ちょっと君の叔父さんに世話になった事があってね。そう、名前は確かフィリップ殿だったかなあ。彼、元気かい?」

「……まあ、生きてはいるだろうが」

「ドライだなあ。あーあ、『真夜中の館』がまだ真夜中ではなかった頃、あの頃のイアンはこんなに小さくて可愛かったのに」


 はあ? と、最早声に出してそう言ったチェスターが胡乱げな顔でイアンを見やる。その視線だけで何を言いたいのかが理解出来たのか、イアンは眉根を寄せて首を横に振った。


「真っ向から否定する事は……出来ないでしょうね」

「馬鹿な。『真夜中の館』がただの館だった頃など、50年以上も昔の話だぞ。貴様、本当に人間か?」


 人間とそれ以外を分ける時、最も区別を付けやすいのは年齢だ。人間の寿命は短い。100年弱程度であるのに比べ、伝承種の平均寿命は当然の如く三桁台。つまり、年齢とは人間とそれ以外を隔てる為の、非常に分かりやすい区別と言える。

 更にそこを掘り下げようとしたであろうチェスターを遮るように、ルーファスは大あくびをした後にくるりを背を向けた。


「何だか疲れちゃったなあ、僕も歳かもしれないよ。お邪魔したね、また今度。施設の破壊活動、頑張ってね」

「あ、おい、ちょっと待て――」


 チェスターの制止の声も聞かず、賢者は来たドアからそのまま出て行った。あの先は行き止まりであった気がするのだが。

 その背を見送ったブルーノが小さく鼻を鳴らす。


「あまり気にしない方が良いだろうよ。出任せの可能性も高い」

「だがブルーノ、イアンは記憶喪失とかいう忘れられがちな特性を持ってただろ?」

「あー、まあ、その辺も調べてからかってるかもしれねぇ。正直、あの人の言う事はいまいち信用出来ないんだよな……」


 ジャックは心中で頷いた。いろいろ御託を並べてみたが、確かにブルーノが口にしたルーファスのイメージ像は間違っていない気がする。


 既にルーファスの事などどうでもよくなったのか、考えても無意味と思ったのか、イアンが速やかに話題を変えた。


「これからどうしますか? 施設に火でも放ちますか?」

「もうやってる事が盗賊の所業なんだよな」

「盗賊もクソもありません。二度手間だけはごめんなので、早急に決めて頂けますか」


 文句らしい言葉を口にしてしまったが、恐らく自分が決める事では無いだろうとその他の面々を見る。ジャックはここへ身体検査をしに来ただけなので、目標を達成した以上、その後はこの施設がどうなろうと口を出すつもりは無かった。

 渋い顔をしているであろうブルーノは低く唸ると首を横に振る。仕方ない、という諦めのニュアンスだ。


「本当はこういう事をするべきじゃねぇんだろうが……。仕方ない。証拠隠滅といくか。人間の英知を燃やし尽くすのは、まあ、気が引けるが」

「そうか。では火種を用意せねば」

「お前さっきから放火する事に意欲的すぎるだろ……」


 何故かブルーノ以上に施設へ火を放つ気満々のチェスター。正直ドン引きしたが、イアンも似たようなものだったので口を噤んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ