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異世界間トラブル解決のバイト?始めました  作者: ぶんのしん
尚、被疑者は異世界人と見られています
23/97

六日目 人生最大の危機ですよ

 死ぬ気で首だけ動かそうとしてあんまり動かなくて、ちょっとだけだけど精一杯頭を後ろに引いているものの長髪の息づかいを口元で感じてしまった絶体絶命の瞬間。

「葵ぃー!」

 あたしがのぼってきた階段の方から、最近聞きなれた大声が響いた。

 その声で一時停止した長髪が、そちらを見ようと首を動かしかけてーー

「ふっざけんなー!」

 こちらはあまり聞かない、珍しいほど焦った声が、突然耳元で響いてあたしと長髪の顔がべきっと引き離された。

 空間転移であたしと長髪の間に割って入った翔だ。

 翔、あたしとそいつそれぞれの顔を手で押し離すと、あたしもわりと痛いんだけど。

 でもーー助かったぁ... !

 抱きつきたい気分だったが、体の自由が利かない。

 そんなあたしの手をとったのは、翔ではなく長髪の方が早かった。

 恐らくあたしを掴んで転移で距離をとるつもりであっただろう翔の手が宙を掻き、あたしは長髪の腕の中におさまっていた。

 しかも長髪の手が翔に向かって何かの攻撃を仕掛けようとするように動きーー

「ぐっ... !」

 背後の階段側にいた勇が何らかの攻撃を撃ったようで、長髪は呻いて攻撃姿勢を崩した。

 階段側に勇、その反対側に翔、間にあたしを拘束した長髪とその他四人。

 挟み撃ちのようなポジション取りだが、実は翔には攻撃能力はない。

 しかし、あたしと勇がああいう攻撃をして見せたことで、翔のことも警戒しているようだ。

 じり、と、その他四人が長髪の方へ後ずさってきた。

「... ふっ。」

 にらみ合いの沈黙を破ったのは長髪だった。

「どうやら君たちはマイハニーの仲間のようだな。」

 ... 緊迫ムードが一気に白ける。

「オムダーマさん...」

 呆れ返った様子でその他四人のうちの一人が控え目につっこみを入れようとした様子だが、言葉が続かない。

 だが、とりあえず長髪の名前はオムダーマというらしい。

「誰がマイハニーや!」

 つっこんだのは勇だった。

「この子だよ。一目見て気に入ったんだ。この子は商品でなく私のものにする。」

 つつつ、と頬を撫でられて、戦慄。

「商品?」

 ちゃんと話の内容聞いてたのは翔だった。

「そう。君らの世界の若くて美しい女性をこちらの世界に輸出するのが私たちのビジネスなのだよ。美味な血は高く売れるからね。だから営業妨害はやめていただこう。」

「誘拐した人たちに何をした?」

「商品たちも見たのか? 暗示をかけて深く眠らせているだけだ。生体機能をギリギリまで下げて一定期間食事などの必要をなくしておいた方が、保存が楽だからね。さてーー」

 饒舌に語ってから、オムダーマはあたしの喉元に手をかけた。

「そういうわけで、私もハニーにキズはつけたくないのだがーーもし君たちがこの子をどうしても取り返そうとするならば。」

 喉に触れる手に力がこもり、爪が食い込んだ。

「手ぇはなせ!」

 叫ぶ勇に、オムダーマはニヤリと笑いかける。

「私のものにならないのだったら、いっそ殺してしまって血だけでも味わおうかな... ?」

「やめろ!」

 翔が青くなる。

「やめてほしかったら、君、ゆっくりとあっちのお仲間の方へ歩いて移動したまえ。」

 オムダーマは勇の方を示して言う。

 翔は顔をこちらにむけたまま、じりじりとオムダーマの言葉に従って移動した。

 一ヶ所にかためてどうするつもりだ。てゆーか、言われるがまま一ヶ所にかたまっちゃってどーすんだ!

 精一杯じたばたしようとして、やっぱり体は動かなくて、口をパクパクしていると。

「どうしたハニー? 二人に別れの挨拶かな?」

 う、

「うるせー変態!」

 あ、声出た。

 オムダーマが余裕ぶっこいてるから、わざと声だけ出るように暗示を緩めたのか?

 まぁ、なんでもいいや。

 あたしは二人を見た。

「だいたいなんで二人とも思いっきり出てきちゃったんだよ! もっと不意討ちで攻撃して無力化とかだってできたはずだろ!?」

「... 助けに来た二人に文句なのか... 」

 その他四人のうちの誰かがぼそりと言う。

「そんなん言うてもしゃあないやろ!」

「あの状況で冷静でいられるか!」

 逆ギレの体で怒鳴る二人。

「あの状況って何だよ!?」

 あたしは更に怒鳴り返す。

「ソレに! キスされそうになってただろっ!」

「そうや! そんなんほっとけるかっ!」

 ソレ呼ばわりされたオムダーマが、フンと鼻を鳴らした。

「いや、確かにアレは助けてーって思ったけど! お前らムキになりすぎじゃね!?」

「あーもう! 本当にニブイなお前は!」

 あたしの言葉に、なんだか翔は地団駄を踏んだ。

 そこへ勇が割って入る。

「あんなん黙って見てられるわけないやろ! 俺は! お前が!」

「俺はな、お前がっ!」

「好きなんやから!」

「好きなんだよっ!」

 ... ... ... ...

 ... ... ... ...

 は?

 状況についていけず、完全にフリーズする。

 えっと、あの、え? え? えー???

「つまり、お前らは私の恋敵というわけだ。ーー食らいつくせ。」

 混乱中のあたしに構わず、オムダーマがあっさり言った。

 指示した相手はーー階段付近の部屋からわらわら出てくるコウモリ。

 あたしを制圧したあとどこかへ消えたと思っていたら、あの辺の部屋に待機していたらしい。ってーー

「くっ... 」

 身構えた勇と翔が、一瞬でコウモリに隠れた。

 反撃する様子はない。

「え... ?」

 そんな... 反撃してよ。

 だって、そんな... そんなのって...

 食らいつくせ、と言ったオムダーマの声と、初日異世界で見た動物の骨がフラッシュバックしーー

「う... 」

「ハニー?」

「っあぁああぁああああああああ!!!」

 足元から熱い何かがこみ上げてきて、腹を巡って、脳天から突き抜けていった。

 それはあたしの回りで一回とぐろを巻くように体勢を整えると、竜巻のように周囲のものを巻き込んで暴れまわっていった。

 青い龍って言っていたのは勇だったか、翔だったか...

 思い出そうとしながら、あたしは膝から崩れ落ちて、意識を、失ったーー

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