第八話 ネコーズ VS 首無しライダー 出現編
ネコーズとモコソンはやる事が無くなり、杏奈ちゃんのババアの家でゴロゴロしていた。
「相棒の再放送を見た後は、ニュースを見て、それからスラムダンクだな!
スラムダンクが終わったら、ちょっとみんなでちょいブラするニャ!(ちょいとブラブラするの略。小学生の女の子が最近成長し、あれ? ブラジャーが必要かな? と先生が心配し出して、するブラジャーではない。ちなみにこっちは、ちょいとブラジャーしてくださいの略だ。モコソン調べ)そうしたら、この事件は解決ニャ!」
ネコーズにこう言われ、スラムダンクが終わってからという無駄な時間を使い、みんなで玄関前に出る。すると、向こうからバイクが走って来た。しかし、そのバイクは普通ではなく、首が無かった。
「きゃあああああああ、首無し……」
杏奈ちゃんのババアは、腰を抜かして驚く。この演出を仕組んだネコーズだったが、こんなに良い反応をしてくれると、くせになりそうだなとか、考えていた。
「そう、これが巷を騒がせている
首無しライダーの正体です!」
ネコーズがそう言うと、首無しライダーは止まり、ジャケットから首を出した。
「あら、大呉さん……」
大呉はバイクから降り、挨拶する。
「どうも奥様、実は、この近所でワイヤーを張った悪戯を見付けましてね。誰がやったかを調査していた所です。その反応だと、奥様がその悪戯の犯人でしょうか?」
杏奈ちゃんのババアは年甲斐もなく、乙女のような表情をして話し始める。
「はい、この電柱にワイヤーを張ったのは、私です。してはいけないと思ってましたけど、毎日毎日うるさくて、暴走族の人々が事故にでも遭ってくれればいいと思っていました。
でも、夢で切れる部分はどこだろうと考えていると、丁度ワイヤーを張ったのは、ドライバーの首の位置だったんです。
本当はすぐ外すべきでしたが、まさかその翌日にあんな事になるなんて……。私が、ドライバーさんを殺しました……」
杏奈ちゃんのババアは恐る恐るそう言った。
ネコーズのカッコいい推理ショーが始まる。
「お婆さん、あなたは何か、勘違いをしているようだ。その日に事故で死んだのは、ワイヤーが原因ではないよ。
雨が降って、濡れていた所を、死んだドライバーが無理なドリフトをして、壁に激突したんだ。その後、救急車がこの道を通り、ワイヤーを引っ掛けて、切ってしまったというわけニャ。
お婆さんの行為は、道路交通法違反だが、殺人事件じゃない! あのドライバーは、事故で死んだのニャ!」
お婆さんは安堵したように言う。
「嘘……」
「嘘じゃないニャ! ほら、この救急車、フロントにワイヤーで切ったような跡があるだろ。しっかり結んでいないと、ここまで傷付かない。
更に、救急車の前には、血液反応は全く出なかった。つまり、誰も傷付いていないというわけだ。ワイヤーを張ってしまったお婆さんの心以外はね……。もう、許されても良いころだろう!」
ネコーズの優しい言葉を聞き、ババアは崩れ落ちて泣き始める。
「うう、本当は怖かったんです。もしも、誰かを殺してしまっていたらと……」
こうして、岩手の首無しライダー事件は解決した。お婆さんは泣いていたが、しばらくすると家事を始めた。美味しいご飯が、ネコーズ達を待っている。大呉はネコーズに尋ねる。
「お婆さんが毎日のように、首無しライダーを見ていたのはどうしてなんだ? 今日の一回しか、俺は演技していないのに……」
そう不思議がる大呉に、ネコーズは語る。
「ふむ、ババアが毎日見ていたのは、暴走族のドライバーを殺してしまったかもしれない、という思い込みが産み出した怪物だ。
しかし、僕はババアが、実際にいた首無しドライバーを見ていたのだ、と思い込んでいた方が良いと思う。その方が、ババアの精神を怖がらせずに済むからね!」
ネコーズは暗い夜空を見上げ、ポーズを決めていた。大呉の脳裏に、そのカッコいい猫の姿は刻まれた事であろう。
その姿が、人々を救おうという大呉の力になってくれれば、とネコーズは静かながらにエールを送っていたのだ。その後、大呉は職場に行き、また多くの人を救っている事だろう。
ネコーズはババアの家に帰り、ご飯を食べる。ネコーズは久々に働いたためか、お腹が空いている。
「ババア、ご飯、お代り!」
「ババア?」
「あ、美人の奥さん、ご飯を下さいませんか?」
「よし、大盛りをやろう!」
こうして、岩手の夜は更けていった。そして、ネコーズ達は、翌朝帰る事になる。新幹線の駅に、杏奈ちゃんが見送りに来てくれた。
「ネコーズさん、ありがとう。もう少し、ゆっくりして行けばいいのに……」
「もうすぐ、コミケがあるからね。僕達の目的は、豊橋でもコミケを開催する事なんだ!
多くの人々に、この漫画を読んでもらいたいという気持ちで描いている!」
ネコーズはそう言って、漫画を見せる。
「ふーん、お仕事忙しいんだ。頑張ってね!」
モコソンは立派な顔で、エロい事を言う。
「杏奈ちゃん、豊橋に帰って来たら、僕のメイドとしてお手伝いに来てよ。おやつもあるし、メイドさんがいると、僕の創作意欲も沸くからね!」
「う、うん。考えておく……。それより、これ、お婆ちゃんが事件解決してくれたお礼だって!」
そう言って、杏奈ちゃんは封筒を渡す。
「ふっ、ようやく来たか! まあ、手間賃込みで、2万円は相場だろうね!」
ネコーズがそう言って、封筒を開けると500円玉が二枚入っていた。ネコーズは当然怒る!
これでは、往復の新幹線代にも満たないからだ。無賃乗車したけど、本来ならば子供料金くらいは取られていたかもしれない。
それほどの危険な旅だったのだ。当然、1000円では釣り合わない。
「くっそ! 1000円だと? 猫だと思って舐めやがって!」
「まあまあ、良いじゃないか」
モコソンは、怒るネコーズを静める。すると、心配した杏奈ちゃんは尋ねる。
「それじゃあ、足りなかった? これ、私のお小遣いだけど、良かったら……」
杏奈ちゃんは、なんとババアからもらった1000円札4枚の内、2枚をネコーズ達に渡す。ネコーズはそれを見て確信する。この子は将来、美人で優しい子になると!
「ありがとうニャン! ありがとうニャン!
これで、また漫画の画材が買えるニャン!」
そう言って、ネコーズは豊橋に帰って行った。