四日めから六日め 人生は出会いと別れ
「おっまっえっはー!!」
勇があたしの襟首をつかんで怒鳴る。
「まぁまぁ... 今に始まったことじゃないし。」
翔が止めてはくれるが、フォローはしない。
「え、ダメだった... かな?」
「ちょっとビリビリきたやないか! 水辺で電気使うなや!」
「水辺だからこそ一網打尽にできるかなと思って... 」
「お前は俺まで一網打尽にする気ぃかぁ!」
まだ翔の音バリアが効いているはずなのでいいが、でなかったらだいぶ近所迷惑な音量である。
「大丈夫だったじゃん?」
「せやからちょっとビリビリきたっちゅーとんじゃ! ひやっとしたわ! 心臓に悪い!」
「えー? 勇なら大丈夫だと思ってやったんだけどなぁ。」
「お前はその計算に自分の力加減の大雑把さが抜けとんねん!」
それは、その通りかもしれないような気がしないでもない。てへ。
「... ごめん、次から気を付ける。」
謝ると、勇はぷくっとふくれて襟首つかんでいた手を離し、そのまま片手を挙げた。
あたしはその手にぺちんと自分の手を打ち合わせる。
そう、何はともあれ片付いたのだ!
「まぁ、まだ本当にアレで全部かはわからないけどな。ベビースライムもまだ残ってる可能性あるし。」
「う。」
翔に言われて呻く。
せめて、手強いでかいのは今の一体で勘弁して欲しいなぁ。
翌日の土曜日。
休日出勤したある先生が、プールの水が空になっていることに気づき、どこか故障かと調べに行って。
排水口付近に、奇妙な物を発見した。
そのうちの一つが比較的原型を留めていて、哺乳類の歯のようだったため、プールの水が抜かれていることと合わせて警察へ連絡。
原型を留めていたものは犬の歯だったようだが、同じように発見された欠片のような物の一部が人間のものであるとの結果が出た。
おそらくーー
「DNA鑑定したら、田中先生かもしれへんな... 」
職員緊急召集から戻ってきた勇が、沈痛な面持ちでそう締めくくった。
「そっか... 」
他の被害は外ばかりだったのに、何故その日に限って職員室に侵入してしまったのか、もはや理由はわからないが。
親玉スライムのあんなサイズでは、背後から襲われたらひとたまりもないだろう。
親玉がその後も人間を襲い続けなかったことが、不幸中の幸いなのかもしれない。
「ーーとりあえず、これからの話をしよう。現場検証が入ってるってことは、ベビースライムの残党探しは難しいか?」
「いや、どうやろなぁ... 一応学校敷地内全体を捜索するみたいやけど、掘り返した跡でもなければそんな何日もかからんのとちゃう? 少なくとも月曜は通常授業の予定や言うとったわ。」
翔の問いに勇が答える。
「スライム、警察が見つけちゃったりするかな... 」
「ベビーは大人の集団には向かっていかないだろうし、うっかりで見つかっても警察の方は何か変なのいたなくらいのもんじゃねーかな。」
翔が言って。
実際、警察の現場検証は土曜一日で終わり、何か変な物が見つかったなんて話にもならなかった。
念のため日曜日に遊びに来たふりをしてスライム探しをしたが一匹も見つからず、これで今回の事件は一応の解決となった。
「では、一日余裕があったがよいかの?」
六日め日曜日の夜、あたしたちは準備を整え、もとの時間軸に帰ることにした。
「うん、さんざん探したけどベビースライム見つからなかったし。」
あたしはじーさんに答えた。
「そうじゃな。ベビースライムなら一匹かそこら残っていても、そのうち餌不足で消滅するじゃろう。もしそうならずに被害が出始めたらまたこちらから連絡するので、改めて頼む。」
「りょーかーい。」
言って、ちょっとだけ、一週間限りのクラスメートに思いを馳せる。
密室談義で盛り上がったみのり、一緒にサッカーした男子、わんこのことで泣いていたさっちゃん、勇をかっこいいと騒いでいた女の子たち...
ちらりと、勇を見る。
「なんや?」
「なんでもない。」
まぁ、あれはあれとして。
お別れの挨拶をしないのも寂しいが、かといってたった一週間で大袈裟に別れるのも照れ臭い。
うん、いいんだ、どうせここでのあたしは、かりそめのあたしだったのだから。
そしてあたしたちは、もとの自分達の時間に帰ったのだった。




