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ファンタジーな短編いろいろ

少女と夢と恋と騎士

作者: 永月るか
掲載日:2014/04/25

 太陽が中天に登る頃、ある山の中腹に建つ小さな家で少女は頭を抱えていた。

 あー……とうなろうが、うーとうなろうが、結論は出ている。

 けれど、その結論が嫌で、彼女は延々とその行為を繰り返していた。

 ……朝起きて着替え、ご飯を食べて終えてから、かれこれ4時間ほどの間、繰り返していた。


(あー、うー……嫌だなぁ……)


 少女は何度目かになる言葉を胸中で繰り返す。

 そして金色の髪で輝く頭を抱えつづける。

 同色の瞳が嫌だとありありと語っていたが、それを見る者もいない。


 頭を抱えながら少女は窓の外の太陽を見る。

 もうお昼だ……お腹もぼつぼつと空腹を訴えている。

 耐えれて後、数時間……それを過ぎたら、結局はソレをしなくてはいけない。

 外へ出なくては、いけないのだ。


(……嫌だなぁ)


 もう一度、少女は胸中で繰り返す。

 外は嫌だ。

 あのさんさんと降りそそぐ太陽は自分を殺す気なのか、とさえ思う。

 そんな、引きこもりのような思考を、少女はため息をつきながら、めぐらせる。


 はぁー……と少女はもう一度、重く深いため息をついて、立ち上がった。

 無駄だとわかりながらも、目立つ金色の髪を三角巾カーチフで出来る限り隠し、バスケットに金貨を入れて玄関へ向かった。


 山を下って、最寄りの村へと向かう。

 その足取りは、とてもゆっくりしたものだ……少女の心を表すかのように。


 それでも30分ほどで少女は村に着いた……着いてしまった。

 また一つ大きなため息をついて、少女は村の前で祈る。


(どうか、静かに商人さんの所まで行けますように……)


 出来れば、誰とも関わりあう事なく。

 必要最低限の人との接触だけで、すませたい。

 そう、また引きこもりのような思考を少女はめぐらせる。


 ゆっくりと時間をかけて神様に祈ってから、少女は村へと足を踏み入れた。

 その、瞬間だった。


「あー、ゆうしゃさまだー」


 幼い少女の声が高らかに響いた。

 あぁ、相変わらず役に立たない神様だ、と思いながら少女は空をあおぐ。


 幼い少女の声にわらわらと子供たちが金髪の少女の周りを取り囲んだ。

 そして、それに気づいて人々が集まってくる。


 どの顔にも、輝くような笑顔が浮かんでいた。

 その笑顔に少女の心は重くなる。


「これはこれは、勇者様。1月ぶりですなぁ」

「今日は食料の調達ですか? あ、この野菜、うちで取れたんです、よかったら持って行ってください」

「ゆうしゃさま、おはなしきかせて」

「駄目よ、勇者様はお忙しいのよ。あぁ、勇者様、よろしければ、鶏の卵はいかがですか? 勇者様のおかげで、今日も鶏たちがとても元気なんですよ」

「本当に、今の生活があるのは勇者様のおかげです。俺たちが今ここで住めるのも、子供たちが笑っていられるのも。あの時、勇者様が村を襲った魔物を退治してくださらなかったら、どうなってた事か……」


 一人の男性の言葉に周囲の大人が頷き、子供たちが珍しく神妙な顔をして、大人たちにつられるように頷いた。

 その間にも少女を囲む人の輪は広がっていく。


「……そんな……私はそんな大したこと、してませんよ……」


 小さな声でうつむきがちに少女が言うと、大人たちはいっせいに首を横に振った。


「いやいや、勇者様は本当に謙虚だからなぁ……」

「そうですよ……あ、うちの牛たちがいい乳を出したので持ってきますね」

「そういえば、ベーコンが上手く出来たんですよ? 豚肉も少しあったはず、ちょっと待っててくださいね」


 周囲の人々の好意が少女のバスケットを埋め尽くしていく。

 食べ物で埋め尽くされたバスケットを見ながら、少女は頭を下げた。


「……ありがとうございます」

「そんな、俺たちなんかに、もったいない! 頭を上げてください」


 結局、今日も金貨を使うことがなかったな……などと考えながらも。

 人々の厚意は暖かくて……それなのに純粋にこたえられなくなった自分を、少しだけ寂しく思いながらも。


 少女は村人の言葉に頭を上げると、ゆっくりと微笑んだ。

 それが一番、村人たちの喜ぶことだと少女は知っていたから。


 少女の考えたとおり、その微笑みに村人たちの顔も笑顔になった。

 ……少女の笑顔がぎこちないことに気付く者は、誰もいなかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 少女は思い足取りで山の上の家へと帰った。

 そして家に入るなりバスケットを机に置き、寝室へと足早に向かう。

 寝室のドアを勢い良く開き、それから、ぼふりと清潔に保たれた真っ白いシーツへと倒れこんだ。


(食べ物に保存の魔法をかけないと……あぁ、でも、今日はもう動きたくない)


 脳裏にきらきらと輝く村人の顔がよぎる。

 勇者様、と慕う顔がよぎる。

 その顔に、胃が重くなっていく。


(今日はもう、ご飯いらない、な……)


 空腹に負けて家を出たというのに。

 今はもう、胃が食べ物を受けつけない。

 その事実にため息をつきながら、少女は金色の瞳をまぶたで隠した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 少女は、かつて勇者だった。

 神の加護をさずかった、勇者だった。

 その加護の元、多くの人々を救い、多くの魔物を倒した勇者だった。

 復活した魔王を倒した勇者だった。


 少女の脳裏に一人の青年の姿がよぎる。

 共に旅をした仲間であり、少女の恋した青年を思い出す。

 きらきらとした視線で少女を見ていた彼を思い出す。


 彼はこの国の王子だった。

 おとぎ話の王子様のような、優しく美しい青年だった。


 そんな彼とその国を守るために、少女は頑張った。

 数え切れないほどの人を救い、数え切れないほどの魔物を倒した。

 自分を見る王子の瞳が、かげっていく事に気づかないままに。


 少女は魔王を退治する自分を思い出す。

 血にまみれ、痛みに耐えながらも倒した魔王。

 勇者とその仲間も魔王には苦戦した。

 王子は痛々しく大地に体を投げ出して、仲間である騎士も聖女も立っているのが精いっぱいだった。

 その魔王を、それでも少女は倒した。

 全身を血に染め、苦痛にたえながら、それでも魔王を討ち取った。


 その瞬間の自分は、もしかしたら微笑んですらいたんじゃないかと、少女は過去に思いをはせる。


(そう、きっとあの瞬間、私は……)


 これでやっと、王子がこころうれいることがなくなる。

 もしかしたら、自分を妃にと言ってくれるかもしれない。

 そんな幻想をいだいて、少女は魔王を倒した。

 国を守るためよりも、王子を守るために。


 けれど……。


「……バケモノっ」


 魔王を倒し、まず王子に駆けよった少女の耳に。

 そんな小さな言葉が届いた。

 かすれた声は震えていて……それが余計に王子の心をあらわしているように少女には思えた。


 バケモノ。

 その言葉に少女は瞳を見開いて。

 けれど、その妙にしっくりとくる呼び名に。

 涙が出ることはなく。

 ぎこちなく、笑った。


 ……そう、きっと、自分はバケモノなのだ。


 少女の胸に、王子の言葉がおちてくる。


 普通なら倒せないはずの魔王を倒した、バケモノ。

 それも、助けを求める多くの人のためではなく、たった一人のためだ。

 自分の欲望のためだ。

 ……誰が、王子を責められる、だろうか。


「おい」


 聞き覚えのある声で少女は目を覚ました。

 白いシーツが目に入る。


 ここはどこ? 夢うつつに思った少女は思い出す。

 ここは山の上の家だ。

 あの戦いの後、彼女が住むことを決めた小さな人里離れた家だ。


 いつの間にか眠ってしまったらしいと思いながら、少女は声の主を探す。

 そこにはかつての旅の仲間だった騎士の青年がいた。


「なに?」

「なに? じゃねぇ、このモノグサ勇者! どうせ、また、過去のコトをくよくよ、ウジウジ考えてたんだろ」

「そんなこと……」

「あるから、まだ、こんなとこに住んでんだろうが? 王都に館を下賜かしされる話まで蹴ってよ」


 相変わらずズケズケと物を言う男だと少女が思うのと、その腹が空腹を訴えてなくのはほぼ同時だった。

 しまったという顔を少女がして、騎士の青年が眉間にシワを寄せる。


「……まさか、夕飯も食べてねぇのかよ?」


 昼食からとってない、という言葉は騎士の青年の怒りを増す材料にしかならないだろう。

 そう判断して少女は騎士の青年に無言で頷く。

 少女の肯定に騎士の青年は嫌そうな顔をした。

 それからこれ見よがしに、ため息をつく。


「テキトウに作るから、さっさとキッチンに来い」


 青年の言葉に、また無言で頷いて。

 青年の後に続いて、少女は寝室からキッチンへと移動する。

 椅子に座りながら、青年がバスケットから食材を取り出しているのを見る。

 ご丁寧に、使わない食材に保存の魔法をかけてくれる青年を見る。


(口は悪いけど……相変わらず気が効くなぁ……)


 旅の間も細々としたことは大体、青年がしていたことを思い出しながら、少女は青年が手際良く料理をしているのを見守った。

 そういえば、青年の手料理は美味しかったなぁと思い出している間にも料理が次々と出来てテーブルに並んでいく。


「ほらよ」

「ありがとう……いただきます」


 スープにサラダにパンにベーコンと野菜をいためたもの。

 それらをあっという間に作った青年に感謝をのべてから、少女は神様に祈る。

 それを青年はどこか複雑な表情でながめながめていた。


 少女の胃に食べ物が消えていく。

 美味しそうに食べる少女を見つめながら、青年が口を開く。


「お前さ、王都にくる気はないのかよ」

「ない」


 きっぱりと言い切った少女に青年がため息をつく。

 じっとりとした視線を少女へと送る。


「まだ王子サマの事、ひきずってるのか」

「そんなんじゃ……ない……」


 からかうように青年が言うと、少女が手を止める。

 少女の王子への恋心は、砕けた。

 けれど、彼に言われたバケモノという言葉は、まだ少女の中に渦巻うずまいていた。

 毎晩、夢であの出来事を見てしまうほどには根付ねづいていた。


 少女の胸中を正確に見取って、青年はため息をつく。


「お前はバケモノなんかじゃねぇよ」


 王子への憎悪を隠さずに言った青年に、少女はぎこちなく笑った。

 そう言ってくれるのが嬉しいのに……バケモノという言葉をやっぱり少女は否定できない。


 そんな少女に嫌そうな目で青年が見て椅子から立ち上がり、少女の側へと歩いてくる。

 それをぼんやりと見つめながら、少女はゆるく首を傾げた。

 しゃらりと金の髪が揺れる。

 その髪を一筋、青年はとって……口づけた。

 愛おしそうに、目を伏せながら。


 その絵画のような光景に。

 驚きに目を見開いた少女を髪に口づけたまま青年が見る。

 そして悪戯いたずらっ子のように笑った。


「お前は綺麗だよ。バケモノなんかじゃない」

「……なに、を」

「お前は、綺麗だよ。血にまみれていても、それが、誰か一人の為への恋心からだったとしても。それが人間だ。それがお前だ」


 騎士の言葉が少女にはとても嬉しかった。

 けれど、それを肯定することは、今の少女には出来なかった。

 だから、少女はぎこちなく困ったように笑う。

 そのぎこちない笑みに気づいて騎士の青年は眉をあげ……それからため息をつく。


「ま、お前は頑固だからな。すぐに俺の言葉が届くとは思ってねぇよ。まだ、王子アイツが好きなんだろうしな……アイツの言葉が俺よりも重いのはしょうがない、今はな」


 騎士の青年の言葉の最後は、彼自身に言い聞かせるような響きを持っていた。

 その言葉に少女が首を傾げる。


「なんでもねぇよ……ほら、いいから、さっさと食っちまえ」


 早口でごまかすような騎士の青年の言葉に頷いて。

 少女は食事を再開した。

 少女が騎士の青年の頬にのったかすかな赤みに、気づくことはなかった。

短編、初挑戦です……連載がスランプ気味なので、気分転換に書きました。

別に名前なくてもいいんじゃない?と思いたって、こんな形に。

少女はイリスに騎士はクリスティアンに性格が似ている気がしないでもないです。


4月27日改稿しました。エンディングと少女&騎士の性格が少し変わっています。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 この読んだのは二回目でした。ただ、バケモノ呼ばわりされるまでは気付かなかったんですが。 そして、ストーリーに低評価(1)を入れたのを思い出したので、言っておこうかなと。 …
2014/07/23 21:38 退会済み
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