夫が甘すぎる
何となく生きる、それが私ルーシィ・フォン・アルテミス公爵令嬢16歳。
容姿は平凡そのもので、黒髪に黒目の童顔です。
私は事なかれ主義というやつで。
良く言えば手のかからない子、悪く言えば他人任せな子だ。
自分でも狡いなぁと思っている。
性格悪い事も自覚済みです。
でも今更どう仕様もなく決まってしまったことを白紙に戻してしまうことはできない。
「コホン、夫、デュラハン・マルクス・キンブリー。汝、ルーシィ・フォン・アルテミスを妻とし病める時も、健やかなる時も愛し合い、守り抜くことを誓いますか?」
「誓おう」
「では妻、ルーシィ・フォン・アルテミス。汝、デュラハン・マルクス・キンブリーを夫とし病める時も健やかなる時も愛し合い支える事を誓いますか?」
「、はい」
私、今、結婚します。
返事に間があるとか気にしないでくださいませ。
私は今日初めて会う方と結婚しました。
さして珍しい話ではない。
単純な政略結婚だ。
初めて会った私達に愛なんて無い。
お父様と相手の方で既に話は付いているので、私はただ大人しくしていれば良い。
愛は御伽噺で「それでは誓いの口付けを」え?そこまでするの?
フワッとベールが上げられて初めて夫となったデュラハン・マルクス・キンブリーの顔が見えた。
端正な顔立ち黄金色の髪と猛禽類の様な金の目に黒く焼けた肌、鍛え上げられた筋肉質な体に白いタキシードは少し窮屈そうだ。
「んッ」ちゅう
目が合った瞬間に持っていかれた私のファーストキス「ではここに2人を夫婦と認めます」イイ笑顔の相手を見て固まってしまう。
なお、速やかに牧師様が進行し、私はいつの間にか夫に抱き上げられて退場しました。
今思い出しましたが夫は軍人でした。
バリバリ現役で実力派の師団長様です。
素晴らしいお体です事。
披露宴も終わり、私は夫の屋敷に住むことになってます。
私は夫の部屋で寝る様で、夫婦だから当然と言えば当然なのか?
でも初対面でいきなりは……あぁ先程キスしましたね。
初夜です。
「ルーシィ、どうかしたか?」
「…いえ、デュラハン様。その、お伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「?いいけどよ、この体勢で待ては何だし手短にな」
この体制とは横になった私の上に夫がいる状態です。
ハッキリ言って一歩手前の状態で待てをしました。
だって聞きたかったんですもん。
「私達は夫婦となりましたが政略結婚ですよね。お互い初対面ですし……」
「まあな」
「お父様から聞いていた話では私はここに住み、貴方様の女避けになるだけで良いとの事だったのですが……私は今何故押し倒されているのでしょうか?」
お父様から聞いた話では夫は28歳そろそろ身を固めろと上司や親、親戚一同に急かされ、更に女遊びも激しかったから周囲の女性方がわれよわれよとヒートアップし一時は手がつけられないほどの状態だったとか。
そこで王弟のお父様が軍人の夫に目を付け年頃だった三女の私との政略結婚に持ち込んだとか。
王弟だから周囲は文句言えないし、夫も文句言えない。
でも、夫にはすごく申し訳なく思ってる。
夫は容姿端麗、長身で筋肉質な体で更には実積十二分です。
それがこんな平々凡々で童顔な私との結婚。
正直、放置されると思ってました。
仮面夫婦かと思ってました。
初夜すらなく部屋も別々で衣食住保証するから黙ってろだと考えてました。
「そりゃねェな」
「あれ?私 」
「声に出てたぞ」
「あっ(汗)」
冷や汗で脱兎のごとく逃げ出したい私にるんるんと獲物を追い詰めた様な金の目で迫ってくる夫。
「まぁ、最初はその気だったが」
「へ?」
「勿体ねぇと思ってな、せっかく年下の妻だし。今までに無いタイプだ」
「……ナンノコトデゴサイマショウ」
「普通は大喜びだろ。今をときめくイケメンで優秀な軍人と結婚とか」
自分で言った。
「それが、心底興味ありませんって顔で堂々バージンロードを歩いて、逆に隣に立ってた父君の方が動揺してたし」
お母様が反対してましたからね。
我が家の両親は恋愛結婚だから子供達もそうさせたかった様です。
まぁ実際双子の兄達も2人の姉も恋愛結婚しましたし、残りは私だけ。
万年新婚のアチアチな両親ですから、無理矢理押し進めた結婚にお母様の怒りが直撃しお父様の気が気じゃなかっただけで。
「ベール上げても動じないしよ、キスでやっと反応が返ってきた」
「、イエ ソンナコトハ(汗)」
「今も目を合わせようとしない」
見れませんよ。
だって夫は上半身裸で如何にもな雰囲気で色気ムンムンです。
「ーーお粗末な私は、お口に合わないかと」
「そりゃあ、喰ってみねえとなぁ?ほら、もうイイだろ」
「え?まっ「手短にって言ったろ」
ナァ?と小首を傾げるのは反則ではないですか?
追伸、激しく頂かれました。
そして結婚して一年たちました。
毎日玄関でお仕事に行くのを見送り、お迎えをするのが日課になり、社交界でもおしどり夫婦として有名になりましたが困った事が一つあります。
「お帰りなさいませ。デュラハン様、後生です」
「ただいま、ルーシィ?どうした?」
「私を抱き上げて移動しないでくださいませ」
「この方が良い」
私の目下悩みのタネ。
夫が私に甘すぎる事です。
勿論夫が好きですから嬉しいのですか……限度があると思います。
「ですから、常々申し上げますがーー
仕事はしっかりしてくださいませ。
私を抱き上げて移動しないでくださいませ。
食事の際に私を膝に乗せてしないでくださいませ。
更にはそのままあーんはやめてくださいませ。
ドレスを仕立てる際に一々休暇を取らなくてもいいですからね!
人前でキスをするのはやめてくださいませ!
あとーー」
「長ぇな」
「っ〜〜!!普通のことです!」
何食わぬ顔で悠々と聞き流す夫に私はタジタジです。
使用人達がスイスイっと進行方向の戸を開けてくれる。
「ルーシィ、今日はなんの日だ?」
「はい?え〜っと、」
あら?いつの間にかお庭にまで移動してましたか。
脚長いなぁ。
「今日は俺たちの結婚記念日だ」
「あぁ、そうでしたね。今日はデュラハン様の好きなお酒を用意しましたの」
「そうか、忘れたのかと思ったぜ」
「そんな訳ありませんよ」
実際、お見送りの後にメイド長に言われて思い出したから危うかったけど。
「朝、普通に送り出すから不安だったぜ。浮気でもしたのかとーー」
殺気を感じる、マズいスイッチだこれは。
「ルーシィ、カワイイ俺だけの妻」
今の時期、薔薇が満開に咲いています。
この庭は夫が私のために作り全て白薔薇で作られています。
私が白薔薇好きだとどこで知ったのやら。
庭師の方々毎日ご苦労様です。
「愛してる。お前だけだ。だからお前が他の男を見るならそいつはブチ殺す。逃げるなら動かない様に腱を切る。大丈夫だ、俺が抱える」
「ーーイツニナク ブッソウナ オハナシ デスネ」
夫は偶にこうなる。
厄介なことにこうなったら道は一つしかない。
余計なスイッチは押さない事、他を選ぶともれなく実行するから。
実行するとこは見たことありませんが目が本気なものでして。
「私の夫はデュラハン様だけです」
「ああ、ルーシィ最高だ。俺の女神」
キスの雨が降る。
だから、人前ではやめてください。
少し前まではこうではなかったのですが。
こうなってしまったのは何故かしら?
「知ってるか?今城下では薔薇に愛を誓い100本の薔薇の花束を渡して告白するらしい」
「まぁ、それは随分です事」
失敗したらどうするんだろう?
ただの痛い人になってないのか?
「だから俺は庭ごとやるよ。この庭は全てルーシィのものだ。愛するルーシィに永遠の愛を誓う」
「ッ〜〜!」
今私はゆでダコの様に真っ赤に違いない。
無駄にかっこいいんだよ夫は!
他にされたら引くけど夫なら許す!
夫は私の反応が嬉しいらしい上機嫌だ。
この顔を見られるのは恥ずかしい。
平々凡々なこの顔お背ける事が出来ない。
夫に抱き上げられて頬に手をあてられて固定されてるから逃げようも無い。
夫のこの顔はある事を待っている顔だ。
ちくしょう。
「、私も、愛、してる」ちゅ
私から夫に、そっとキスをしてそのまま肩に顔を埋める。
夫は満足した様で良かった。
そっと私の頭を撫でて頬擦りをしてる。
するとスタスタと室内に戻って側にいた執事に言った。
「夕飯いらないが軽食と妻が用意した酒を部屋で食う運んで人払いをしといてくれ」
「かしこまりました」
かしこまらない!ヤバいヤバい余計なスイッチ押しちゃった!
「デュラハン様!」
「朝までたっぷり楽しもうな?カワイイ俺のルーシィ」チュウ
このまま寝室まで連行されました。
「あぁ、俺明日休みだから昼過ぎまででもいいなァ」
「‼︎それは、死にます!ありとあらゆる意味で確実ににぃ〜〜!!」
抵抗も虚しく深く、激しく頂かれました。
ちなみに目が覚めたら左足に白薔薇をモチーフにしたゴールドのチェーンのアンクレットがつけられていました。
もしかしましたら続きます。