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異世界間トラブル解決のバイト?始めました  作者: ぶんのしん
尚、異星人は異世界人でもある模様です
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一日目 宇宙人はいる?

「自衛隊の地上固定レーダーは主に沿岸部や離島に設置されているわ。外国からの領空侵犯を見張っているんだから当たり前と言えば当たり前よね。

 まず高度の問題としては、水平線、地平線ギリギリの飛行は地球の丸みのせいでレーダーに反応しにくいの。

 ただ、ここは地理的に、太平洋側、日本海側のレーダーから、地球の丸みを考慮するほど離れてないわ。

 それから、建物があるような高度ももちろんレーダーに引っ掛かかりにくいわよね。」


 いい顔をして話し始めるゆきのさん。

「さすが、詳しいですね... 」

 感心して見せる翔に、にこりとする。

「そうでもないよ? 専攻的には専門外だし。ネットで検索すればこのくらいは書いているだけ。」

「なるほど。ーー大きさについてはどうですか?」

「鳥とかをいちいち感知してたらきりがないでしょう? だから、小さな反応は自動で除外するみたいよ。

 日本に来る渡り鳥で有名どころの白鳥だと、オオハクチョウなら翼を広げると二メートル以上。

 つまり、そのくらいの大きさならレーダーにはひっかからないわね。」


「白鳥って、二メートルとかあるんですか?」

 単純に驚いて、つい口に出してしまう。でかい鳥だとは思っていたが、そこまでとは。

「体長でも、首から尻尾まで伸ばして並んだら貴女くらいあるわよ?」

「へー、すごーい。」

 そんなあたしにも、ゆきのさんはにっこり笑顔を向ける。

 第一印象は冷たい感じもしたが、話してみるといい人のようだ。


「せやけど、直径二メートルだと人が乗るには窮屈な円盤やなぁ。」

「球体なら乗れるんじゃない? まぁ、それでもお前には窮屈そうだけどさ。」

 あたしは勇の足元から頭までを見て言う。

 いや、しかしこれでもオオハクチョウの両翼広げた幅よりは辛うじて小さいのか。一応直径二メートルの球体の中には立てそうだな、勇。


「ーー人が乗ってると思ってるの?」

 不意に、ゆきのさんが尋ねる。

「え、だってUFOでしょう?」

 あたしは首を傾げて聞き返した。

「UFOっていうのはね、unidentified flying objectの略。つまりーー」

「あー、未確認飛行物体やな。」

 勇が、それはそれで聞き慣れた言葉に言い換える。

「そう、未確認な飛行物体であればUFO。宇宙人が乗っているとは限らないのよ?」

「え、でもーー」

 ゆきのさんの、通らなかった卒論の内容は宇宙人の生態とかなんとかじゃなかったろうか。

 あたしの視線を正しく読み取ったらしく、ゆきのさんは頷く。


「そう、確かに私も、宇宙人はいると思っている人。ただ、世界で確認されているUFOが全て宇宙人の乗り物だとは思ってないわ。もちろん、偽物は論外として。

 正体が確認できなかった飛行物体。

 鳥や飛行機が角度や空気の屈折のいたずらで変な風に見えたのかもしれないし、稀有な自然現象が発生したのかもしれないし、そして、宇宙船かもしれない。あ、あと何処かの国の軍事秘密兵器とか。」

 さすがにそこに、吸血鬼やら幽霊やらが空飛んでるみたいなのは入ってきませんよね。

 ふむふむ、と頷くあたしたち。

「ちなみに、先輩方が考察してカテゴライズした資料がここにあるから、よかったら見てみてね。」

 示した先には壁一面の本棚に詰まったファイル。

 見ればーー『幽霊?』ってファイルがあったよ、おい。

 それもすごく見てみたい気がするがーー


「それで、今回のUFO頻発については、ゆきのさんはどう思ってるんですか?」

 翔が尋ねる。

「だいぶ、期待できると思ってるわ。」

 ゆきのさんは即答する。

「動画を見た感じ、どう考えても意思があるとしか思えない動きをしているところから、自然現象じゃないことは確か。どの目撃例も写真も動画も、特徴が一致する。つまり、同一の意思ある飛行物体がうろうろしているのに、全然尻尾を掴めない。これはもう、人知の及ばない技術を持った何かが関係してるでしょ!」


「ーーでも、動画とかなら加工ができちゃいますよね?」

 意気揚々と言ったゆきのさんに、あたしは言う。


「そうね。でも、そこは今回クリアできると思うのよ。」

 ゆきのさんは、デスクのノートパソコンを引き寄せた。

「動画、静止画ともにものすごい数が毎日アップされてるわ。つまり、無関係の人物がそれぞれ同時刻撮影した画像を見つければ、答え合わせになるでしょう? 一致数が多ければ多いほど信頼性のある情報になるわ。

 加えて、自発的発信じゃないものーーこちらからフィールドワークで得てきた目撃情報も合わせればどう?

 そして、それを地図にまとめるの。

 出没回数が多い場所や出没範囲もわかるはずよ。

 ああーっ、楽しみ!」


 確かにそのデータはあたしたちも欲しいと思っていたものだ。


「素敵ですね、立派な研究だと思います。そこまで真面目に取り組んでいるゆきのさんの、卒論を受け取らないなんて、教授は意地悪ですね。」

 どこまで本気なんだか、翔が物わかりのいい顔をして言う。

 いや、確かに真剣に研究していることは認めるが、この研究は理学部なのか。なんだろなー、何ならいいんだろうなぁ、民俗学かなぁ...


「でしょ! だからね、それを手伝って欲しいの。」

「ーーえ?」


 そういえば... 大変なら手伝うってことで話を聞かせてもらったんだっけ。


「まず地図のプリントアウトね。目撃情報はたくさんあるから、ある程度大きくないとね。とりあえず、市内地図で二畳分くらいで貼り合わせてくれる?

 それから、これが私がフィールドワークで集めた情報。

 パソコンはこれ一台しかないんだけど、あなたたち今持ってこれる?」

 マシンガントーク気味に言われ、とりあえず質問に対しては首を振るあたしち。

「えー、入学時に大学用一台用意しろって言われてるはずでしょう? まぁいいわ、じゃあ図書館のパソコン使ってね。役割分担はーー」

「えっ? えっと、待って、他の部員の人とかは... ?」

 ゆきのさんの勢いに押されつつ訊ねたあたしに、彼女はあっさりと言った。

「いないわよ? 二年前に先輩が卒業してからは私一人。最近面白半分に見に来る人は増えたけど、そういう人は入れる気なかったし。だから人手不足は深刻なのよね。ーー宜しくね。」

 

 フィールドワークで集めたと言う目撃情報ファイルだけでかなりの量が積まれていくのを見て、苦笑いの口の端が痙攣する。

「えげつなー... 」


 

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