カクゴ決めるしかねェ
ゆっくりとした動きで、ガーゴイルが俺に迫る。
「ふん……」
俺は冷や汗を拭ってひとつ深呼吸。そして両手でサーベルを持ち、中段に構えた。
小学校の頃やってた剣道の構えだ。段にもなって無ェけどな。まッ、そンでも何もやってねェよりゃマシだろさ。
と、俺が構えるのを待っていたのかのように、ヤツが動いた。
ツメを振りかざし、俺に襲いかかる。
「うをッ⁉︎ 危ねっ!」
横っ飛びでツメの一撃を避けた。身長に比べて腕が長いから、思いの他リーチがあんな。要注意だ……って、オットぉ⁉︎
さらにもう一撃がくる。
「チィッ!」
頭を狙った攻撃。慌てて首をすくめてかわす。
……が、
「痛ェ!」
かすかな痛み。数本の髪が宙に舞った。
額に垂れる、生暖かい液体。
左手でそれを拭ってみる。赤く、ドロリとした生暖かい液体。血だ。
そうだ。これはリアルな戦いだ。ゲームじゃねェ。下手すりゃ、死ぬ。
どっと汗が吹き出る。
だが、もう後戻り出来ねェんだ。カクゴ決めるしかねェ。
こンのヤロォー……。
血をぬぐい、ヤツにガン飛ばしてやる。
が、ヤツは俺を見、牙をむき出してゴボゴボと音を立てた。……嗤いやがった、のか?
ケッ……だが、今度は俺の番だ!
「イイ気になってんじゃねぇヨ!」
サーベルを構え、一気に突っ込む。
「うらァ!」
俺につかみかかろうとするガーゴイルの腕を身をすくめてかわすと、一気にサーベルをカチ上げた。
命中。
強烈な手応えとともにその右腕が切り飛ばされ、ズシンという音とともに地面に落ちた。
「オシッ!」
つるりとした断面。凄ェ斬れ味だ。
いけるぜっ! 間髪入れずにもう一発だ!
「オラァ……面ッ!」
上段からの打ち下ろし。
頭には届かなかったものの、今度はガードした左手を叩き斬る。
再び腕が転がった。
おっしゃ。さらにもう一丁! 踏み込むと、胴を打つ。
両断、はできねェか。チッ! 途中で刃が止まっちまった。
引き抜いて……
「!」
抜けねェ⁉︎ しまった!
思わず力任せに引き抜こうとしてしまった。が、それが隙になる。
ヤツは手首から先のない左腕を叩きつけてきやがった。
「ンがっ⁉︎」
頭に一撃をくらい、一瞬意識がトぶ。
しかしそン時……脳の中で“何か”が動き出した感覚があった。
なんじゃこりゃ?
一瞬の忘我。
倒れそうになる。が、俺はなんとか踏みとどまった。
とはいえ俺のサーベルは、今ガーゴイルの腹にある。
つまり、丸腰ってぇワケだ。
だが、先刻アイツは『素手でも戦えるだけの力はある』とか言ってたな。そんなら、試してやろうじゃねぇか。
さっきの感覚。アレはヤツの言ってたモノなのかもしれん。
拳を握りしめ、先刻“何か”が動き出した場所に意識を集中させる。
と、眉間のあたりに妙な感覚が現れた。かすかな温かみを感じる、何かの“塊”のようだ。
おおっ、当たりだゼ!
そしてそれは、拳へと流れ込んでいった。
と、拳がかすかに光る。
おっ、こりゃすげェ。MODのせいなんだろーか? よくわかんねーケド、“力”を感じる。やれっか⁉︎
と、再び殴りかかってくるガーゴイル。
しかしその動きは良く“見え”た。
俺はスウェーで軽くそれをかわすと、一気に懐に飛び込む。
そして、
「ぅヲラァ!」
胸の真ん中あたりをブン殴ってヤった。
ここは、蜘蛛の巣状に破片同士の接合面が集中する場所。一見完全に復元された様にも見えるが、石と石の接合面が、うっすらと筋になって見えていたのだ。
これも、頭の中の“何か”が動き出したあたりから“見え”る様になった。
もしかしてコイツは以前、この場所に攻撃を食らって破壊されたのかもしれねぇ。多分、ヤツの中じゃ一番モロい場所だろう。
思った通り、俺の拳はガーゴイルの胸に半ばまで埋まりこんでいだ。
その直後、ヤツはその動きを止める。
ただの石像にもっどってしまった様にも見える。先刻まで動いていたのが嘘の様だ。
そして、胸を中心に亀裂が広がっていき、やがては崩れ落ちる。ガーゴイルはまた、元の残骸へと戻っていった。
その中で、サーベルの刀身が煌めいている。
たいしたモンだ。石に斬り込んでも刃こぼれした様子は無ぇ。
あれを拾っとかんと……
近付こうとし、足を止める。
よく見たら、残骸の中から白っぽいモノが突き出てる。その形は……
……骨?
うげっ。ヤられらたら食われちまってたのか?
いや……考えないようにしよう。今からヤられた時のコトを考えてどうするよ。
それはそうと、もうヤツは完全に沈黙したよーだ。これで終わりだな。
「やったぜ……」
俺は安堵の息を吐くと、サーベルを拾い上げようとし……
「ンぐっ!」
膝を折った。
全身の脱力感。頭の傷口と叩きつけた右の拳の痛み。
クソッ、かなりやられちまたか……
と、その時、またスマホが鳴った。
左手でそれを取り出すと、応答した。
『お見事。期待以上だよ』
「そりゃどーも。ちっとやられちまったけどね……」
『それは仕方がない。……そうだな。先刻、魔力の扱いにも成功したようだな』
魔力? ……そんなンあったっけか?
あーそういえば、さっきナンかの“力”を感じたな……。アレか。
「あの、拳の光かい?」
『そうだ。頭の中の“魔力回路”が目覚めたのさ。これの扱い方を覚えれば、魔法を使う事が出来るのさ。しかし今の君は、まだその扱い方を知らない。魔力塊をストレートに叩きつけたんで、君の身体からは魔力の大半が失われてしまっているのさ。今君は、脱力感に襲われているだろう?』
「ああ」
カッタルくてしょーがねぇ。
『その“力”の使い方を教えよう。それで、傷をふさぐことができる』
「へぇ……回復魔法ってぇヤツかい?」
『その通り。では……今から君の脳に扱い方をダウンロードする』
「ダウンロード? ……って、痛ェ!」
アタマんナカに急激に情報が流れこんでくる。脳内に灼熱の棒を突っ込まれ、カキ回されてるよーな感じだ。
「ぐっ……あぁっ!」
俺は頭を抱え、またしても膝を折った。