解決編
先輩を連れて向かった先は、赤芽古書店。
俺のバイト先だ。
つまり、再び舞い戻ったことになる。
幸い、彩奈さんはまだ店を閉めていなかったのですぐに店へと入る。
「い、いらっしゃい……って兎双君。よかった、戻って来てくれたんだね」
「ただいま、えぇ。それでなんですけど――」
「はい、これ」
そう言って、彩奈さんが差し出したのは領収書だった。
宛名を見るに、間違いなく先輩の探しているものだろう。
「おぉ!? 本当にあった!! 助かったよ、兎亀先生!! 店主さん!!」
彼女はそう言って、店を飛び出し学校へと向かう。
壁にかけられている時計を見ると、下校時間ギリギリだ。
「それにしても彩奈さん、よく気づきましたね。領収書のありか」
「えぇ、兎双君たちが出て言った後すぐ気づいたんです。本の間に挟まっているんじゃないかって」
そう彼女の言う通り、領収書はきっと本に挟まっていたはずだ。
姫滝桃花は立ち読みの常連だ。
立ったまま本を読破するというのは中々に根気がいることだ。
ならばどうするかと問われれば、解決方法は簡単であり、彼女は数回に分けてその本を読むことを決める。
そうなると必然的に必要なものがある。
栞だ。
ページ数を覚えたり、ドッグイヤーを栞代わりにする人もいるかもしれないが部室のあのメモの数を見るに彼女はあまり物覚えがいいとは思えないし、その本はそもそも売り物だ。
だからこそ、彼女は栞代わりにレシートを使った。
財布にある大量のレシートからして、普段から栞代わりに使っていたかもしれない。
だからこそ、癖で財布に入れていた領収書を挟んでしまったのだろう。
もしその通りだとするならば、後は目的の本を探すだけだったのだが手間が省けた。
「流石ですね、兎亀先生」
俺は彼女をあえてそう呼んだ。
「い、いえ。今回は運がよかったと言いますが単に閃きとい言いますか……」
俺と彼女には二人だけの秘密がある。
「それに私が書いてるのはミステリーではなく、恋愛小説でして……」
高校生作家、兎亀。
その正体は、作家ではなくただの詐欺師だ。
俺の名前を盾に、彩奈さんの本は世に出回ってしまった。
兎亀のゴーストライター、浦亀彩奈。
いや、正確には違うか。
彩奈さんの代わりに表舞台に立つ身代わり、スケープゴート。
ゴーストライターならぬ、ゴースト作家。
それこそがこの俺の正体だ。