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大晦日だよ、麻雀大会!

久しぶりに番外編らしい話にしてみました。

麻雀を知らない人には申し訳ないのですが、雰囲気だけでも味わっていただければ幸いです。


 年末恒例の歌合戦も後半に差し掛かってだいぶ経った。

 歌がひと段落したところで、僕はこたつから立ち上がって大きく伸びをする。うーん。後ちょっとだ。

「優坊、そろそろ眠くなってきたんじゃないか?」

「まだ、ぜんぜん大丈夫だもんっ」

 からかうような建兄ちゃんの言葉に、僕はぷいっと顔を背けた。

 こんなこと言うと笑われちゃうので夢月ちゃんたちには黙っているけれど、実は僕、一度も除夜の鐘を聞いたことがないだ。

 お母さんが厳しいから、基本的に夜更かしはできないし、したこともない。

 それでも大晦日くらいは、と許可をもらったのは、小学四年生のとき。

 けれど気づいたときには朝を迎えていて、あえなく轟沈。次の年も、気分転換にといろいろ食べていたせいか、逆に眠くなってしまい失敗。

 さすがにもう六年生なんだから、とリベンジを誓っていた去年は、体調を崩していて、端から挑戦できなかった。

 けれど今年こそは、未体験の「一日の壁」を越えるんだ!

 いつも大晦日はお父さんとお母さんと僕の三人だけだったけれど、秋山家にお世話になっている今年は違う。

 絵梨姉ちゃんに雪枝さん、宏和伯父さんといういつものメンバーに加えて、年末なので日本に戻ってきてくれたお父さん・お母さん、さらには帰郷してきた建兄ちゃんのおまけつきだ! 

 というわけで一階の居間には僕も含めて七人もいる。当然賑やかなわけで。これなら、眠くはならいないはず!

 とはいえ、年越しそばも食べて、お風呂にも入って、こたつでぬくぬくしていたら、少し眠くなってきてしまった。歌合戦も知らない歌が多くて退屈だし……

 とそんな僕を見てか、建兄ちゃんが唐突に言い出した。

「そうだ。せっかくこれだけ揃っているんだし、眠気覚ましに、久しぶりに麻雀でもしないか?」

「お、いいねぇ」

 建兄ちゃんの言葉にさっそく食いついたのは、僕ではなく、宏和伯父さんだ。

「うん。僕もやるっ」

 僕もすかさず賛成する。

 秋山家のみんなは麻雀が好きで、僕もこの家に遊びに来たときは、よく一緒に打ったものだ。

 さすがに夢月ちゃんたちは麻雀なんて知らないだろうから、学校のみんなとは打ったことがないけれど、休みの日は秋山家のみんなと何度か打っているので、僕もだいたいルールは知っている。

「それじゃあ、あたしも打ちたい~」

 大晦日の年越しそばを作り終えて、もう家事はおしまい、宣言をしている雪枝さんが、お酒で酔った顔をしながら、手を挙げる。

 これでメンツが揃った。僕と建兄ちゃん、宏和伯父さんに雪枝さんの四人だ。

「丁度いいや。父さんたちが打つのなら、お年玉を賭けようぜ。俺が勝ったら、金額増量ってことで」

「あれ? 建一、二十歳になったのに、まだお年玉貰うつもりでいたのかい?」

「え、マジかよ。そのためにわざわざ家まで帰ってきたようなものだぜ」

 とぼけた口調の宏和伯父さんに建兄ちゃんが抗議する。

 まぁからかっているだけで、用意はしているだろうけど……と思いつつ、僕はとある事実に気づいた。

「そっか。建兄ちゃんは、もうお酒も飲める大人だったんだよね。だったら、僕もお年玉、欲しいなー」

「えぇっ?」

 思わぬ所からの攻撃に、建兄ちゃんがうろたえた声を出す。

「へへ。女の子って、いろいろ入り用なんだよねぇ」

 男の子のときは、自分の好きなものを買えばいいだけだったけれど、女の子はいろいろ大変なのだ。小学生と中学生の違いかもしれないけど。

「あ、じゃあ、兄さん、私もお願いね」

 絵梨姉ちゃんがにっこりと笑う。

 2対1。多数決で決定だね。

 建兄ちゃんが諦めた様子でため息をつく。

「……仕方ないな。じゃあ優坊が一位になったら優坊に、俺が最下位になったら絵梨にもお年玉をやるよ」

 やたぁっ。

 ところが――

 喜ぶ僕に向けて、建兄ちゃんがにやりと笑う。

「その代わりに、優坊が負けたら、何を払うんだ?」

「え?」

 建兄ちゃんの反撃に言葉が詰まる。

 さすがにお金は無理だとして……

 そんな僕に助け船を出すように、雪枝さんが言った。

「麻雀って、言ったら、やっぱり脱衣よねぇ~」

「だ、脱衣っ?」

 雪枝さんの言葉に、僕は思わず声を上げる。助け船になってないし!

 大きな声を上げてしまったからか、僕にみんなの視線が集まる。僕は羽織っている半纏を交差させるようにして、何となく胸元を隠した。

「それは面白そうだな。さすがに裸にまでする気はないけど、優坊がどんな下着を付けているかは興味があるし」

 建兄ちゃんが意地悪く笑う。えっちな下心というよりは、僕が困るのを楽しんでいる目だ。

「だ、ダメっ。今は付けてないから」

「え?」

 一瞬、空気が固まる。

「……って、そうじゃなくって、パジャマだからブラしてないだけで、下はちゃんと穿いているから!」

 うーっ。何でこんな恥ずかしいことをみんなの前で言わなくちゃいけないんだーっ。こうなったら、意地でも建兄ちゃんからお年玉を貰ってやるもんっ!

「えーと。下着姿でもさすがにどうかと思いますが」

 おぉっ、ナイス! お父さんっ。

 でも、意識した視線で僕をちらちら見るのはやめて欲しいかな。ちょっとだけ、思春期の娘の気持ちが分かった気分だよ。

「あら。だったら、こういうのはどう? 優希が負けたら、私たちと一緒にお風呂に入るの。これも脱衣よね? もちろん、女性陣限定だけど」

「麻雀やらない人に発言権はないからっ!」

 まさかのお母さんの横やりに、僕は慌てて叫ぶ。

「ふぅん。だったら、私も参戦していいかしら?」

「え、お母さん、打てるの?」

「ええ。いつから、私が麻雀できないって、錯覚していたのかしら」

 パロディネタまでっ。何か僕が女の子になってから、お母さん、僕との接し方というか性格も変わってきたよね?

「それじゃ、浅村姉妹コンビで参戦決定~」

 雪枝さんが言う。浅村っていうのは、お母さんと雪枝さんの旧姓だ。

「じゃあ、優坊が負けたら、脱衣ってことで。俺にとっては何の得にもなっていないんだけどなぁ」

 そう言われると、僕の裸が安いみたいな印象で、ちょっと複雑。もちろんだからと言って、建兄ちゃんに裸を見せるつもりはないけどねっ。

「で、俺が負けたら、優希と絵梨にお年玉を払う。じゃあ、父さんたちは何を賭けるんだ?」

 あ、なるほど。確かに僕の裸まで賭けるんだ。宏和伯父さんたちも何かを賭けてもらわないと不公平だ。

「それじゃあ、あたしたちが負けたら、春ちゃんと一発芸をやりまーす」

「えぇぇっ。ちょ、ちょっと姉さんっ?」

 右手を挙げて宣言する雪枝さんの言葉に、お母さんが抗議の声を上げる。

「いいじゃない。新春だけに、『春』ちゃんの一発芸~」

 うっ。これは……見たいかも。

 お母さんの一発芸。僕の裸を賭けるに不足はない。

「それじゃあ、宏和さんが負けたら、この前話していた秘蔵のワインを開ける、ってのはどうですか?」

「えぇぇっ。あれを賭けるのーっ」

 お父さんの言葉に、宏和伯父さんが声を上げる。

 僕はまだお酒を飲めないけれど、宏和おじさん的にはダメージが大きいみたい。建兄ちゃんもそれは面白そうだと、にやにや笑ってる。

「あら、いいじゃない。あたしも、美味しいお酒が飲めるのは嬉しいわ~」

「むぅ……そこまで言うのなら仕方ないけど、じゃあ逆に、僕が勝ったら、月々のお小遣いのベースアップしてもらおうかな?」

「うーん。それはお給料次第だけど、考えておくわねぇ」

 雪枝さんが少し考えてうなずいた。働いているのは宏和伯父さんだけど、お金を管理しているのは雪枝さんなので、自由にお金を使えないんだよね。男の人も大変だ。

「でもそうなると、あたしたちが勝った場合も考えなくちゃね。うーん……そうねぇ。それじゃあ、あたしたちが勝ったら、お正月の家事は免除で、全部絵梨がするってことで~」

「ちょっ、ここで私に振るわけ?」

 僕の隣に座って、みんなの様子を面白そうに見ていた絵梨姉ちゃんが声を上げる。

「ま、俺が負けたらお年玉もらえるんだから、それくらいはして貰わないとな」

「うぅっ。だったら、私も参加させて貰うわよ」

 絵梨姉ちゃんが宣言する。

 おお。僕と共闘かな。

 と思ったけれど、なぜか席を立つと、宏和伯父さんのところに行ってしまった。

「父さん、一緒にコンビを組んでもいい?」

「え、いいけど」

 ちょっと意外そうな顔をする宏和伯父さんと僕に向けて、絵梨姉ちゃんが意地悪い笑みを向けてくる。

「だって、私も久しぶりに優ちゃんとお風呂に入りたいもん。ちゃんと身体の手入れをしているのか、チェックしないとね」

「うぇぇぇ」

 ――絵梨姉ちゃんも敵だ。

 愕然としている僕をよそに、お母さんがお父さんに尋ねる。

「最後はお父さんね。どうするの? 宏和義兄さんからお酒をもらうだけかしら?」

「それじゃあ、俺は優希と連帯責任で、負けたら向こうの一番高級な酒を今度帰ってくるときお土産で持ってくる、ってことでいいかな」

「おぉ。それは楽しみですねぇ」

「ちょっと、それって、結局お父さんもお酒に与れるんじゃない」

 お母さんが抗議の声を上げるけど、流れで決定。

 僕としても、まだ麻雀の点数計算とか役とか分からないところもあるので、お父さんが見てくれるのは助かる。

 でも、お酒欲しさにわざと負けようとしないでよねっ。僕の裸がかかってるんだから!



☆ ルール 

・持ち点25,000の東風戦。

・1位になった人が勝者で、各々の決められた特典をゲットできる。

・4位になった人が敗者で、同じく決められた罰を受けることになる。


☆、僕・お父さん組

 勝った場合 お年玉を建兄ちゃんからもらえる

 負けた場合 お母さんたちと一緒にお風呂。お父さんは高いお酒を買わされ(?)る


◇、建兄ちゃん

 勝った場合 お年玉増量

 負けた場合 僕と絵梨姉ちゃんにお年玉をあげる


△、雪枝さん・お母さん組

 勝った場合 家事免除(絵梨姉ちゃんがする)

 負けた場合 浅村姉妹による新春一発芸


▽、宏和伯父さん・絵梨姉ちゃん組

 勝った場合 宏和伯父さんのお小遣いベースアップ(絵梨姉ちゃんは僕か建兄ちゃんが負ければ目的達成)

 負けた場合 宏和伯父さんの秘蔵のお酒が放出



 こうして、「大晦日だよ、麻雀大会!」が開催されることになった。




長くなったので、まさかの前後編です。

いちおう結果は決まっているので、正月明けに投稿できるようにしたいと思います。


それでは。

みなさま今年一年ありがとうございました。良いお年をお迎えください。

……私は明日も仕事です。

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