三日め 他人の怪我の功名
「失礼しまーす。」
あたしは保健室の扉を開けた。
「足、挫いちゃったみたいなんですけど... 」
言って、抱えていた彼を長椅子に下ろす。
今朝、このあたしをからかってきた張本人、まさしくんである。
ーーいやいや、やってないよ? そういう意味で叩き潰したりしてないよ?
約束通り、二時間めのあとの長い休み時間になると、ギャラリーを引き連れてあたしたちは裏校庭に向かった。
この学校には校舎の南側と北側にそれぞれ校庭があり、南側の校庭が普通の「校庭」、そして北側のが「裏校庭」と呼ばれているのだが、この裏校庭にあるのが古いサッカーゴール一対だけ。
よって休み時間は半ばサッカー専用と化しているらしい。
勝負はあたし一人で五人抜きしてゴールできるかどうか。
技術は特にないが身体能力には自信がある。
あたしは普通に楽しくボールキープし続け、お前なかなかやるじゃんみたいな空気が相手に生まれ出していたーーそんなとき。
喧嘩売ってきた本人としては焦りもあったのだろう、まさしくんはなりふり構わない勢いで当たりに来た。
まぁ、見えてたので普通に避けた。
そしたら、彼は他の子にぶつかって盛大にこけた。
膝と手のひらをひどく擦りむき、足首も痛いと言う。
南側の校庭では何人かの先生が子どもと一緒に遊んだり鉄棒の練習を見てたりするみたいだが、裏校庭にはいない。
というわけで。
お姫様だっこはやめろという本人の意思を尊重し、米俵担ぎで保健室まで運んでみた次第である。
怪我の具合を見たときに、こっそり足首の捻挫は治したんだけどなー。それでも痛いって言うんだもん。
付き添ってきた他数人と本人が保健の先生に怪我の状況を説明している中、あたしは先に保健室の中にいた、やはり他の子の付き添いらしき低学年男子に片手を上げて見せた。
「... おねーちゃん、何したの?」
呆れた視線とは似合わない、子どもらしさを作った口調で訊いたのは、翔である。
「友達が怪我したから、付き添い?」
へらりと笑うあたしを、翔は胡散臭げに見る。
「... 男をかついで連れてくるのは、いろいろどうかと思うんだけど... 」
「だってそっちの方が手っ取り早いかと...」
「翔くん、知り合い?」
翔の傍らで脛の辺りを押さえている男の子が尋ねた。
患部を冷やしているようだ。
「あー、うん、俺のお姉ちゃん。」
「お姉ちゃん??」
首を傾げる友達に、
「うん。こんな見た目だし中身もがさつだけど、お姉ちゃん。」
... 余計なことを。
「足、どうしたの?」
あたしは男の子に尋ねた。
「わかんない... 」
「わかんない?」
その答えに戸惑って翔を見るが、翔も小さく首を振る。
「ーー今週入ってからこういう怪我が増えたのよね、やすらぎのあたりで。毛虫でも出たのかしら。ちょっと見せて?」
言ったのは、まさしくんの手当てを終えてこちらの様子を見に来た保健の先生だ。
先生に言われて男の子が患部を見せると、赤く腫れている。少し水ぶくれのようになっているだろうか。
「もうちょっと冷やしましょうか。さ、他のみんなはもう教室に戻りなさい。授業が始まりますよ。」
あたしたちは追いたてられて、すっかり歩けているまさしくんも一緒に、それぞれ教室に戻った。




