モブに徹してやり過ごすか
――ガルンダール街道
太陽は中天にかかり、容赦なく地上を照らしていた。
その中を歩く影二つ。
俺とエスリーンだ。
「……後どれぐらいだろーな」
額の汗をぬぐい、前方へと目を凝らす。この先にあるのは都市国家アルタワール。もーしばらく行けば、その威容が姿を表すハズだ。
「もう1ラン(約4km)もないぐらいね」
前方へと目を凝らすエスリーン。“遠見”の呪文を使っているらしい。
四キロか……
「見える?」
「ええ」
確かヒトの身長だと、地平線や水平線までの距離は4キロぐらいなんだっけ? でもこの辺りは盆地っぽいんで、その限りじゃないが。
実際、見える空と地上の境界は、かなり高い位置にある。……というか、ほとんどぼやけて見えん。この盆地、どんだけ広いんだろーな……。
まぁ、大陸だしな。山が多い日本とは違う。
……って、いや待て。
そーいやこの世界ってどーいう構造になってんだ? ゲーム上じゃ上下左右が繋がった、よくあるコンピュータRPGっぽいマップだったケド……。
エスリーンに聞いてまたイナカモン扱いされんのもシャクだ。明日の朝にでもリラに聞いてみるか。
……聞けりゃーいーケドな。ま〜たあんなコトされたら、理性が保てる自信がねェ。
――アルタワール南門
約一時間ほど歩いて、俺達は城壁までたどり着いた。
見えてるのになかなか近づかねぇってのは、二度目ながら少々イラつく。
まっ、コレも慣れかねェ?
さて……腹も減ったし、中に入ったら飯でも食うか。
……ン? 何やら城門内が騒がしい?
見ると、アルセス聖堂騎士団の連中と衛兵が何やらモメてやがる。
騎士団の連中は、早く通せだのなんだの言っているよーだ。一方衛兵達は順番を守れと主張してるナ。
まー順番守らんDQNはドコにでもいるんだな。
騎士団連中にとっちゃあ緊急時なんだろーケドさ。
俺達は列んで手続きを待ちつつ、連中の声に耳をすませる。
どーやらリシュートに駐屯している騎士団の連中に何かあったので、増援として向かう様だ。
まーほとんど壊滅しちまったワケだが。残っているのはおそらく、俺が治癒魔法をかけたヤツ二、三人ぐらいかねぇ? そーいや対フィルズ・ロスタミ戦で二人ほどヤツに喰われちまってたっけ? もしかしたらソイツらかもしれんか。
……とかやってるうちに、連中の順番が来た様だ。
手続き自体は短時間で終わった。何やら捨て台詞を残して騎士団連中が門から出てくる。
「……ん?」
見知った顔があった。北門にいた二人の左遷騎士どもだ。バラハとヒラムだっけ。俺が初めて見た異世界人だったか。
すぐさま視線を外す。
見咎められたらヤバいかもしれん。
モブに徹してやり過ごすか。
……と思っていたワケだが、
「……おい、そこの」
「……へ?」
努力もムナしく、声をかけられる。
「え? ……俺?」
見上げると、一人の騎士が俺を見下ろしていた。左遷騎士二人とは違った、それなりに強そーなヤツだ。顔は……知らんな。
へ? ナンで? アンタとは顔見知りになった覚えはねェよ?
「いや……違うか」
と、独語。
人違いかよ! 傍迷惑な!
「え? ……あの時の」
って、あの二人にまで気づかれたじゃねーか!
「ほう? 知っているのか?」
先刻の騎士が、左遷騎士どもに問う。
オイオイオイ……
が、ちょうどその時俺達の順番が回って来たので、彼らの前から退散するコトが出来た。
これはラッキー。
――門内
やーれやれ危なかったゼ。根掘り葉掘り聞かれんでよかった。まっ、あの二人に顔見られたのは少々マズったかもしれんケド、所詮左遷されたヤツらだ。ヘンなコトにゃならねェだろーさ。多分。
「騎士団に知り合いがいるの?」
と、エスリーン。
騎士団連中にはアレルギーがあるか。まっ、トーゼンだな。
「んー、知り合いってー程じゃねェケドさ。この街にやって来たトキに、門番やってたヤツとね」
「門番……北門の方ね」
「おう。で、リラ探しの最中にも、その行方を聞いたりしたしな。でも、それぐらいだぜ?」
「そうだったの……」
エスリーンは納得した様だ。
「それよりさ……どっかで飯食おうぜ。朝から歩き詰めで腹減っちまってさ」
「賛成!」
決まれば話は早い。俺達はテキトーな飯屋を探すコトにした。
――神殿通りの大樹亭
ココは、ネヴィラーム神殿と領主の館を結ぶ、神殿通りに面した店。
そして……ラバンことフィルズ・ロスタミが常宿としていた場所だ。
ヤツの足跡を辿るにゃあ、ここで聞き込みをするのが手っ取り早ェ。
ちなみに前を通りかかるまで存在を忘れてたのはナイショだ。
さ〜て、美味そーな羊肉のシチューを食べながら情報収集だ。
丁度いいコトに、昼時をやや過ぎているので客はほとんどいねェしナ。
「なーオバチャン。そーいやこの店に強そーな傭兵が泊まってたよね?」
「ああ。ラバンさんかい?」
おっ、いきなりそーきたか。
「えーと、確かそんな名前。確か痩せてて髭生やした人だったケド」
「ああ。そのヒトなら、この間までウチに泊まってたよ。何か用でもあるのかい?」
「用ってワケじゃないけどさ……。知り合いの傭兵が、この店に強い傭兵が泊まってるとかいってたんで、どんなヒトかな〜と。俺も一応傭兵なんで」
「へぇ……」
オバチャンは少し意外そーな目で俺を見る。
ハイハイわかってますって。頼りなさそーってェのは。
「そうねぇ……四日前までここに泊まってたんだけどね。ああ、そういえばおとつい、一度帰って来たけど、止まらずに何処かに行ったのよねぇ。その時は、ずいぶんやつれてたし、何かあったみたいなんだけどねぇ」
「へぇ……」
ヤッパシ一度帰ってきたんだ。フレッシュゴーレムの残骸手に入れたのは、そんトキなんかねェ?
まぁ、イイや。
その後、イロイロ聞いてみたが、めぼしい情報はナシ。
とりあえず、コンなトコかね?
さて、メシも食ったしな。後は一度“金の鸚鵡亭”に荷物置いて、ハルジーのオッサンの所に顔を出すか。
・人物、用語など
仁木壮介(ソースケ)
主人公。地球では高校生であった。現実に飽々していたある日、駅前で占い師に声をかけられ、異世界へと赴く。彼からは、人知を超えた“力”を与えられている。
エスリーン
ヒロイン。突如現れた男、フィルズ・ロスタミに父親を殺された少女。父の転移呪文によって何を逃れるが、その際、父の使い魔のリラと融合してしまう。そのため、猫と人とのキメラ状態になっている。
リラ
エスリーンの父の使い魔。エスリーンと融合中。エスリーンの意識が眠っている時に、その意識が現れる。
バラハ
アルセス聖堂騎士団所属の騎士。当時の駐屯地隊長とともに異界人狩りに向かうも敗北。そのため左遷され、アルタワール北門の門番をしていた。
ヒラム
バラハの同僚。同様に左遷されていた。
フィルズ・ロスタミ(ラバン)
故人。アルセス聖堂騎士団の元副隊長。エスリーンの父の仇。壮介とエスリーンによって討たれる。




