とっとと出てきやがれ!
俺は神殿の通路を、出口を探しつつ歩いていた。
この神殿は、四角錐……っつーか、ピラミッド型の台の上に建てられているよーだ。
見下ろすと、石畳の道が遠方へと続いているのが見える。そこに降りる階段は……っと、あった。
一つの面の中央に、幅の広い階段があった。
その階段を下り……ン? ナンだこの穴。
階段を下りきったところに窪みがある。何か落ちてきたんかな?
あ〜そういやゲームじゃこの神殿、何故か途中で破壊されるんだよな。ッつーコトは、そん時に出来た穴かねぇ?
……まっ、いーか。
とりあえずこの石畳の道を歩いていけば、アルタワールとカデスを結ぶ街道に出るだろう。
と、しばらく行ったところに、二本の柱が立っていた。その間を石畳の道が抜けている。
ど〜やらコレは鳥居みたいなモノらしーな。
それをくぐり、さらに先へ。
……おっと。すぐそこに川が見えるな。ヤツが言ってたのだな。
石畳の道を外れて近寄ると、綺麗な透き通った水が流れているのが見えた。
あの神殿が健在だった頃なら、もしかしたら神殿勤めの巫女なんかが水浴びしてたりするんかな?
う〜む、破壊されてしまったのが惜しまれる所だ。
あーそういえば、水を飲まなきゃな。HPとMPがある程度回復するみたいだし。
河原に下りて、流れに近づく。
そしてそっと手で水をすくった。
冷てぇ。それに、ずいぶんきれーな水だ。十分飲めそうだな。
万一生水に当たっても、治癒魔法でなんとかなるだろーし。
それを口に含んで見る。
……美味い。
タダの水がこんなに美味いとは。
ミネラルウォーター買うヤツ少々小馬鹿にしてたケド、やっぱ本当に美味い水は違うんかねぇ?
おっと、ナンか身体が……
身体の奥から力が湧いてくるようだ。
そうだ。ステイタスは……
MPが全快してるな。
ふ〜む、この辺りで経験値稼ぎするのも一つの手か?
などと考えてると、あるモノが目に入った。
ナンか落ちてんな。小さめの三日月刀か? かなりサビちまってっケド……
それがなけりゃ、サブウェポンにでも丁度いいんだがな〜。
まっ、そんなイイ武器がそこらに落ちてる訳はねェよな。
おっと、サーベルの元になったヤツよりもひと回りくらい小さなナタもある。これまたサビてんな。
って……ここで一体ナニがあったんだ?
慌てて周囲を見回す。
と、川のすぐそばにある茂みの所に、何か白いモノが幾つも落ちているのが見えた。
行ってみるか。
側によって、ソレをよく見る。
「ナンだこりゃ? って骨かよ!」
肋骨っぽいのやら、肩甲骨っぽいの腕や脚のものっぽい細長い骨。バラバラの骨が散らばっていた。
元の動物は……そんなに大きいヤツじゃないな。せいぜい大型犬やら羊やらぐらいか?
……この世界にそんなんがいるかはともかくとして。
骨をよく見ると、他の動物にかじられたっぽい跡がある。それでバラバラになっちまってんな。
にしても、シミターやナタとの関係は……って、
「……ン?」
ふと視線を巡らすと、小さな骨の塊が見つかった。それは元の形状を保っている様だ。それには細く長い五本の指が付いて……って。
「うげっ!?」
に……人間の手か!? つまりコレらは人骨?
思わず飛び退る。
オイオイ、まさかココでモンスターに襲われて、殺されちまったとか?
いや……それにしちゃ小さいか? 子供? いや……指先にもカギ爪っぽいのがついてるしな。
ふ〜む、ゴブリンか何かか?
“識別”の結果は……グレムリンか。ゴブリンの亜種だそーな。
神殿のすぐそばで、いきなりモンスターが出没するのかよ。
まっ……まぁ、コイツらは死んでるから脅威にはならねぇが……。
ケド、どのみちココにはコイツらをヤった奴が現れたっつーコトだよな?
人間ならまだいーケド、もっと強力なモンスターだったらマズいな。
……ヤッパ早いトコここから離れた方が良さそーだな。ココでの経験値稼ぎはもっとレベルアップしてからにしよう。
俺は慌ててそこから立ち去る事にした。
――数分後
俺は神殿につながる参道を歩いていた。
もうしばらく行けば、大陸南東部から城塞都市カデスへと向かうガルンダール街道との合流点へと達するはずだろう。
そしてそこから道なりに南へと向かうと、アルタワールへと到達する。
どれぐらいかかるんかな? ゲーム上のマップだと、セルキア神殿はアルタワールにかなり近かったはずだ。カデスとの距離の半分以下だっけか。
ゲームのマップがデフォルメとかされてなきゃだけどな。
……おっ、何か見えてきたぞ。
森が途切れがちになり、視界が開けた。そして今歩いている参道と合流する、別の道が見えた。
どーやらアレがガルンダール街道らしいな。
ヨシ、ショートカットだ。
同じよーに街道をそれて歩いたと思しき足跡もあるしな。
まっ、異世界人でも考えるコトは一緒か。
俺は街道をそれて歩き始めた。
――数分後
足元で何か“イヤ”な感覚があった。
と、同時に右足に違和感。
妙に地面が柔らけェ。少し沈み込んだよーな……って、落とし穴かヨ!?
「おっとォ!」
左足で慌ててジャンプ。無事着地した。
直後、右足のあった地面は崩れ落ち、ぽっかりと穴が空いた。穴の底に見えるのは、先端を尖らせた、木の杭。
あ、危ねぇ……。早速危険感知スキルが役に立ったか。
ケド、まだイヤな感覚は消えねェ。
つまり、俺が罠にかかるのを待ってたヤツがいるってワケだ。
まだ何か……うおっ!?
何かが俺に向かって飛んでくる。
「!」
慌ててソレを、身をすくめてかわした。
石か……。結構デカい。
まともに喰らえば大ケガだな。
チッ……
石が飛んできた方には、小さな藪があり、その中に“何か”の気配を感じた。
「とっとと出てきやがれ!」
俺はソイツらに声を荒げ、サーベルを構える。
「ケケ……イゲゲ」
と、妙な声が聞こえた。
十メートル程離れた藪の中から、なにやら妙ちくりんな小人らしきモノの集団が飛び出し、こちらへと向かってくる。
黄褐色の肌をした、小さな人型のモノ。ぎょろりとした大きな目と鷲鼻。尖った耳。指先のカギ爪。猿みたいな体つき。よくあるゲームで言えば……ゴブリンっぽい? いや、さっきはグレムリンの骨が落ちてたよな。そっちか?
「アイツラは……」
半眼になり、精神を集中。アカシックレコードで照合だ。
と、脳内にヤツらのデータが流れ込んでくる。それは……
「……やっぱゴブリンかよ」
黒妖精の亜種。いわば、闇妖精あるいは邪妖精とでもいうべき連中だ。
廃坑などにねぐらを作り、生活しているという。その性格は狡猾かつ邪悪。人間や他種族に対する憎悪で支配された連中とのことだ。
なら、倒しちまっても問題ねぇな。実戦慣れもしておかんとな。
俺は近くにあった大木まで走ると、それを背に身構える。
時を同じくして、ゴブリン連中が俺を取り囲んだ。
総勢九体。
五体の獲物は棍棒。素材は木の棒やら骨やらまちまちだ。釘みてーなモノ打ち込んだのもありやがる。もう一体も棍棒だが、他の連中のものに比べて細く、長い。杖かもしれねェな。ゲームなんかじゃクォータースタッフっていうヤツか? そういえば、腰から皮ヒモのよーなモノを下げてんのもいるな。スリングだっけ? 石を投げたのはヤツか。二体は短めの三日月刀。残る一体は斧か。コイツは、他と比べて身体が一回りデカイ。ヤツがリーダーっぽいな。ゴブリンキングってトコか?
さて、と……いよいよ本格的な実戦か。
俺は不安と、奇妙な高揚感を覚えていた。