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手術


「優希。頑張ってね」

「どうせ、麻酔で眠っているだけなんだから。気を楽に持って平常心でな」

「う、うん」

 いよいよ手術当日。

 僕は先に麻酔を受けてから、コロコロ動くベッドに寝たまま手術室へと移動した。ドラマで見るような光景が自分に降りかかるとは思わなかった。昨日まで普通に歩けてどこも痛くなかったのに、まるで自分が重病人になったみたいで少し怖い。

 お父さんお母さんと別れて、僕は手術室の中に入った。今、ドアのところの「手術中」ランプが光ったのかな? それとも本当に始まってから光るものなのだろうか。

 そんなことを考えていると、手術室で待っていた上本先生が、僕から見てさかさまに現れた。マスクに手袋。トレードマーク(?)のぼさぼさ頭も、今日はしっかりと帽子の中に納まっている。

 そんな先生を見て、本当に手術が行われるんだと実感してきた。

「さて、いよいよですね、優希くん。あ、そうそう、先生が女性をファーストネーム+君付けで呼ぶのは普通だから、君のことは術後も「くん」と呼ばせてもらうからね。ふっふっふ」

「は、はぁ」

 何度も会って話しているけど、今日の上本先生は特にノリノリだった。

「準備の間、もう一度手術の内容を説明させてもらいますね。まぁ何度も聞いたと思いますので適当に聞き流してくれればいいですよ」

 手術の準備のため、服を脱がされて、点滴とか心電図とか色々な器具を体につけられながら、上本先生が話をする。

 手術内容は、ぶっちゃけて言えば、切って取って開ける作業。

 おちんちんを切り取って、その下にあるという膣の入り口を確保する。見た目やおしっこが出る位置も普通の女の子と変わらないように整えつつ、先にあった生理による出血を取り除いたりする。ちなみに、おしっこをするものを切り取っちゃうので、術後しばらくは管をつながれて垂れ流し(?)みたいな感じになっちゃうみたい。

 それと、切り取ったおちんちんは捨てたり記念に貰うのではなく、神経を繋げて陰核というものに変わって、僕の身体に残るらしい。

「陰核ってなに?」

 以前にそう聞いたら、上本先生はにやにやと笑って、看護婦の炭谷さんにもはぐらかされてしまった。お母さんにいたっては「優希はまだ知らなくていいの!」となぜか怒られてしまった。

 辞書を見てもよく分からなかったので、手術が終わったらお父さんに聞いてみようかと思う。

「今まで何度も性転換手術を請け負ってきましたが、優希くんのような症状は初めてなのです。手術が成功すれば、君は正真正銘の女性として生まれ変わります。それに関われるということは医者冥利に尽きるというものです。ふふふ」

 ……頼もしいというか。ちょっと怖いというか。

「あ、あの、あまり痛くしないでくださいね……」

「心配ありません。麻酔をかけるからね。おや、いよいよ準備完了のようですね」

 僕の口に、チューブが伸びたマスクが付けられる。これは酸素マスクで、麻酔は点滴から入れるみたい。

「さぁて、そろそろ眠くなってきたんじゃないかな」

「はぁ。まぁ、そんな感じ……かも……」

 そんなことを先生と話しているうちに、だんだんと意識がもうろうとして来て、そのまま記憶がなくなっていった。





 ……なんだろう。

 下半身が痛い。すごく熱い。ずきずきというよりひりひりと言うか、ずんずん? びりびり? とにかく、かなり痛い。上本先生は「麻酔が効いているから痛くない」と言っていたのに……

 もしかして……手術は失敗したの?

 僕はどうなってしまうのだろうか。男の子でも女の子でのない身体になってしまったのか。……それとも。このまま死んじゃうのかな……



「……痛い」

 口からうわごとを漏らしながら、僕はぼんやりと瞳を開けた。

 目に入ったのは、病室の白い天井。……あれ? 手術室はもっとライトがいっぱいあったような……


「優希っ」

「おや。ちょうど目を覚ましたようですね」

「よかったです。さすがに心配しちゃいましたからねー」

 ベッドの周りには三人いた。お母さん、上本先生、それに前回と今回の入院でお世話になっている担当の看護婦の炭谷さん。

「……あの」

「まったく、心配させて。あなた、丸一日以上寝ていたのよ」

「え? うそ」

「嘘をついてどうするのよ。お父さんも、間に合わないから、もう海外に行っちゃったわよ」

「まぁまぁお母さん。そんなに怒らないでも。さっきまであんなに心配していたというのに。まったくツンデレさんですな~」

「先生っ!」

「……つんでれ?」

 まだ頭がぼんやりしている。

 よく分からないけど、先生とお母さんのコントみたいなやり取りの横で、炭谷さんが説明してくれた。まだ二十代半ばの若いお姉さんだ。

「おめでとうございます。手術は無事成功しましたよ」

「え? そうなんですか」

 まだ意識がもうろうとしていて実感が湧かない。

 今まで下半身にあったものが取り除かれたという感触はなく、むしろ痛みと下腹部から伸びるチューブや点滴を見て、逆に、別のものがくっ付いた感覚がする。

「今まで見えない疲れがあったのでしょう。麻酔が効きすぎたのは想定外でしたが、それ以外は完璧です。どうですか、今の心境は? 吐き気や痛みはありませんか?」

「……あまり実感が……吐き気はないけど……下がちょっと痛いです」

「そうですか。あまりにも耐えられないようでしたら、痛み止めを処方した方がよいかもしれませんね」

 先生とそんなやり取りしつつ、僕はちらりと黙ったままのお母さんに顔を向けた。

 目が合うと、お母さんは僕から視線を逸らしながらも、小さく呟いた。

「……お疲れ様。よく頑張ったわね」

「……うん」

 小さな一言だったけど、とても嬉しかった。

 僕は、ようやく手術が無事終わったことを実感し始めてきた。



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