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異世界間トラブル解決のバイト?始めました  作者: ぶんのしん
尚、被疑者は異世界人と見られています
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4月1日ですが、本当のことみたいです

 目が覚めると、普通に自分の部屋だった。

 つまり結局、普通に、夢だった、ってことでいいのかな?

 そのわりには、やたら内容をはっきり覚えている夢だったけど。

 起き上がって、くっと伸びをする。

 さて、春休みも折り返しだ。今日は何をしよう?

 とーー

 左手が振動した。

 へ? 何だろう、しびれてた?

 自分の左手を見ると... 手首に、身に覚えのない金属がついていた。

「は?」

 十センチくらいの幅広の腕輪のような何か。無機質な銀色。右手で触っても、ピタリと左手首にくっついてずれもしなるい。

 なのに、くっついている圧迫感みたいな触感が全くない。

 振動しなければ、存在に気づかなかった。

 てか何この振動?

 生き物なの? 爆発すんの? バイブ? 着信?

 ... 着信?

 腕輪の表面をタップしてみる。

 うわ、電話みたいなアイコン出たー。

 発信者であろう名前はーー勇。

 マジかー、と思いながら、アイコンをタップ。

 腕輪の表面が、画面に変わった。

「お前! 葵か!」

「おぅ。お前は、勇、でいいのか?」

 画面に映っているのは、さっき夢に出てきたつり目の顔だった。

 ... マジかー。

「テレビ電話なんだ、これ。ウェアラブルスマホ的な?」

「そうみたいやわ。いろいろいじってみたらお前らの名前が出てきたから押してみたら電話かかってしもた。」

「お前ら、ってことは、翔?にも?」

「グループ通話できそうな感じに二つまとめて押せたんやけど、あいつは出んなぁ。」

「一番うさんくさがってたから、わざと出ないのかもな。」

 言ってるうちに。

 画面が分割されて、勇の隣に不機嫌そうな翔の顔が映った。

「しつこいんだよ! 自然と切れる機能はないのかこれはっ!」

 確かに、ずっと手首が振動してたら、だいぶ鬱陶しそうだ。

「おー、こっちもほんまに翔やー。夢やなかったんやなぁ。」

「... のんきだなお前。これ、かけてきたのもお前だろ? いつの間にか体についてて取れない、得体の知れない物を、よくそう自分から使ってみたな? 危ないとか気味悪いとか思わねーの?」

「う。何も考えんかった。」

「まったく... もう他には何も触るなよ。お前ら見てると俺がハラハラする。」

 ... へー。

「... 細かいことうるさい奴かと思ったけど、心配してくれてたんだ。優しいのな。」 

 ぽろりと言うと、翔はちょっと照れたようだったが、

「前半が余計だよ。」

と、膨れた。そして、

「ともかく、これがエイプリルフールでもなく現実なら、今夜も夢にあのじーさんが出て来るはずだ。この腕輪のことはその時訊ける。俺、部活あるからもう切るけど、お前らちゃんと夜まで我慢しとけよ?」



 というわけで、夜。

 春休みにしては早めに就寝支度を済ませてベッドに入り、しかしなかなか寝付けずにいたりして、そして。

 気づいたら、目の前に勇と翔がいた。

「遅い!」

 ビシッと勇に指をつきつけられる。

「え、遅かった? いや、なんか寝付けなくって。」

「そろったようじゃの。」

 どこからともなくじーさんが現れる。今日は上から降りてくる演出はないようだ。

「まず! これはどうやって外すんだよ? 一日テーピング巻いてごまかしたんだぞ。」

 昨日は自分からじーさんに目を合わせなかった翔だが、今日は腹を決めたのかご立腹なだけか積極的だ。

「そうそう、それの話もできんかったなぁ。とりあえず、それは外せん。」

「ええー!」

 俺もさすがに声をあげる。

 今日は長袖着てたので目立たなかったが、さすがにずっとは困る。学校始まると特に。

「しかし、見えないようにしておくことはできる。」

「画面を長押しやな。」

 得意気に言う勇。

「... お前...」

 翔は呆れた顔で勇を見る。あれだけむやみに触るなよって言ったのに!と目が言っている。

「いや、だって! 俺かて部活あったし! どうにかなったらええなって... 」

「俺はちゃんと触るの我慢したぜ!」

「なんや葵、お前は部活とかなかったんか?」

「文化部に春休み練習などないのだっ。」

「そんなことないわ、お前うちの吹奏楽部に謝れ。」

「お前こそ吹奏楽部に謝れ。奴らはどちらかと言うと運動部だ。去年の持久走大会、女子の一位は吹奏楽部部長だったぞ。」

「ーーそのどうでもいい話、それ以上広げんなよ?」

 翔に怒られた。

「... あー、うむ。不可視モードは画面長押しで正解じゃ。他に質問はあるかな?」

 じーさんも呆れてたようだ。

「そもそも、これ何なの?」

 気を取り直したのか、翔が腕輪を指して尋ねた。

「任務遂行のための秘密道具じゃ。通信、アイテム収納、年齢設定、能力確認等ができる。」

 うわー。なんかまた興味深くも怪しげな言葉出てきたー。

 しかしここの進行は翔とじーさんに任せることにする。

 下手に口出すとまた怒られそう。

 俺ら三人が聞くに徹しているのを確認し、じーさんは先を続ける。

「まず、通信機能。画面に触れるとアイコンが表示されるので、電話のアイコンをタッチする。すると、名前が三つ表示される。」

「三つ?」

 聞き返しながら、言われるがまま操作してみる。

 通話アイコンは本当にスマホの電話マークそのまんまなので、勇が勢いで使ってみたのも無理はないような気もする。

 表示された名前は、勇・翔・タロウ。

「... タロウって誰。」

「ワシのコードネームじゃ。」 

「なんでタロウ?」

「日本でポピュラーな名前だって聞いたからじゃが... 」

 記入例見本かよ、と突っ込みかけて、翔の視線を感じて飲み込む。くだらないところに食いつくな、という目だ、あれは。

 黙った俺を見て納得したと取ったのか、じーさんは説明を続けた。

「今のように意識を繋げて会合するのは諸君の睡眠中しかできん上に、諸君からのコンタクトが不可能なため、今後はこの通信を使ってやり取りすることになる。

 次にアイテム収納。箱の形のアイコンを使う。下向きと上向きの矢印が表示され、下向きを選ぶと撮影画面になる。収納したい物を枠内に収めて撮影すると、それが収納される。出すときは上矢印。画像の中から取り出したいものを選ぶと取り出せる。」

「うわー、未来道具ー。」 

「便利やわー。」

 思わず声に出すと、じーさん満足げ。

「次、スパナのアイコンは年齢設定じゃ。実際任務にあたるとなると、子どもの姿では不都合もあろうし、体力的にも未熟なので、二十歳前後に設定して行動するのがよいじゃろう。」

「え、年齢いじれるの? すごいね。」

 確かに、中学生では行動範囲も活動時間もだいぶ制限されるもんなー、補導されても困るし。

「なんでもありやなー。」

「最後に本のアイコンが能力確認じゃ。各自、使える能力が表示される。開いてみるといい。」

 促されて本のアイコンをタップ。


  ・[物理干渉] ー [エネルギー発現]

         ー [運動能力助成]


  ・[生体干渉] ー [生体治癒]


「これ、見れて何か意味はあるの?」

 昨日聞いたのそのまんまみたいだけど、と思い尋ねる。

「能力というのは訓練と慣れや経験で熟練度が上がり、ランクアップしたり派生した能力が芽生えたりすることがあるのでな。できることが増えたと感じたらここで確認するといい。」

「へー、増えたりするんだ。」

 ちょっと楽しみかも。

「明日から能力の使い方は練習を始めてみるとよいぞ。」

「ーーちょっと待て。」

 ここまでじっと聞いていた翔が、口を開いた。

「完全に引き受けるみたいな話になってるけど、俺やるって言ってないからな。」


 ーー確かに! すっかりやるのが前提で話進んでたっ!


「えっ? やってくれぬのか?」

 本気でびっくりしているらしいじーさん。どんだけ「中二はやる」って信じてたんだよ。

「だって勝手すぎるだろ、勝手に選んで勝手に能力だかなんだか使えるようにして、勝手に変なもの付けて。なんで素直にやらなきゃならないんだ?」

 言われてみれば、そうだよなぁ、流されてたけど。

 でも。

「そういえばさ、そもそもその異世界人の犯罪って何なわけ?」

 根本的なことを聞き忘れてたなぁ、と思い、尋ねる。

「例えば、殺人や誘拐、希少動植物や希少鉱物の持ち出し等... が前例かのぅ。」

「てことはさ、俺たちがやらない、って言ったら、これからも誰かが誘拐されたり殺されたりして、普通の警察には捕まえられないまま野放しになるってこと、だよな?」

「まぁ、どうしても断られたら、また別の候補者を探しはするがなぁ。」

「誰かは、やらなくちゃいけないことってことか。」

 言いながら、俺はもう覚悟を決めていた。

「誰かがやらなければ、次に被害に遭うのは、身近な誰かかもしれん。そして身近でなくとも、発生件数は多くなくとも、どこかで被害に遭っている誰かがおるのは事実じゃ。」

 まぁ、正直まだよくわかんないことだらけだし、だいぶ責任重大っぽいけど。

「じゃあ、俺はやってみようと思う。」

「よう言った!」

 がしっと抱きついてきたのは、何故か勇だった。

「わあ! やめろ離せ。てかお前の立ち位置はどこだ? じーさんのサクラか?」

「サクラやないけど、俺は最初からやる気やったからな!」

 言いながら、抱きつくのはやめたがバンバン肩を叩いてくる勇。

「... 翔は、どうする?」

 尋ねた俺をじっと見て、それから翔はため息をついた。

「そんな話されて、もう嫌だなんて言えないだろ... お前らだけだと危なっかしいし。」

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