大学生の恋バナ
作業は深夜まで続いたわけで...
午後八時くらいに、学内のコンビニで買ったもので夕飯をとって、現在日付をまたいで二時。
眠気覚まし兼小腹の足しに、勇と翔は夜食の買い出しに出掛けていった。
残ったあたしとゆきのさんとで作業を続けつつ。
「... これ、そんな急ぎで仕上げないといけないんですか... ?」
無数の印が付けられた地図を眺めながら、あたしはつい本音が出る。
「いやぁ... そういう訳じゃなかったんだけど、せっかく手伝ってくれる人手がいると思ったらついつい...
あ、確認し忘れてたけど、下宿生? 実家?」
てへへ、と笑ったゆきのさんは、ふと思い付いた様子で尋ねる。
「え? ーーああ、ええ、一人暮らしです。」
さすがにここで、あいつら二人とルームシェアとか言うのは薮蛇の可能性ありだろう。
「ならよかったー。連絡入れてる様子もなかったし、無断外泊させちゃったらさすがにお家の人に申し訳ないもんね。」
「一応気を遣うんですね...」
初対面の下級生に徹夜仕事付き合わせておいて...
しかし、作業もそろそろ終盤だ。
集まった情報は、ほとんどが市内にとどまっていた。
残りのファイルは一冊。
それを、ネット上の情報と照らし合わせていく。
「ところでさぁ... 」
あたしが読み上げる目撃の日にちを検索しながら、ゆきのさんが切り出した。
「はい?」
「あの二人のどっちかとは、付き合ってるの?」
「つっ... ?!」
思わずファイルを取り落としそうになる。
「あら、いい反応。ねえねえ、翔くん?」
「違います! てか、どっちとも付き合ってませんから!」
「ふぅん? でも、全然何もないって反応でもなかったと思うんだけどなぁ?」
ふと見れば、ゆきのさんはパソコンから顔をあげてこちらをニヤニヤ見ている。
「そんなことないですっ。全然何もないですっ。」
あたしはふくれて言い返す。
「へー? じゃあさ、私、翔くん狙ってもいい?」
許可を求められるとは思わなかったので、あたしは少々言葉に詰まった。
「ーーいいんじゃないですか?」
てか、会った瞬間から割りと分かりやすく翔をガン見でしたし。ーーとは、さすがに言わないが。
とはいえーー
「何?」
歯切れ悪く聞こえたのだろう、ゆきのさんは続きを促す。
「いや... 会ったばっかりの、しかも年下だから、なんか、意外って言うか... ?」
まぁ、翔は年上キラーっぽいところはあるのだが。
しかし、二年生と自己紹介した翔と、五年生のゆきのさん。
二十歳と二十三歳か、そんなもんか、どうなのか。
そのくらいの年の人の三歳差がどんな感じなのかわからなくて、あたしは口ごもって視線を漂わせる。
あたしらで三個違ったらけっこう年上だもんなぁ。中二と高二か。高校生は大人なイメージ。今大学生してるけど。
そんなあたしから視線を画面に戻して、ゆきのさんはキーボードを叩き始める。
「年下可愛いじゃなーい。若くてピチピチな感じ。けど、翔くんは話してみたら落ち着いてもいるし、いいとこ取りっぽいな。ーーあ、その目撃情報、三件ヒット。まぁ、でも映像はそう目新しいものじゃないわね。はい、次。」
確かに、小二バージョンの翔はかなり可愛かったけどーーそういうことじゃないんだろうなぁ、たぶん。
「11月15日、朝八時頃、市役所周辺。ーー年下が好みなんですか?」
「んー、そういうわけじゃないけどぉ... どっちかって言うと、今、年上が嫌?ってとこ?」
「年上と何かあったんですか?」
「ーーなんでわかるのよ?」
「いや、自分で言ったようなもんですよ...」
しかし、勇と翔は遅いなぁ。
本気出せば買い出しなんて転移で瞬殺のくせに。さてはサボりだな。
なんとはなしにドアの方を見やるが、やはり二人はまだ戻ってこない。
「実はさー、この前一個上の彼氏と別れたばっかりでさぁ... 」
そして、別に聞こうとしてないのに続けるゆきのさん。
つまり、誰かに話したいのか。
「はぁ... えっと、一個上だと社会人?」
「んーん、まだここの院生。自分だって学生の癖に、私が卒業出来なかったこととか上から目線でさー... 」
「ゆきのさん、実はお酒入ってません?」
「飲んでないわよ、失礼ねー!」
... 早く帰ってきてー...




