いつもの日
この作品を書くきっかけは何だったんですか?
『そうですね、お恥ずかしい話ではありますが私の初恋の話です。作品の中ほど甘酸っぱい経験ではないですけどね(笑)』
そこまで読んだところで、恥ずかしさに耐え切れず力任せにそのページを引きちぎった。
「あああああ、何でこんなこと言っちゃたかなぁ。俺!」
切り取られた雑誌には新進気鋭の高校生作家、兎亀うさかめ先生独占インタビューと銘打って大々的に自分の写真を載せられた俺がいた。
爆発的ヒットを生み出した作家、兎亀。その作品は少女の複雑な心境を描いた恋愛小説として世間に知れ渡った。
そしてその正体は若干16歳の高校生の男性。
雑誌メディアなどは動物園のパンダに丁度いいとばかり、その少年を取り上げ話題作りに東奔西走。
おかげで今ではちょっとした有名人になってしまった。
それが今の俺、兎双創代うそう つくよの現状であり、一般的に世間に知れ渡っている情報であった。
「創代君、その、商品を破るのは、えっと、その」
「あぁ、すみません。彩奈さん。ちょっと過去の自分の行いが酷くて我慢出来ませんでした」
おどおどした様子で叱責するのは、この古書店の店主である浦亀彩奈うらかめ あやな。
叱責といっても、言葉を続けるごとに尻すぼみになって最後の方はもはやなんと言っているか聞こえないレベルではあった。
自分はここでアルバイトをしている身であり、彼女は言うなれば上司なのだからもっと強気に出ても良いと思うのだが、彼女は引っ込み思案。今風の言葉ならばコミュニケーション障害である。
サイフから雑誌の代金をレジへと入れながら、ため息をつく。
学校も終わり真っすぐ店に来て、こうしてエプロンを付けて客を待っているのだが、今日も閑古鳥が鳴いている。
三日連続で客は来ず、閑古鳥が大合唱してもはや五月蠅いぐらいだろう。
さっさと店を畳んだ方がいいのではと、情がない合理的な考えが思い浮かぶがすぐに否定する。
所狭しと本が押し込まれ有象無象のジャンルが揃うこの古書店は、さながらここは年に二回、夏と冬に行われる祭りの会場のような場所だ。
そして少なからず俺はそんな古書店が好きだ。
なによりこの店をどうこう決める権限など俺にはないのだから。
「しかし、こうも客がいないと呼び込みなりした方がいいんじゃないですかね……」
「あ、えっと、お客さんいっぱい来られても困り……ます」
このままではいけないと思って、打開策を案じてみるが店主がこの通りなので何事も上手くはいかない。
彩奈さんが納得するような集客率を上げる方法はないかと策を案じ初めてすぐに、来店を知らせるベルが響いた。
当小説は思いついたネタを簡単にまとめたものです。