夢オチ
時系列は、番外編の「姓名判断」の翌日(というか当日の夜)の話になります。
ぽかぽかうららかな休日の昼下がり。
僕はリビングでテレビを見ながら、柚奈ちゃんと電話していた。
「柚奈ちゃん、見たよ。新作。すごくおもしろかった」
「えへへ。くりゅ、ありがとー。そう言ってくれるのはくりゅだけだよぉぉ。およよ……」
「あはは。またまたぁ。柚奈ちゃんったら」
柚奈ちゃんらしい反応に、僕は笑ってしまった。
連載、大人気で話題になっているのにね。
「あ、彩ちゃんだ」
ふと視線を移すと、テレビに見慣れた顔が映って、僕は思わず声を上げちゃった。
そこには高校の制服を着た彩ちゃんの姿があった。
「え? なんの番組?」
「今やっているドラマのCM。ほら、彩ちゃんが主演をやってるやつ」
「ああ、あれね」
彩ちゃんは「永遠の十七歳」という謳い文句で、未だにアイドル女優をやっている。その名前にふさわしく、もういい年なのに制服姿がすごく似合っている。
……でも、十七歳よりも若く見えるんだけどなぁ。
どちらかというと高校より中学生っぽく見えるというのは、禁句だ。
「そういえば、義明くんはどう?」
僕が話題を変えると、柚奈ちゃんが電話越しに大きなため息をついた。
ああ。どうやらまた地雷を踏んじゃったみたい。
「義明? あいつなら今、南アフリカに行ってるわよ」
「へぇ? あ、アフリカ?」
「えぇ。何でもダイヤモンド鉱山を見つけて一攫千金を狙うみたいよ」
「ははは……なんて言うか、義明くんらしいね」
「まったく、うちとしてはいい迷惑なんだけど。まぁしばらく顔を合わせなくてすむのが救いかしらねぇ」
相変わらず素直じゃないなぁ。
僕は柚奈ちゃんの顔を頭に思い浮かべながら、テレビに目をやった。
CMが終わって、ワイドショーに変わっていた。
そこには、たくさんの記者に囲まれた夢月ちゃんの姿があった。
「首相! 首相っ。一言、この法案について、一言お願いしますっ」
「うん。えっとそれは……え? ここでは言っちゃダメ? ってわけで、ごめんね。ノーコメント!」
ちゃっかりと報道陣の前でカメラ目線をしようとしていた夢月ちゃん。
それを、長身できりっとした女性がそっと耳打ちして諫めている。
「むっきーったら、相変わらずねぇ」
さっき僕がテレビの話をしたから、柚奈ちゃんも同じ映像を見ているみたい。
「香穂莉ちゃんは、相変わらず大変そうだねぇ」
僕もしみじみ相づちを打つ。
猪突猛進な夢月ちゃんを陰で支えているのが、長身できりっとした女性、香穂莉ちゃんだ。
首相補佐官として、影の首相って言われているんだ。この間の「お兄さま関連法案」も、香穂莉ちゃんの尽力があったから成立したって話なんだよね。
五輪で金メダル取って、そのまま政界に進出、あれよあれよという間に総理大臣になっちゃった夢月ちゃん。
そしてそれを支えているのは香穂莉ちゃんだ。
僕はテレビを見ながら、思わずため息をついちゃった。
「みんなすごいなぁ。テレビに出てて。柚奈ちゃんもこの間、インタビュー受けてたし。僕だけだもん。平凡な主婦って」
そう言ったら、柚奈ちゃんが呆れた声で言った。
「何言ってるの。そんなくりゅが一番幸せそうだって、みんな言ってるじゃん。あ、ごめん。くりゅ、じゃなくて、かねゅ、って言うべきかな? 言いにくいから慣れないのよねぇ」
「だ、だからっ。それは別に良いって!」
僕は頬を熱くしながら声を大きくする。
おぎゃぁぁ。おぎゃぁぁっ!
するとテレビの音を遮るように、リビングに赤ん坊の泣き声が響いた。
大きな声を出したから、起こしちゃったかな。
「あっ、いけない。豊希が泣き出しちゃった。ごめんね、柚奈ちゃん」
「うん。じゃあ、またねー」
僕は通話を切って携帯を置くと、泣いている豊希を抱き上げた。
「はいはーい。よしよし。ん、おしめかなー?」
少し濡れていたので、紙オムツを替えてあげる。
ついでに、拭き拭きしながら、おちんちんをぷにぷに触る。
うーん。柔らかい。懐かしい感触だ。
「豊希はちゃんと、このまま成長できると良いねぇ」
ぷにぷに。ぷにぷに。
「なにやってるんだ」
あきれた声がした。
振り返ると、稔くんが立っていた。
「えへへ。ちょっと懐かしいと思って」
「まったく、そんなの見慣れているだろうに」
「ふぇっ? 見慣れてるって……」
「そりゃ、その……」
稔くんが照れた様子を見せる。
あれ?
稔くんと僕には、子供がいるわけで。
子供を作るには、その過程として、おちんちんを……
え? えっ、えぇぇっ!?
ぼ、僕、まだ、稔くんとはキスどころか、付き合ってもいないのにっ――。
そ、それに、主婦ってことは……けっ、け、結婚っ?
よく考えれば、夢月ちゃんが総理大臣だったら、日本終わっちゃってるし!
――そもそも「お兄さま関連法案」って何っ?
☆☆☆
「……はっ」
そこで目が覚めた。
薄暗い見慣れた部屋で、建兄ちゃんが使っていたベッドの上で、僕は眠っていた。
いつもと同じ、朝の光景だ。
ぺたぺた顔と体を触ってみる。
いつもと同じ、中学一年生の僕の体だった。
「ううう」
僕は布団を被り直して、その中で悶えた。
彩ちゃんがあんな姓名判断をするから、変な夢見たんだぁぁ。
それにしても。
稔くんは大きくなっていたのに、夢の中の僕の背は、小さいままだったなぁ……
☆☆☆
「ん? 優希、どうかしたのか?」
「なっ、なな、何でもないっ」
翌日。絵梨姉ちゃんに続いて、稔くんの顔もまともに見られなくなっちゃったのは、言うまでもない。
あくまで夢オチですので、許してください。




