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ホントに異世界に来ちまった?

――しばしのち

 ゆっくりと視界が晴れていく。


「……ん? どーなったんだ?」


 気がついた時、俺は見知らぬ場所に立ち尽くしていた。

 え? オイ、まさか……

 慌てて周囲を見回す。

 目に入るのは、石造りの柱と、崩れた石壁、そして崩落した天井だ。

 なにやら残った壁に女神らしき絵が描かれているところを見ると、どうやらココは神殿か何かの遺跡のよーだな。


「へぇ……」


 あの占い師が言ってたよーに、ココはあのゲームみてェな世界なんかな? まっ、少なくともさっきまでいたところにゃこんな建物はなかったしな。

 遠方へと目をやると、鬱蒼と茂る森と、平原。そしてその遠方の山々が見える。おそらくここは盆地の中の、小高い場所のよーだ。

 見渡す限り、人が住んでそーな建物どころか、舗装された道路すら無ぇ。

 そういえば、空気も澄んでるな。きっと星空も綺麗なんだろう。昔連れて行ってもらった清里高原を思い出すぜ。懐かしい。

 う〜む、それにしても……


「ホントに異世界に来ちまった?」


 独語し、空を見上げる。

 そこには、日本で見るモノと変わらない雲と太陽が……って、太陽がずいぶん高けぇなオイ。

 真夏の昼間よりさらに高い位置にある。

 コレ、赤道直下みてぇだな。まァ行ったコトなんぞねぇケドさ。……でも、そんなに暑くもねぇんだよナ。どーなってんだ?

 いや……異世界だから、か? 地球の常識は通用しないんかねェ。そンならナンでもアリなんだろーか?

 などと考えつつ、何気なくスマホを手に取り、時間を見る。

 ふーむ。あれからそんなに時間は経ってないな。

 とはいえコレは俺の主観的な時間だ。実際は、俺たちをここに送る間に向こうじゃ数十年経ってたとかあり得るかもしれんがな〜。

 ……と、そのスマホが鳴った。

 ン? こんな場所で電波なんぞ通じてんのか? 番号は……ナンかよくわからん記号が並んでるな。どーしたモンかね?

 いや……このタイミングで電話がなったってコトは、ヤツか? とりあえず出てみっか。


「はい」

『私だ。どうやら転移はうまくいった様だな』

「ええ。おかげさんで」


 あの占い師だった。とりあえず礼を言っておく。

 にしても、どーなってんだ、コレ?


『とりあえず、君には私が与えた“力”の使い方に慣れてもらう必要がある』

「慣れる、ね。チュートリアルみたいなもんかい?」

『ま、そんなところだ。とりあえず、君にはまずそこにある石像と戦ってもらう』

「石像?」


 周りを見回す。そんなモノはねェみてェだが……。

 と、数メートル先に、一体の石像の残骸が転がっているのが見えた。怪物みてェな頭や鋭い爪を備えた腕、そして翼の様なモノの破片が散見される。どーやらコイツのことなんだろうケドさ……


「あるけどさ……バラバラだぜ」

『そうだったな……では』

「ん?」


 微かに風が吹いた。そしてなにやらキラキラと光る粒子が上空から風に乗って飛来する。やがて風は石像の残骸の中央で渦を巻き……


「おぉっ?」


 さっきの粒子が集まって出来たのか? なにやら緑色に輝く、菱形の結晶体が現れた。長細い八面体かと思ったが、違うようだ。長細い10面ダイスみたいな形ってトコかねぇ。

 そんなことを考えながら眺めていると、また変化が起きた。

 その結晶体が強く光ると、破片が動き始める。


「な……何だぁ⁉︎」


 破片は結晶体に引きつけられるように集まった。

 石と石がつながり、次第にその境界がぼやけた様になる。やがてそれらは歪んだ人型となっていった。

 もしかしたら、元の形に戻っていくのか?

 そうしてしばらく後、俺の眼の前には一体の石像が立っていた。角の生えた、獣のような頭部。鋭い牙が覗く口元。そして、強靭な手足と、その先に生えた鋭いツメ。そして背中には、コウモリのような翼。それはまるで、翼のある魔物の石像(ガーゴイル)


『これならいいだろう。さあ、戦ってもらおう』


 その声とともに、ガーゴイルはゆっくりと足を踏む出す。


「ちょっ、オイ。戦えって……待ってくれやー。俺、丸腰だぜ?」

『……一応、素手でも戦えるだけの力はあると思うが……まあいい。武器を渡そう』


 ガーゴイルは動きを止めた。

 そしてその直後、光とともに俺の眼の前に棒状の“何か”が現れる。


「!」


 俺の眼の前に突如として現れたのは、一本の大ナタとその鞘。それなりに威力はありそうなんだが……


「サビてンぜ、コレ……」


 そのナタは赤錆に覆われていた。それに、刃こぼれもしているよーだ。何より……少々カッコ悪ィ。もうちょいマシな武器が欲しいんだがな〜。


『大丈夫だ。右手でそいつの柄を持って、左手を刀身にかざしてみてくれ』

「ちっと待ってくれ……こうか?」


 俺は一旦スマホの音量を最大にすると、ネックストラップで首から下げた。そしてナタを手に取る。

 重く、ズシリとくる。コレが本物の武器ってヤツか。

 そして、言われた通りに左手を添えた。


『そうだ。では……君が使いたい武器をイメージしたまえ』

「お、おう……」


 そーだな。日本刀っぽいのがいいかな? いや、勇者っぽいハデなのもアリかもしれねェ。どーしよ?


『では、その武器に祝福を与えよう』


 と、考えてる最中に声がする。

 待てや。まだイメージを固めきってねぇよ。


「お、おい……」

 と、俺の左腕が、勝手に動いた。

 人差し指と中指を立て、ナタの刀身に滑らしていく。

 と、光が溢れ、ナタの姿が変わっていった。

 ゆるくカーブを描く細身の刀身。そしてハデな装飾の付いた柄とナックルガード。ついでに鞘の形も変わったな。これなら刀身がキチンと収まるだろう。

 が……


「……」


 肝心の刀身が中途半端なイメージのせーで、何かサーベルっぽくなっちまった。

 まっ、これでもいーか。


『では、軽く振ってみてくれ』

「わかった」


 ストラップで下げていたスマホを胸ポケットに収めると、剣道風にサーベルを構え、何度か振ってみる。

 へぇ……ずいぶん軽く感じるな。それに、手になじむ。


『どうかね?』

「なかなか良さそーだな」


 あのナタが変化したとは思えねェほど扱いやすい武器だ。


『そうか。それは何より』

「もう一つついでだけどさ……アンタがくれた“力”って、何だい?」

『ああ、そうだな……説明しておこう。君に与えた“力”。それは、その世界の運命律に干渉する“力”さ』

「う、運命律ぅ⁉︎ ……って何さ」

『そう。運命を操る“力”さ。その世界は全て運命律によって縛られている。それに干渉し、思うがままにすることができるのさ』

「へぇ……よー分からんケド、ゲームでいうところの“チート(イカサマ)”みてェなモノかい?」


 ゲームを改造するためのツールやデータがネットで配布されてたりするが、まぁ褒められた行為じゃねェ。

 オフラインゲーでもアレだが、対戦アリのネットゲーじゃ問題外だ。垢BANどころか、最悪ネット上に晒されたりすンな。

 にしても……


「アンタ、何者だい? 運命を改変するなんて、カミサマみたいな事を……」

『似たようなモノさ。その世界を創ったのは私だしね』

「ぞ、造物主ってコト? 俺達の世界も創ったのか?」

『いや……こっちは少々管轄が違ってね。まっ、幾らか関わったこともあるが。それよりも……戦闘だ。用意はいいかな?』

「お、おう」


 聞きてェことはまだまだあるが、とりあえず目の前のコイツを倒してからだ。

 にしても、アイツがこの世界のカミサマとはねェ。ってコトは、俺に与えられた“力”は公式“MOD(改造データ)”とでも言うべきかな?


『……では、今回の通話はここまでだ。健闘を祈る』

「お、おいィ!」


 そこでヤツは通話を切った様だ。

 と、同時にゆっくりとガーゴイルが動いた。俺の方に向き直り、そのツメを構える。


「チッ……」


 戦闘中もアドバイスが欲しかったんだケドな。

 ……やるしかねぇのかよ。

 俺も通話をoffにし、スマホをまたポケットに放り込むとサーベルを構え直した。

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