幽霊の女の子
「そうなんだー、ケンジ君と葵ちゃんは中学生なんだー。ね、どんな関係?」
「どんなって... 友達。」
「ええー? ただの友達~? それにしては手とか繋いでたじゃなーい。」
「あれは緊急事態で... つーか、誰のせいで緊急を感じたと思ってるんだ... ?」
座り込んで話すあたしの後ろで、ケンジはひきつった表情でやり取りを見つめている。
「なんなんだ、お前のその順応性は... 」
ボソボソと言うのが聞こえるがーーいや、あたしだってこれでもだいぶ引いてる方だぞ?
だってーー
目の前でわりときゃぴきゃぴ話してる女の子ーーサキと言うらしいーーは、うっすら透けてるし冷気漂ってるし、どう考えてもあたしの苦手な幽霊なのだから。
まぁ、しかし、
「だってこいつ、幽霊とかって属性よりキャラが勝ってるんだもん。」
あたしは背後のケンジに言う。
あとまぁ、最近超常現象っぽいこと慣れてきてるし。
それに、なんで自分が幽霊苦手かって言うと、話し合っても殴っても何も効果無さそうな感じが人智を超えてて怖かったんだけど、とりあえずサキは話し合いでどうにかなりそうだし。
「それで? そのワンちゃんを助けようとして遭難しちゃったの?」
あたしの膝の上で落ち着いているリューを見て言うサキ。
透けてなければ、ほとんど普通の女の子なんだけどなぁ。
「うん、まぁね... あの、で、サキの方は... 」
「うん?」
首を傾げたサキに、どう尋ねたものか考えながら、
「えっと... サキのことを教えてよ。とりあえず、なんであたしたちを追いかけてきたの?」
「お話がしたかったから。」
わりと即答でサキは言う。
「なんか、それがさぁ... 今みたいな雑談でいいの?」
正直こちらとしては、早く帰りたいのにすげー無駄な時間を浪費してるんだけど。
「うん、お喋りがしたかったの。ずっと一人だったんだもん。」
「ずっとって... どれくらい?」
「わかんないよー。ずっとずーっと。ながーい間。」
うーん。二十年以上前の神隠しの話だと思っていいんだろうか。
「一人になる前のことは覚えてる?」
「前?」
「この山で一人ぼっちになる前。どこに、誰と住んでて、何をしてたかとか。」
「誰と... 」
「そう、お父さんお母さんとか。」
「お父さん... お母さん... 」
ケンジが後ろからあたしのジャージの裾を引いた。
わかってる。
サキの様子が変わってきた。
あんまり深入りするなと言いたいのだろう。
けど、ひたすら雑談に付き合わされても埒が明かないしーーもし何か取っ掛かりが掴めれば、この子を家に帰してあげられるかもしれない。
「お父さん... お母さんに... 会いたい... 」
ポロリと、サキは涙をこぼした。
「だったら、一緒に帰ろうよ。どうしたら帰れるかな?」
「... 帰れないよ... 」
膝の上のリューがピクリと耳を動かす。
さっき涙をこぼした瞳が、虚ろな色に変わる。
「なんで... ?」
「私の体... 見つからないんだもん... どこにもないんだもん...」
サキから感じる冷気と圧力が、急激に高まった。
「ーーお前はぁ... ! 何刺激してるんだよ!」
後ろからケンジがしがみついてきて、文句を言ってきた。
いや、あたしもどうやら失敗したと思ってるよ? 思ってるけどね?
「だって... でも、泣いてたじゃん!」
長い間一人で寂しくて、お父さんとお母さんに会いたいって泣いてたじゃん。
それが望みなのは確かで、そんな子がいたらどうにかしてやりたいじゃん!
「そんなこと言ったって、坊さんでも何でもないんだからよぉ... 」
リューが膝から下りてサキに向かって唸る。
サキの回りに、何やら黒いモヤモヤしたものが集まってきて、増えた分だけヤバイ気配が増大する。
「探してあげるよ! 体が見つかれば帰れる!?」
あたしは立ち上がった。
「おいおい... 」
ケンジがかすれ声を出す。
「ずっと探しても見つからなかったのに、見つかるわけない!」
サキの顔がこわばっている。
黒いモヤが、あたしたちの回りにもまとわりつこうとし始めた。
気持ちの悪い、嫌な感じの冷気をもったモヤだ。
これ自体が、はっきりした形を維持できなくなった霊たちなのかもしれない。
サキの心の乱れに乗じて集まってきたのだろうか。
ーーこれと、戦えるだろうか。
いつでも衝撃波が撃てるように、両手に力を込めた。
... 効くかなぁ、どうかなぁ。
黒いモヤが、ぐにゃりとうねって、あたしたちへ突っ込んできた。
両手を前に出して応戦しようとしたあたしの前に、ケンジが両手を広げて立つ。
えっ、危なーー
血の気が引いたその瞬間、さらにその前に人影が現れ、黒いモヤのうねりはナニかに弾かれた。
「ーー正義の味方か、お前らは。」
思わず言ったあたしに、
「他に言うことがいろいろあるやろ!」
勇と翔が、けっこう怒っている顔で振り向いた。




