1日目 始動準備
勇の学校のトイレから転移した先は、こざっぱりした八畳ほどのリビングだった。
「ーーって! 上履き!」
「わ! しかも今トイレにいたのに!」
翔に言われて、俺も勇も慌てて上履きを脱ぐ。
それにしてもーー
じーさんは拠点とか言ってたけど、テレビとかテーブルとかがあるこの家は一体...
「家具つきウィークリーマンションというのが便利そうだと思って借りておいた。ワンルームで隣室同士が見つからなかったが、二間あるタイプがあったので三人一緒でいいかのぅ。」
そういえば通信繋がったままだったじーさんが、タイムリーに言う。
「あー、ええんとちゃう? 別々やと捜査会議とか面倒やし。」
「葵くんも問題ないかね?」
「え? あ、あー... いいんじゃね?」
「電化製品は必要最低限あるらしいが、布団や調理器具は自分達で用意してくれ。着替えや食費も含めて必要経費として支給する。」
え、そういう地味な準備必要なんですね...
まぁでも、一回買えばあとはアイテム収納にしまって引っ越しすればいいから次からは大丈夫か。
「現金と一緒に、そこの部屋の鍵、警察に出された捜索願いの資料と、こちらで把握しているゲートの位置情報を翔くんのアイテムボックスに入れておくので確認してくれ。何か質問はあるか?」
言われて顔を見合わせる。
「とりあえず、資料を見てからかな。ああ、ゲートの位置がわかってるってことだけど、俺の能力でどうにかなりそうだったら使えないようにしてもいいのか?」
思案しながら、翔が答えた。
「なるほど、翔くんなら、簡易的にゲートを使えなくすることはできるやもしれんな。実は、四人目の失踪から怪しいと思ってゲートを監視はしておったのだが、今までのところ人の出入りは見られんかった。つまり少なくとも五人目はまだあちらに連れていかれてはいないはず... 」
「わかった。また聞きたいことが出来たらこっちから連絡する。」
「うむ。ーー頼んだぞ。」
そう言って、じーさんの通信は、切れた。
さて...
せいぜい二十分前は普通に学校にいたのに、あれよあれよと言ううちに状況が変わって、なんか理解がついていかないなぁ...
ふぅ...
「なに一息ついてんだよ、忙しいのはこれからだぞ。」
靴底を上向きにして床に置いた上履きに向かって腕輪の画面を調節しながら翔が言う。翔の指が画面に触れると、上履きが消えた。
「あ、そっか。」
いつまでも上履きを持っていた自分に気づき、俺と勇も翔に習って上履きをアイテム収納にしまう。
「まずは着替えないとな。年齢設定もした方がいいから、大人になったサイズで買うとして、それを買うにしても... 」
「まだこの格好で買い物するには早い時間やなぁ。」
翔の言葉を勇が引き継ぐ。
勇と翔は中学の制服。俺に至っては中学指定ジャージ、しかも変な薄黄緑色。
「あー! 靴もないじゃん! 外出られない... 」
俺はため息をついた。
授業中なんかに呼ぶから...
「仕方ない、一旦それぞれ自分ち帰って私服と靴取ってこよう。俺が送るから。着替えて来てもいいけど、今着てる服は置いてこないでアイテムにしまっておけよ? 戻るときはまた学校なんだから。」
「確かに。了解。」
コクコク頷く俺と勇。
「準備が出来たら買い出しだけど、時間がもったいないから手分けしてやろう。買うものは多そうだけど、その点どうやらここは立地がいいみたいだ。」
言いながら、翔はベランダの方を示す。
近くに見えるのはどうやらショッピングセンター。
見覚えのある大型スーパーやホームセンターの名前が並んでいた。
歩いても五分か十分の距離のようだ。
「それぞれ買い物終わったらここに戻ってきて、買ってきたものを使えるように準備して待つこと。家の鍵は俺が持っておくから、もしも俺より早かったら連絡して。じゃ、まずは葵んち行くぞ。」
「... 仕切り屋?」
つい言った俺の額は、翔にデコピンではじかれた。