二日目 気を取り直して聞き込みから
また強制スリープになると困ると言われて、二人の手当ては痛みを感じない程度まででとどめた。明日には、傷跡もすっかり消せるとは思う。
何だかんだで昼になってしまったので、かおりさんのバイト先のファミレスにランチがてら情報収集に行ったが、平日ランチタイムは学生アルバイトの時間帯じゃないそうで、特に収穫はなかった。
高校の授業が終わるまでにはまだ時間があるので、次は私服でも潜り込めそうな、専門学校。
無断欠席と連絡不通から行方不明発覚だったので専門学校生ゆみさんの失踪は噂になっていて、直前まで一緒だった友人はわりとすぐに教えてもらえた。
「あんたたち、誰?」
胡散臭げに訊かれて、翔はペコリと頭を下げた。つられてあたしと勇も会釈する。今日の聞き込みは翔主導だ。
「突然すみません、ここの一年です。俺たち、入ってすぐのときに書類関係で困ってたら、たまたまゆみさんに親切にしてもらって。... それで、きれいな人だし、俺そのあともずっと気になってて... 」
年下設定らしい。つーか、ストーカー臭がするけど大丈夫か?と思ったが、相手は特に引いてる感じはしない。
翔を横目で見ると、子犬系の健気な表情。
誰だお前は。
そして、これがただしイケメンは除く、か。いや、限る、だったか。
引いてはいないものの、こちらの出方を戸惑い気味にうかがっている彼女に、翔は続ける。
「だから、行方不明らしいって噂を聞いて、心配になっちゃって。いなくなる直前まで一緒にいたの、先輩だって聞きました。何か変わったことがなかったか、教えてもらえませんか? お願いしますっ。」
「お願いします。この人、噂聞いてから落ち着かなくって... 」
申し訳なさそうに、あたしは援護射撃。
しばらく、あたしたちそれぞれの顔を見て考えている様子だったが、辛抱強く待った。
そして。
「いいよ。私も心配だし。でも、探偵ごっこの役にたちそうなことは、何もなかったんだけどね... 」
曰く。
あの日、授業が終わったのは午後五時。
教室は空いていたので、そのまま数人で雑談していたが、自宅通いの人が帰る時間になり、それに合わせて各自解散に。
みんなで夕飯を食べに行くこともあるが、その日はたまたま下宿で家も比較的近いゆみさんと二人で食事に行くことになった。
学校を出た時点ではそんなにお腹がすいていなかったため、駅ビルの中を冷やかしたり安いプリクラを見つけて撮影したりした後、午後7時頃よく行くパスタ屋さんへ。
特にいつもと違う話をしたわけでもなく、お店を出たのは10時。
別れてからもスマホで話題の続きをやり取りしながら、12時すぎくらいに「おやすみ」のスタンプが来たのが最後だと言う。
「... なんでメシ食ったあとも三時間とか話してられんのや... 」
専門学校を出てから勇が呟く。
「店に入ったのが7時くらいなんだから、食い終わってからは二時間くらいじゃないの?」
「細かいな葵。だいたい二時間も長いわ。」
「えー、そうかなぁ。」
「終電関係ないのに二、三時間なら序の口だよ、きっと。あいつら、本気出せば徹夜で喋れるぞ。」
「なんや、翔、誰の話やねん... 」
「ねーちゃん大学生らしいよ。」
「あー、確かにねーちゃんいそうな感じやわ。葵は兄弟は?」
「妹が二人。」
「は? お前がねーちゃん?! ぜんっぜんらしくないわー。」
「はぁ? そういうお前は何なんだよ?」
「俺はにーちゃんが欲しかった一人っ子や!」
「... お前らも充分何時間も話せそうだけどな... 」
なんだか翔が呆れていた。