エピローグ代わりの二人の会話
「なんやったんやろ、さっき睨まれたんは。」
葵を彼女の自室に帰した後。
翔が次に勇を部屋に送ると、勇はふとぼやいた。
「睨んでたってほどじゃなかったと思うけど? ーーけどまぁ、何か考えてる風ではあったな。何かあった?」
翔が尋ねる。
「何かってーーなんや、その目ぇは。疚しいことはないで!」
「別に疚しいとか疑ってねぇよ... ただ今回はほとんど別行動だったから、知らねーうちに何かあったのかと思っただけで。」
「別行動だったのは俺ばっかりやないか。お前らこそ俺がいない間何かなかったん?」
勇が口を尖らせた。
「ねーよ、何も。」
「そういえばやたら可愛がられてへんかった?」
「うるさい、言うな... あんな愛玩動物扱い... 」
翔はがっくりと項垂れる。
実際の小学校低学年くらいの頃、その当時中学高校生だった姉たちにいいように「可愛がられ」たトラウマがよみがえって、ぞわぞわする。
「そんなん言うて、役得だったんちゃうん?」
「別にそういう役じゃねぇし、全然得じゃねー... 」
まぁ、頭を撫でられるあの感じは、トラウマと羞恥心の中に少しだけ心地よさも感じられたりしたがーー
「ま、役得感じるにはもうちょっと育った姿の方が嬉しいやろけど。小学生やと今以上に男子やったもんな。」
「... お前、本当に正直だよな。」
言われて、勇はからりと笑う。
そんな勇が、翔は時々羨ましい。
いつも正直に、まっすぐに心配したり、対等に怒ったり。
自分はどちらかと言うと、口を開く前に考えてしまう。体を動かす前に計算してしまう。
悪いことではないと思っているが、そんな自分に時々疲れてしまうこともある。
ついでに言うと、戦えない自分ももどかしい。
いざというとき、守ることはできる。はずだ。それが大事だとも思っている。
けれども、なんというか、やっぱり男として、戦って守れる側の人間に憧れるというかーー
「え。なんかまた睨まれとる? 俺なんかしたん??」
思わずじっと見てしまって、勇が慌て出したのを見て、翔はわざと意地悪く微笑んで見せた。
「別に? じゃあな。」
「え、なんやの? おいーー」
お前が羨ましい、なんて、誰が教えてやるかっつーの。




