1日目 ちょっと言い忘れていたことが...
買い出しは、勇が布団三人分、翔が入浴関係一通り、俺が台所用品一通り、ということにして解散した。
まず服を買うところで、適当にMとLのサイズ持って試着室入って年齢設定してみたものの、いろいろあったんだけど...
まぁ、なんとか自分の数日分の服を買って、鍋とフライパンとやかんと包丁とまな板と、それから食器用洗剤を買って、家のドアの前で少しだけ躊躇した。
もう二人とも帰ってるのかなー、なんかはずいなぁ、大人の姿。
えーい、仕方ないっ。
「ただいまー、いやー、大人用の服って何買っていいかよくわかんなくて、正直下着とか。」
言い訳しながらドアを開けた。
「それにしても遅いでーーって! 葵か!?」
振り向き様に文句を言った勇が、ぴょんっと後ずさった。
ゆったりめで薄い色のジーンズに黒のTシャツの勇は更に身長が伸びて、並んだら俺の頭が奴の胸辺りだろう。
その後ろで、声もなく口を開けている翔は、紺色で細身のパンツで、白Tシャツの上に薄いグリーンのシャツを羽織っている。
勇ほどじゃないけど身長も伸びて、俺はすっかり抜かされた模様。一七五くらいかな? 対して俺は五センチほどしか伸びてないみたいだから仕方ない。
男子の成長期恐るべし。
と、観察しつつ、何と答えたものか迷っていると、勇が下がった分を戻ってきてまじまじと俺を見た。
ちなみに、翔はまだ固まっている。
「お前... 年どころか性別変わってるで?」
ですよねー、そういうことで二人とも驚いてますよねー。
二人の反応に、ぷぷーとなりつつ、俺は告げた。
「わり。間違えてるだろうなーと思いつつ言ってなかったけど、俺もともと女なんだわ。」
物心つくまえから遊んでいた近所の幼馴染みとか、家族ぐるみで付き合いのある家の子どもとかが、たまたま軒並み男ばっかりだった。
自然と、子どもの頃はライダーごっことか戦隊ごっことか、あと野球とかサッカーとかして遊んでいた。
服を泥だらけにして遊んでくるから、親は可愛らしいヒラヒラ系の服を着せるのを諦めるようになり、自分でも木登りとかしやすい服を好んで着た。
髪の毛を結んでもらうより早く外に遊びにいきたいタイプだったので、そのうち髪型もショートで定着。
中学に上がるとき、ベリーショートの髪と自分の言動がセーラー服に似合わなすぎてちょっとどうしようかとは思ったが、だからといって今さらキャラ変えするのも照れ臭いっていうか、十年以上続けてきたキャラを変えるのは難しいって言うか... で、今に至る。
しかし、未来の自分はどこかでキャラ変えを達成したのか、二十歳に設定した自分の容姿は、背中まで届く長い髪の女だった。
背はあんまり伸びなかったけど、第二次成長はそれなりに進み、胸とか腰回りとかに肉がついていて、初めてちゃんとした女性下着のお店に入るはめになった。
服はスキニージーンズとTシャツに薄手パーカーを羽織ったのだが、試着室の鏡で見ると、女らしい服を着てなくてもしっかり女の人で、自分でもびっくりした。
自分でびっくりしたくらいだから、俺を男だと思っていたらしい勇と翔は、まぁびっくりして当然だろうなー。
「...な、」
固まったままの翔が、絞り出すように声を出した。
「な?」
「な、、、な、、、」
今までしれっとした顔でいろいろ仕切ってた翔がこれだけパニクってるのはちょっと面白い。
「七?」
「なんで言わなかったー!?」
やっと言えたようだ。
「いやー、間違われるの慣れてたし、特に宣言する流れにもならなかったし。訊かれたら答えたよ?」
「訊かんやろ普通っ。お前やって俺らに性別確認せんかったやんか。」
「... じーさんが、三人同室でいいかって、特にお前に確認してたよな、そういえば。」
左手で眉間の辺りを押さえて、沈痛に翔が言う。
「あれはそういう意味だったのか... 気づかなかった...」
悔しいようだ。
「って! せや! お前が女やったら同じ家で一週間はまずいやろ! なんでいいって言ったん!」
しばらく信じられなそうに俺を眺め回していた勇が、またぴょんっと後ずさって言う。
でかい図体でリアクションまででかい。
「え? 部屋二つあるなら充分じゃない?」
「なんでや!?」
「え? えー... キャンプとか、よく男子とも雑魚寝だし。」
「それは親も一緒にいるやつだろ? 修学旅行とかは男女別部屋だっただろ?」
呆れ顔の翔。
「だから、そっちの部屋で俺が寝て、お前らがこっちのリビングで寝れば、ほら、男女別部屋。」
「...... 」
勇と翔が顔を見合わせる。
え? 俺そんな変なこと言ってる?
「... えーっと... 風呂とかトイレとか気にならんの?」
「別に? 一緒に入る訳じゃあるまいし。」
「一緒にっておま... 何ちゅーことを... !」
「いや、一緒になんて入らないだろって話だろ!?」
あー、もう! めどくせーなぁ!
「じゃあじーさんに連絡すればいいだろ! 女と一緒じゃ気になるから他に家探してくれって!」
「誰が気になってるっちゅーねん!」
「俺が気にならないって言ってるのにごちゃごちゃ言ってるのはお前らだろ!」
「俺かて気にならんわ、お前みたいな男女! ぜーんぜん平気やわ! なぁ翔!?」
言った勇につられて翔を見ると、翔はすっかりあきれ返った顔だった。
「翔? お前もなんか言ったらどうやっ!」
勢いで翔につかみかからんばかりの勇の手を翔は無造作にはねのけ、
「もうめんどくせーから、... ルームシェアで、いい。」
と、深々ため息をついた。