バレたらちっとヤバいかもしれん
――しばしのち
結局集まったのは、金貨4枚に銀貨12枚、銅貨14枚だ。
価値はどーなんだろーな?
……おっ?
再び精神を集中すると、また脳裏にデータが流れ込んできた。
どーやらたいていの国では、金貨1枚が銀貨10枚、そして銅貨1000枚に相当するらしい。それに加えて、白銅貨や青銅貨など幾つか補助的な通貨もあるようだな。ま、いくらか例外もあるようだが……
そしてほとんどの国の通貨単位はルピスというそーな。
どーやらかつて存在した古代帝国の時代の統一通貨の名称が、そのまま残ってるそーな。
ちなみに銅貨一枚で10ルピスとなるらしい。銅貨で10ルピスっつーコトは、1ルピス=1円ぐらいなのかねぇ? よーわからんケド。
そして集めた硬貨の価値は、合計で52140ルピスとなった。
そういや消滅させちまったリーダー格は、もっといーモン持ってたかもしれんね。少々もったいねェことしちまったか。
いや、それよりも重要なモノを見つけた。
革製の巾着袋から出てきた、一枚の紙切れだ。
コレは通行証だ。“翻訳”の呪文で、内容が理解できた。中原でよく使われているトゥラーン語で書かれているようだ。俺の持つトゥラーン語の言語スキルは2。これが3になれば読み書きが可能になるらしい。ま、しばらくは“翻訳”の呪文があるのでその辺の取得は後回しだな。
ま、それはさておき。
コレの持ち主は、シロンという街出身のラージュという名の商人らしい。
何でコイツらがこんなモノを持ってんのか?
まぁおそらくは、追剝ぎだろうな。
この商人は道中でこのゴブリンどもに襲われ、殺られた。そして、金目のモノを奪われ、死体はそこらに捨てられたんだろうーな。いや、喰われたんかもしれねぇ。
もし俺が無力な存在だったら、そいつと同じ目にあってたかもな。
…………
さて、どーすっかね。
よく考えりゃ、俺は通行手形すら持っていねぇ。っつーコトは、街に入ることすらできんかもしれんな。
……とりあえず、コレを使わせてもらうか。仇は討ったんだし、許してくれるだろうぜ。……多分。
「……さて、行くか」
俺は集めた皮袋や金貨をリュックに放り込むと、街道を目指して歩き始めた。
……とりあえず、初心者のうちは街道から外れて歩くのは自重しよう。
――ガルンダール街道
参道との分岐点脇にあった道標によれば、北のカデスまでは7ラン。南のアルタワールへは2ランとあった。
アカシックレコードによれば、1ランは約4kmに相当するそーな。っつーコトは、アルタワールまで約8kmってトコか。おそらく人の足なら二時間ほどの距離かな。
まぁ、歩けんコトのねぇ距離だが……疲れるな〜。
今はソコから一時間半ほど歩いたところナンだが……。
後三十分か……まだまだ長げぇヨ。
大体、この世界の景色は変化が無さすぎんだよナ。
森があったのだってあの神殿の周囲だけっぽいしな。ロクに大きな川もねぇし、山もねぇ。さすがの俺も、変化のない盆地の中をこんだけ歩かされりゃ〜飽きてもくるゼ。
っと、遠くにナ〜ンか見えたぞ。
ふーむ、城壁っぽい?
あ〜、もしかしてアレがアルタワールか。へぇ、意外と立派な城壁だな。
ゲームの設定を思い出す。
自治都市アルタワール。大陸中南部の独立都市国家群の一つで、大陸東部の大国ガンディール王国の友邦だったハズだ。この街の領主がセルキア神殿を管理してたんだっけ。
それと……確か、アルセス聖堂騎士団だっけ? そんな連中の拠点の一つがあったな。
そ〜いえばあの連中、異界人を敵視してたんだっけか? なら、バレねぇよーに気ィつけた方がいいな。
この服装のままじゃヤバいかもしれん。とりあえず、ゴブリンの巾着袋の中から出てきたマントを羽織って……
……って、ちっと臭ぇ。これじゃシラミやらダニやらがいるかもしんねェな。あんな連中が持ってたワケだし。
そんなら……
マントをまた皮袋に突っ込む。そして、
「“浄化”!」
袋ごと呪文をかけた。
僧侶系の上位呪文らしい。この世界でも、使い手は少ないそうだ。低レベルの俺が使えるのは、造物主サマの配慮であるらしい。
この点はありがたいねェ。
そしてまたマントを取り出してみる。臭いはほとんど消えてるよーだ。
……ふ〜む。大丈夫なようだな。ってか、外観だけはどうにもならねぇか……
マントは薄汚れ、アチコチ破れていた。血らしき黒ずんだシミもある。
まっ、いーか。旅の途中でゴブリンにでも襲われたとでも言やあいい。それに関してはウソにゃなんねぇ。
――アルタワール 北門
城壁には、これまた堅固そうな扉が備えられていた。
その前に、二人の衛兵。
現地人との初の接触か。
ふ〜む。一見したところは一応ヒトっぽい?
一安心、ではある。よー考えりゃあ、異世界の人間が地球のヒトとそっくりだという保証なんてないもんなー。まぁ、あのゲームそっくりの世界だから、多分大丈夫だとは思ってたケドさ。
さて、あの門番だが……
いわゆる板金鎧ってのをまとってる。
…門番にしちゃ立派な鎧だな。
銀色の、ちっとハデな鎧だ。バイザー付のメットに鉄板の胴。プレートアーマーっつーヤツだっけ?
気になる点があるとすりゃその胸だ。ナンか削り取られたよーな跡がある。
元々紋章みたいなモンでも付いてたんかもナ。どっかの騎士団か何かをヤメたんかねぇ?
とりあえず、アカシックレコードで確認だ。
意識を集中し……。
あー、わかった。あの二人は、バラハとヒラムという名らしい。能力値は、初期状態の俺よりも高い。ケッ……。
レベルは……出ねぇな。
そーいえば、造物主は『擬似的』とか言ってたナ。もしかしてレベルがあるのは俺だけなんかねェ?
スキルのレベルはある様だが。
それはそーと……どーやらこの連中は、元々アルセス聖堂騎士団の正騎士らしい。なにやら異界人討伐任務失敗が元で、従騎士に降格処分になったとか。
ちなみにアルセス聖堂騎士団とは、造物主に剣を捧げた僧侶兼修道士みたいな連中だ。いわゆるパラディン? あるいはテンプルナイトか。
神殿の警護や巡礼者の保護を行うとの名目で結成されたらしい。
ゲーム中では、神の名の下に異界人狩りを行なっていたな。
ちなみにこの門の警備は聖堂騎士団に委託されてるそーな。
げっ。俺のコトがバレたらちっとヤバいかもしれん。
けど、通らなきゃなんねェんだよな。今引き返して、変な疑い持たれてもツマんねぇし。
とりあえず、俺は何食わぬ顔で連中に近づいていく。
変にコソコソしてたら疑われるだけだしな。
ふむ。ずいぶんと彫りの深い顔だな。
ヨーロッパあるいは中近東のヒトっぽい?
それはともかく……
二人でぶつくさ話してて、気づきやしねぇ。明らかにやる気がなさそーだ。
ま、通してくれるんならどーでもいーか。
おっと。一応連中の言葉の意味も分かるな。ちゃんと翻訳されてるのか。とりあえず、一安心。
「すいません」
そのうちの一人に声をかけてみる。
「お、おう。すまな……」
衛兵は慌てて居住まいを正して俺を見……絶句した。もう一人の方も、俺を見て固まってる。
「な……なんスか?」
まさか、イキナリ異世界人ってコトがバレた!?
どーすべ? 逃げっか? それとも……
焦りつつも、極力顔に出さない。
「い……いや、すまない。え〜っと、知り合い……そう、知り合いと似てたんでな」
衛兵達は額の汗を拭うと、苦笑を浮かべた。
“知り合い”、ねェ。様子を見る限り、少なくともコイツらにとっちゃ友好的な相手じゃなさそーだ。興味はあるが、この門を通るのが先だ。
「それはそうと……通行希望のものだな? 身分証は持っているか?」
ようやく平静に戻った衛兵は、やっと自分の仕事にかかったよーだ。
「ちっと待ってください……」
巾着袋をまさぐる。
早速コイツが役に立ったか。
ン? そーいえば……
「あれ? ここって通行証がいるんでしたっけ?」
確かこの街だと、ガンディール王国方面からくる旅人は基本的にフリーパスだったよーな……
「すまんな。ガンディール王国が滅んで以来、治安が悪くてな」
へ? まさか東の大国、ガンディール王国が滅んだ?
西の大国であるルーミス共和国と並ぶ大国である。それが滅んでるってコトは何が起きてんだ?
アカシックレコードで確認。
やっぱり十年ほど前に滅んでやがる!? なんてこった、東の大国が……。
とりあえず、詳しいコトは後で調べるか。
「そ、そうなんですか……。あった。これです」
だが、極力顔には出さない。
平静を装い、先刻拾った通行証を見せる。
「ふむ。行商人か。商品などを持っているようには見えないが……」
「ええ。こちらに向かう途中にゴブリンの群れに襲われてしまいまして。なんとかうまく逃げ切ったんですが、商品はその時に」
荷物についてはテキトーなコトをフかしてみる。まっ、ゴブリンに襲われたのはホントだしねぇ。
ついでにこれみよがしに、ボロいマントを羽織り直す。
「そ、そうか。……そんな時で悪いが、一応規則なんでな。通行税を払ってもらわねばならん。1000ルピスだ」
「はい。これていいですか?」
1000ルピスっつーコトは、銀貨1枚だな。懐から銀貨を取り出し、渡す。チと痛いな。
「うむ。では……」
銀貨を受け取った衛兵は通行証にスタンプを押すと、俺に返した。どーやらコレで手続き終了らしい。
「ありがとうございます」
俺は礼を言い、門をくぐった。