エピローグ代わりの男三人の会話
サキの気配が消えたあと。
「ーーそういえばさ。」
葵はケンジを振り向いて、照れ臭そうに笑った。
「言いそびれてたけど、ケンジもありがとな。最初黒モヤに襲われたとき、あたしとリューを守ろうとしてくれてさ。」
「ーーへっ? ああ、いや... 」
そのあとガンガン戦ってた様子を見たあとでは、決死の覚悟で前に出た自分がもはやなんだか恥ずかしいので、ケンジは反応に困って口ごもる。
「落ちたときも助けようとしてくれたし、見直したぜ。」
言いながら近づいてきた葵に対して、ケンジは軽く狼狽えて言葉を探したがーー
葵の方は、ケンジの反応など見る気もなしにすれ違い様肩を叩いて、そのまま墓場の出口の方へと歩き出した。
言ってスッキリしたのだろう、やたら足取りが軽い。
ーーほんの少しとはいえ、サキを抱き締めていた葵の姿がちらついていた自分が悔しく、ケンジは一人わなついた。そこへ。
「卑怯だよなー。」
ぽつりと、しかしケンジに聞かせるつもりであろう声で呟いたのは翔である。
「え?」
動揺中に意外な言葉をかけられて、更にキョドる。
「あれがどうやら素でやってるとこがズルいわー。」
「え?」
反対側から勇にも言われて、ケンジは二人の顔をキョロキョロと見比べた。
「普段は自由かつ無鉄砲にいろいろやって、心配かけても大して反省しないくせに。」
「ときどき急にデレるんやもんなー。」
「...デレだったのか? あれ。」
やたら息の合った愚痴に、ケンジはとりあえず疑問を口にする。
「それより、なぁケンジ。」
勇がおもむろに肩を組んできた。
「な、なんだよ?」
「お前、葵のことどう思ってん?」
「はっ?」
そもそもあの夜知り合っただけでよく知らない相手に、しかも耳元で、隠してあるはずの気持ちを問われて、ケンジは一層あたふたした。
「厄介だよなぁ、鈍感だし。女の自覚薄いし。」
翔まで耳元に口を寄せて囁く。
鈍感でいい。まだ言うつもりじゃないから。
女の自覚なんてなくていい。今の関係が付き合いやすい。
まだ。今は。ーーけど?
「... 何のことだよ?」
やっと言葉を絞り出すと、翔は人の悪い笑みを浮かべた。
「ふぅん? そういう感じね?」
「ーーほな、学校ではアイツどんな感じなん? 仲いい男とかおる?」
あっけらかんと訊いてくるのは勇だ。
「どんなって... あんな感じだよ。まるっきり男で、普通に男と仲いいよ。昼休みはサッカー混ざるし。」
だから一緒にいて楽しいし、そして安心していた。
アレをそういう意味で好きなのは、自分くらいだろうと。
けど、こいつら...
「ーーお前らさ、つまり、あの、」
今度はこちらが訊こうと、ケンジが口を開きかけたとき。
「おーい、お前らいつまでそこにいる気?」
墓地の入口まで行った葵が振り返って呆れたような声をあげ、続きは言葉にできなかった。
ただ、勇と翔がニヤリとケンジに向けた笑みは、きっと宙に消えた問いへの肯定だろう、と思われた。




