出会い
久しぶりの更新です。
番外編らしく視点を変えて語り口調にしてみました。分り難かったらすみません。
あと、一応新キャラ?も登場します。
「あ、そうだ。ねぇねぇ、優希ちゃん、知ってる?」
いつものメンバーで遊んでいると、不意に彩ちゃんがそんなことを言い出した。
「夢月ちゃんって、小さい頃、柚奈ちゃんと喧嘩して、大泣きしたことがあるんだって」
「えっ、うそっ。本当にっ?」
僕は驚いて大声を上げちゃった。
二人が幼なじみだっていうのは知ってるし、たまにちょっとマジっぽい喧嘩をするところも見てきているけれど、あの夢月ちゃんがいくら小さい頃だからって、大泣きする場面なんて、想像も出来ないよ。
「ちょ、ちょっと。彩歌、それは……」
「あはは。あれのことかぁ」
僕たちの会話を聞いていた夢月ちゃんが慌てた様子を見せて、柚奈ちゃんはいつものようにおもしろそうに笑った。
「あ、それ私も知っています。噂になっていましたから。けれど実際の場面を目撃したわけではありませんが」
香穂莉ちゃんが言う。
夢月ちゃんは途中で北小に転校しちゃったけれど、それまではみんな同じ入野小学校に通っていたんだっけ。
「うん。実はあたしも詳しくは知らないんだよねー。だから今日はその真相をお二人に聞いちゃおうかなって」
彩ちゃんが楽しそうに話題を二人に振った。
「だから、それはその……」
「えっと……やっぱり泣いちゃったことを話すのって、恥ずかしいと思うけど……」
夢月ちゃんが珍しく言いよどんでいるのを見て、僕は慌てて助け船を出した。
「もぅ、優希まで。だから違うってっ」
「え? 違うの?」
夢月ちゃんにむっとした表情で言われ、僕はきょとんとしちゃった。
「いいじゃん。もう時効だよ。じゃあ、私から話したげるよ~」
柚奈ちゃんはそんな僕たちを面白そうに見ながらそういうと、ゆっくりと話し始めた。
「泣いちゃったっていう話はともかく、私とむっきーが最初は仲が悪かったのは、事実なんだけどねぇ」
☆☆☆
子供の頃の私ってね、ほら、みんなが知っているとおり、私ってプチお嬢様じゃん? だから、お小遣いは小さい頃からもらっていたし、ほしいおもちゃもすぐに買ってもらっていた、ちょっと裕福な女の子だったのよ。
まぁ、本当にほしいものはもらえなかったけどね。
ん? それは何かって?
そりゃもちろん、親の愛情、ってやつよ。
――って、ごめんごめん。冗談だって、くりゅったら、そんな顔しないでよ。もーっ。
けどまぁ、両親が忙しくてあまり家にいなかったのは本当だし、やっぱり子供心に寂しかったのかな?
それを紛らわすかのように、友達とよく遊んでいたのは覚えてるよ。みんなが欲しがっている流行の物はたいてい持ってたから、自然とみんなが集まってきて、私はその中心になっていたのよ。
☆☆☆
柚奈ちゃんの話を聞いて、僕はうんうんうなずいた。
柚奈ちゃんは今でもクラスのファッションリーダーで、顔が広くて他のクラスの人とも仲がいいんだ。子供の頃から、そんな感じの子だったんだ。
じゃあ、夢月ちゃんはどんな子だったんだろう?
頭に浮かんだ僕の疑問に答えるように、柚奈ちゃんは話を続けた。
☆☆☆
でね。そんな私も花の小学生になったってわけよ。
幼稚園よりもたくさん同い年の子がいて、とても楽しかったよ。
流行の話題とか、かわいい服とかいっぱい持っていた私は、小学校でも自然とクラスの女子の中心的な存在になっていたかな。成長もみんなより早かったしね。
え? 胸? あはは。まさか、いくらなんでもそのときはまだぺったんこよ~。あーでも、正直その頃が一番楽だったかなぁ。むっきーがうらやましいよ。
って、こら。まだ私が話しているんだから邪魔しないでよっ。
ねっ? かおりんならこの気持ち、分かってくれるよねぇ?
……もぉ。別に照れなくてもいいのにー。
あ、ごめんごめん。
で、話がそれちゃったけど、私が女子の中心的な存在だったってところまでは言ったよね?
けどそれは、あくまで私のクラスだけの話でね、別のクラスにもやっぱりそういうリーダー的な存在がいたの。
それが、幼き頃のむっきーよ。
☆☆☆
「別に、そんなつもりなかったんだけど、なんか自然とそんな感じだったかな」
柚奈ちゃんの話に、夢月ちゃんはそう付け加えた。
なるほど。何となく僕にはその様子が想像できた。
柚奈ちゃんが話題や流行で中心的な存在になるのに対して、夢月ちゃんは行動でみんなを引っ張っていくようなガキ大将タイプって感じだもんね。
「まぁそんなわけでね、同じ学年の女子の間では、自然と、私とむっきーで派閥みたいなのができちゃったのよ」
「あらら……」
それは大変そう。
実は僕も男の子のとき、女子の対立に巻き込まれて大変な思いをしたことがあるので、そのややこしさはよく分かったりする。
「彩ちゃんや香穂莉ちゃんたちは、どっち派だったの?」
「……えっと。さすがにその頃のことは……よく覚えていません」
「あたしは柚奈ちゃん派だったかぁ。話おもしろいんだもん。あ、でもその頃はまだ夢月ちゃんのこと、まったく知らなかったけど」
「まぁ、私もそのときはむっきーのこと、何にも知らなかったんだけどね。クラスも別れてたし。けど小学三年生に進級したとき、ついに私とむっきーが、同じクラスになったのよ」
柚奈ちゃんの話を聞きながら、僕はごくりとつばを飲んだ。
☆☆☆
木村夢月って人がどんな子かは知らなかったけど、私はそれなりに意識していたかな。噂はよく聞くし。私って、幼稚園の頃からみんなの中心にいたから、木村さんに負けたくない、みたいな気持ちも、子供心に持っていたかもね。
けれど、むっきーの方はぜんぜん私に見向きもしなかったのよ。
ううん。別に無視されてるってわけじゃなくって、興味ないって感じかな。ほら、むっきーがファッションの話に興味ある訳ないじゃない?
って、そこで堂々と無い胸を張られてもなぁ。さすがにもう中学生なんだし、ちょっとくらいは意識した方がいいよ? ね、くりゅもそう思うわよね?
え? 僕もまだまだって、いやいやいや、入学したての頃は男の子みたいなところもあったけど、今じゃなかなかのものですよ? いひひ。
まぁそんなわけで、「木村さん」と直接話をすることもほとんどなかったけど、同じクラスで見ていて、活発というか、悪く言えば粗暴な子だなってのが印象。
伊月くんは大人しくて可愛げがあったんだけど、正反対だなぁって。あ、伊月くんってのはむっきーの双子の弟ね。今は別の中学通ってるんだけど、くりゅ、知ってたっけ? そっか、聞いたことあるくらいか。
ごめんごめん。話がそれちゃったね。
まぁ、むっきーの印象がそんな感じだったから、私も別に意識する必要はないかなって思ってたんだけど、私のことを良く思わない子たちが、私と対照的なむっきーに取り入るようになってね。で、その結果、うちのクラスの女子は見事に二分化しちゃったってわけ。
男子たちは、相当居心地が悪かったみたいよ? 今でも義明にグチられるもん。
まぁそれでもお互いの守備範囲が違うから、直接的な衝突になるようなことはなかったけどね。
でも、ある日。そのお互いの境界が崩されそうとしたの。
――それは忘れもしない「さんすうのテスト」の日だったわ。
☆☆☆
「……あれれ?」
あたしが教室に入ると、いつもと様子がちがってた。
みんな、木村さんの席にあつまってるの。先に教室にきていたみたい。
いつもは「あさのじかん」が始まるぎりぎりまで、校庭であそんでいるのに、めずらしい。
「おはよう」
気になって、あたしからあいさつにいって、びっくりしちゃったの。
えっ? な、なんでっ?
木村さんが、かわいい格好してるっ!
いつもは男の子みたいな服を着て、校庭をはしりまわっているのに。
ブランド物じゃないみたいだけど、フリルがいっぱいついたピンク色のワンピース。いつもてきとうに後ろでしばっているだけの髪の毛も、大きくて真っ赤なリボンで、二つに結んで分けているの。
本当に、お人形さんみたい、って思っちゃった。
「あ……あの……ゆ……小石さん、おはよう」
木村さんが、ぜんぜんらしくない、おどおどした感じであいさつする。
けどそれが、今の格好によく合っていて、かわいいの。
そんな木村さんのまわりには、いつもあたしと話している子も寄ってきて、かわいい、かわいい、って話してた。
あたしはショックだった。
木村さんったら、まったくそういうことを気にしないフリして、ひそかにあたしの地位をうばうために、きかいをねらっていたんだわ。
女の子たちにかこまれて、ほっぺを真っ赤にそめているけれど、きっと心の中では、あたしをばかにしているにちがいない!
……ふふふ。
あたしはけついした。
上等だよ。
売られたけんかは買っちゃうんもん!
「あ……あの……その……」
お昼休み。
あたしは木村さんを、教室からはれたトイレによびだした。
いったいいちのサシの勝負でけっちゃくをつけてやるんだから。
あたしにひっぱられるかっこうで、女子トイレに連れ込まれた木村さんは、教室にいるときと同じようにおどおどしていた。ぜんぜんいつもらしくないんだけど、今日の格好にはぴったりでかわいいいのが、むかつく。
「だれもいないんだから、もう猫をかぶらなくてもいいんじゃない?」
「そ、そんなこと……」
「ふんっ。らしくない格好してきて、ばかじゃないの?」
あたしが強気にいうと、さすがに木村さんも怒ったのか、言いかえしてきた。
「……ば、ばかって言うほうが、ばかなんだよ」
「そうなの? じゃあ木村さんはもっと、おおばかだね。だって、二度もばかって言ったもん」
「お、おおばかじゃないもんっ」
「ふーんだ。ばかばかばーか」
木村さんがぐぐって下を向く。
かてる!
あたしは勝ちをかくしんして、一気にせめたてた。
「ばかばかばかばか、おおばか、ちょうばか、みらくるばかー」
毎日みんなとおしゃべりして、早口言葉はなれてるもん。
木村さんは下を向いたままぷるぷる震えて……
「……うぅっ。ぅわぁぁぁぁん! 柚奈ちゃんのばかぁぁぁ。わぁぁぁんっっ」
上を向いて、大きな声で泣きだしちゃった。
ふっ。かった。
あたしがにやりとわらう。
すると、頭の後ろにコンと何かがあたったの。
ん?
何かと思って床を見たら、トイレットペーパーの芯が落ちていた。
「こらーっ。伊月をいじめるなーっ!」
そして、奥のトイレのドアがひらいて、木村さんそっくりの男の子が出てきたの。木村さんの双子の弟の伊月くんだ。
「えっ? 伊月くん? どうして。ここ、女子トイレなのに……」
とまどうあたし。
伊月くんは、びしっとまだ泣いている木村さんを指さして言った。
「伊月はあっち! あたしは夢月なのっ!」
ふぇえっ?
まだ何がなんだかわからない。
とまどったまま、指さされた方を見ると、さっきまで大泣きしていた木村さんが、ぴたりと泣きやんでた。そして、ふるえながら伊月くんを見て言った。
「……な……なんで、お姉ちゃんがここに……」
「おしっこしにきたに決まってるじゃん! うんちじゃないよっ」
「……そうじゃなくって……ここ……女子トイレなのに……ぃ」
木村さんに言われてきょとんとした様子の伊月くん……じゃなくて、伊月くんに言われてきょとんとした夢月さんだ。
そっか。ふたりは入れ替わってたんだ。だから、いつもと様子がちがってたんだ。
女の子っぽい格好をしてきたのは、女の子だとうたがわれないため。
ずっと落ちつかない様子だったのは、男の子なのがばれちゃうのがしんぱいだったから。それに、伊月くんの元の性格のせいもあったのかな。
「お、お姉ちゃんは今、僕なんだから。その格好で女子トイレに入っているところを、みんなに見られたら……」
「ん? なんで?」
木村さんはまだわかっていないみたい。
「えっと……ごめんね。ばかなのは、お姉ちゃんのほうだったみたい」
あたしは女の子の格好をした伊月くんにあやまった。
「ちょっと、ばかってどういういみっ?」
「そのまんまだけど。でもなんで入れ替わってるの?」
あたしが聞くと、木村さんは胸をはって答えた。
「さんすうのテストがあったからに決まってるじゃん!」
「なるほど!」
思わず納得しちゃった。
伊月くんのほうがぜったいあたま良さそうだもんね。
納得しないでよ……と伊月くんが泣いている。
けどあたしは、すごくおもしろい、って思ったの。
男の子と入れ替わるのって楽しそうだし、それを思いついて、じっさいにやっちゃう木村さんがすごいと思った。
「ねぇねぇ。木村さん、いろいろお話をきかせてよっ」
「ん? 別にいいけど。そろそろお昼やすみおわっちゃうから、教室で話す?」
「うん。行こう」
あたしは夢月さんの手を引っぱって、トイレから出た。
「ちょ、ちょっと待ってよーっ。お姉ちゃんがその格好で教室に行ったら、ぼ、僕はどうしたら……」
女子トイレの中から、スカート姿の伊月くんのなきそうな声が聞こえた。
☆☆☆
「……うわぁぁ……」
さすがに僕は、夢月ちゃんの弟さんに同情しちゃった。
僕もまだ男の子の感覚が抜けきらないうちに、スカート穿かされたり女子トイレに入ったりして苦労してきたから、その気持ちは分かるんだ。しかも弟さんの方は本当に男の子だし。
その後どうなったのか、すごく気になったけど、怖いので聞くのをやめた。……もしかして、弟さんが全寮制の中学校に進学したのって、夢月ちゃんを避ける訳じゃないよね?
「なるほど。それが号泣事件の真相だったのですね」
「まぁ……ね。伊月の泣き声がトイレの外まで聞こえちゃったみたいで、噂になっているのは知ってたんだけどさ。本当のことを話すと、もう入れ替えして遊べないかなって思って黙ってたんだ」
「……ってことは、もしかしてその後も、弟さんと……」
「もち。柚奈と色々遊んだもんよ」
胸を張る夢月ちゃんを見て、僕はまだ会ったことのない弟さんに、二人の代わりに心の中で謝っておいた。
「てなわけで、それがきっかけとなって、私とむっきーはすっかり意気投合しちゃってね。そんな私たちを見て、当然クラスの女子はみんな驚いていたけれど、対立しているよりはいいか、って感じになって、気づいたらクラスが一つにまとまったの。義明が心底ほっとしてたよ」
「あはは……」
その気持ちは、よーく分かる。
「むっきーとは四年生のときも同じクラスで、一緒に馬鹿なことやって楽しんでいたんだけど、五年生になったとき、むっきーが転校することになったのよ」
号泣事件の真相はもう話し終えたんだけど、柚奈ちゃんは話を続けた。
☆☆☆
「……別に、向こうからここに通ってもいいのに」
私はちょっとむすっとして言った。
今までの借家から一戸建ての家を建てたので、そっちに引っ越すんだって。同じ市内だけど学区が違うから、北小に転校になるんだ。
今のままの学校に通うこともできるようなんだけど、さすがに新しい家からだとけっこう遠いみたい。
「あれ? もしかして、柚奈、さびしい?」
「うん。さびしいよ」
私が素直にそう答えると、てっきりムキになって反論するのかと思っていたのか、逆に戸惑った様子を見せた。
うふふ。むっきーのレア顔、ゲットっ。
けど、寂しいっていうのは、嘘じゃなかった。
むっきーみたいに遠慮なく言い争える友達は、あまりいなかったから。
「ま、家そんなに離れてないし、自転車ならすぐだし、たまに遊びに行くからさ」
「うん。そうだね。ねぇ、せっかく転校するんだし、向こうで面白そうな子を見つけてきてよ」
「おう。任せとけ」
こうして、むっきーは転校した。
まぁ学校が変わっても、お互い家を行き来してよく遊んだんだけどね。
そして二年後。
私は、中学校の入学式を迎えた。
さっそく校門のところに行って、クラス分けの掲示板を見る。
「おっ。むっきーと同じクラスだ」
これで中学校も楽しく過ごせそう。
しばらく同小の子たちと話していると、特徴的なポニーテール姿の子を見つけた。女子の制服があまりにも似合ってなくて、笑いそうになっていると、向こうもこっちに気づいたみたい。
「あ、むっきー。また同じクラスだね~。って、うぁぁ。制服、似合ってなーい」
「やかまし。自分でも分かってるんだから」
むくれるむっきー。
私はふと、彼女の後ろに隠れるようにして、一人の女の子がいることに気づいた。ふつうに可愛いんだけど、おどおどしていて、どこかアンバランスな感じを醸し出している不思議な子だった。
「で、そっちの子は?」
私が聞くと、むっきーは待ってましたとばかりに胸を張って言った。
「ふっふっふ。柚奈。聞いて驚け。ほら、優希。自己紹介」
「えっと……はじめまして。僕は、栗山優希と――」
「おお。僕っ子だぁぁ」
夢月の双子の弟については、本編の作中でも何度か述べていましたが、唐突だったかもしれません。
夢月と伊月のキャラクターは、「双子のマーチ」シリーズの、三月と弥生がモチーフになっています。




