二日目 あたしのやらかしたこと
目が覚めたら、リビングの隣の部屋で、一人布団の上で寝ていた。
そもそもここはどこだっけ?ぐらいの状態から、徐々に意識がはっきりしてくる。
そっか、昨日いろいろあったんだった。
起き上がって、まだ少しクラクラする頭を押さえて、ゆっくり立ち上がる。
ドアを開けると、勇と翔がマグカップで何か飲んでいた。
ーー二人とも、まだ生傷が痛々しい。
「おはよう。けっこう寝てたな。」
ごく普通に翔が言う。
「先朝飯食うてたで。」
「ーー昨日、ごめん!」
流れをぶったぎって、あたしは頭を下げた。
「や! 別に! 気にしてへんし! 別に嫌やなかったし!」
「... あんなに、流血して骨折したのに、嫌じゃなかった... ?」
マゾか?
いぶかしげに顔を上げると、何故か立ち上がってた勇は顔が赤く、しかもそこからさらに赤くなった。
「ーー嫌やった! 痛かった!」
「お、おう... ごめん。」
沈黙。
「... まぁ、とりあえず、風呂入ってこいよ。昨日強制スリープみたいに寝ちゃっただろ。体調どうだ?」
「ちょっとクラクラする。じゃあ、お言葉に甘えて... 」
気まずけにどしんと椅子に座り直した勇に首をかしげつつ、あたしは翔に言われるがまま浴室に向かった。
シャワー浴びてさっぱりして、トーストとインスタントスープの朝食をとると、だいぶ体調が戻ってきた。
「確かに、顔色もようなったわ。」
ダイニングテーブルの向こう側から勇が言う。
「MP切れみたいなものだったのかなぁ、広範囲無差別攻撃かましたあとに治癒能力も使ったから。」
同じくテーブルの向こう側から、今度は翔が呟く。
「あのー、それなんですけど、... 昨日あたしは一体何をしたんでしょーか... ?」
恐る恐る尋ねると、勇と翔は顔を見合せ、
「... だから、広範囲無差別攻撃。」
「そこんとこもう少し詳しく... 」
一言で済まそうとする翔に食い下がる。
「って言われても、やった本人がわかってないもの、俺らだってわかんねーよ。一瞬だったし。」
「せやなぁ... なんでか知らんけど、あのときコウモリが葵の方にばっかり群がって... 」
「ああ... あれ、なんでだったんだろう? O型だからかな?」
首をかしげたあたしに、
「蚊かよ。ーーまぁ、でも血を吸うから似たようなもんなのかな... 」
翔も首をかしげる。
「なんやろなー。ほんで、あかんと思って助けようとしたら、水蒸気爆発みたいなんが起きて、吹っ飛んだ。翔はようあれで大怪我せんかったな?」
「とっさにバリア張ったから... けど、それでも防ぎきれなくて、それなりには飛んだけど。だから、バリアが耐えてる間少し、見えてたのは... 」
思い出すように、翔は口元に指を当て、
「龍... みたいに見えたかな。青白い龍が竜巻みたいにコウモリを巻き込んで殲滅してた。」
「えげつな。」
「... 龍、ですかー... 」
聞いても覚えがないあたし。
「まぁ、覚えてないもんはしょうがないんじゃね? コウモリに囲まれて死ぬかと思って無我夢中ってことだろ。」
「そうです... 」
「そういうところがあるって自覚して、以後気をつけるように。」
「はい... 」
「以上!」
「... 怒ってないの?」
あまりあっさりした物言いに、ちょっと涙目になって言う。
「昨日怒ったじゃん。」
続けてあっさりな翔。
「そうだけど... 怪我までさせちゃったのに...」
「まぁ、治してくれたんもお前やしな。しかもぶっ倒れるまで。」
勇もケロリと言う。
「そうだな。体力戻ったら勇の残りと俺のことも治してくれれば、それでチャラで。」
... くそぅ、お前らっ...
「いい奴だなぁー!」
「痛い痛い痛いっ!!」
思わず二人の手を掴んだら、力を入れすぎて怒られた。