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文化祭(配役)

祝 プロ野球開幕


「あ、山崎さん、髪切ったんだ」

「うん。暑かったから。栗山さんも少し日に焼けたんじゃない?」

「え、そうかな」

 長かった夏休みが終わって、今日から二学期だ。休みが終わってしまったのは寂しいけれど、学校は学校で、やっぱり楽しい。

 夢月ちゃんたちとは毎日のように顔を合わせていたから驚きはないけれど、久しぶりに会うクラスメイトは、日焼けしていたり、少し髪の毛が伸びたり逆に短くなっていたり、といろいろ変わっていて新鮮だった。

 僕は席について、隣に目をやった。

「稔くんは……あまり変わっていないね」

「数日前に、宿題やらされたばかりだからな」

「――あ、そう言えば知ってる?」

 痛いところを突かれ、僕はとっさに話題を変えた。

「さっき渡辺先生に会って聞いたんだけど、二学期になっても席替えしないみたいだよ」

「ふぅん。そうか」

 席順は入学した当初の名前の順から、いまだに変わっていない。僕としては夢月ちゃんたちと同じ班なのは嬉しいけど……

「稔くんは、僕とまた隣同士で飽きたりしてない?」

「いや……席替え面倒くさいから、そのままでいい」

「そっか。良かった」

 稔くんの理由はともかく、嫌な顔されなかったのでほっとした。

「これからもよろしくねっ」

 僕が笑顔を向けると、稔くんも笑顔(ただし意地が悪い)で言う。

「ああ。けど、ノートを写させたりはしないからな。勉強は自分でやれよ」

「あ、ははは……」

 ――授業について行けるよう頑張ります。


  ☆☆☆


 中学校では小学校にはなかったイベントが多数待ち受けている。その一つが文化祭だ。クラスや部活で出し物をしたり、逆にそれを見に行ったりと、みんなでわいわいがやがやできて楽しそうなイベントだ。

 文化祭は十月の中旬に行われるんで、まだまだ先だけれど、準備は二学期に入ってからすぐに始まった。


「――というわけで、文化祭での、うちのクラスの出し物について、みなさんの意見はありませんかぁ?」

 ホームルームの時間を使って、クラスで何をやるか話し合いが行われた。壇上でみんなに声をかけたのは義明くん。ああ見えて実はクラス委員をしているのだ。担任の渡辺先生は窓際で椅子に座って聞いているだけ。生徒たちの意志で決めるっていうのも中学校っぽいよね。

「食べ物の屋台って出来ないのー?」

「はい。できませんー。さっき説明した通り、食品衛生とか事故防止とかなんちゃらのせいでーす」

 あがった質問に、義明くんが適当な口調で返す。漫画やアニメでよく見る模擬店や喫茶店と言うのはできないのかぁ。残念。せっかく調理がそこそこできるようになってきたから、家庭科部の腕の見せ所だったのになぁ。

「じゃあ、出来るのって、展示とお化け屋敷ぐらいか」

「展示は楽そうだけど、せっかくだし、面白いことしたいよね」

「劇ってのも定番だよねー」

「劇っていったら、シンデレラ? 白雪姫? それともオリジナルかなぁ」

 クラスのみんなが口々に意見を交わす。

「――はい。劇という案が出たので、俺から一つ提案があります」

 ざわめくみんなに向かって、壇上から義明くんが言った。どうやら何か思いついたみたい。

「熊代の案ってなんだよ」

 男子の一人が逆に聞くと、義明くんはみんなを見回すようにして答えた。

「題目はオーソドックスに、シンデレラ。――ただし、男女のキャストを入れ替えする、名付けて男女逆転シンデレラ劇っ」

「おおっ」

「えぇーっ。意外とありがちじゃない?」

 義明くんの提案に、クラスから歓声と落胆の声がほぼ半々くらいであがる。

 けれど義明くんは、みんなの反応を予想していたかのように続ける。

「確かにありがちかもしれない。だが我がクラスには、これを成功させられるヒロインが存在する。その名も――」

 そう言って、義明くんは視線をこっちに向けた。

 え、僕?

 けどその視線はちょっとだけ向かって左横にずれる。

「岡本耕一郎だぁぁ」

 ええっ。

 意外な名前に、僕は思わず声をあげそうになった。

 ていうか、クラスの女子からは実際に、そういう声があがっているし。

 けどそれを掻き消すかのように、男子の間から歓声が沸き起こった。岡本くんを除いて。

「ちょっと待て。なぜ僕が――」

「照れるな、耕一郎。眼鏡を取ると美少女なのは、すでにクラス男子の誰もが知っていることだ」

「え? マジで」

 義明くんの言葉を聞いた夢月ちゃんが、隣の席の岡本くんに手を伸ばして、さっと眼鏡を取った。

「あっ――」

 今度は女子の間からも歓声が上がった。

 僕も、斜め後ろの席からちらりと見てしまったけれど、お目目がぱっちりとしたショートカットが似合う美少女だったのだ。

「わぁ……すごいね」

「あぁ。俺も初めて見たときは驚いたよ」

 稔くんの話だと、プールの時、眼鏡を取った岡本くんを見て、男子の間では話題になったみたい。眼鏡を付けると瞳が小さく見えちゃうから普段は分からなかったけど。

 ちなみに、岡本くんは見られたくなくて隠れていたのか、女子のほうからは見えなかった。

 パッチリお目目に加え岡本くんは、園児たちに「勝てそう」って思われるくらい、男子の中では背が低い。さすがに僕よりは大きいけれど、150cmくらいかな。声変わりもしていないし、髪の毛も、文系だからか、他の男子より少し長いくらい。

 こうして、美少女岡本くんの出来上がりである。

 うーん。驚きだ。

「シンデレラは岡本くんに決まりとして、王子役は誰がするの?」

 僕が衝撃の余韻に浸っている中、女子の一人が義明くんに質問する。

「ふっふっふ。そっちに関してもぬかりはない」

「ちょっとっ、僕はまだやるって――」

 岡本くんが声を上げるけど、クラスの総意できっぱり無視される。

「岡本シンデレラと対をなす、逆転王子役は……」

 義明くんの視線が、またこっちに向く。

 まぁ、格好いい系の女子っていったら、夢月ちゃんが妥当かなぁ。

「我がクラスが誇る『僕っ子』、栗山優希だぁぁ」

 今度は男女両方から歓声が上がった。

 ……えっと。

 …………。

「ええぇぇぇぇぇえぇっっ?」

 僕は思わず席を立って叫んでしまった。



  ☆☆☆



「絵梨姉ちゃんっ。男の子っぽく見える方法を教えて!」

 僕は家に帰るなり、珍しく先に帰っていた絵梨姉ちゃんの部屋に飛び込んだ。困ったときの神頼みならぬ、絵梨姉頼みだ。

 僕の乱入に、絵梨姉ちゃんは読んでいた雑誌を置いて、あっけにとられたような顔をした。

「……男の子って。それなら、私より優ちゃんの方が詳しくない?」

 あ。

 そういえばそうだ。

 なんてたって、僕は半年ちょい前までは正真正銘の男の子だったんだもん。

 いまだ女の子に慣れないと感じることがあるのに、男の子のときのことを忘れてしまうというのは、どういうことなのか。

 僕は小学生時代の自分の姿・行動を思い浮かべた。

 うーん。男の子っぽい行動って……。正直、普通に暮らしていただけで、どこが男の子っぽかったのか、さっぱり分からない。

「で、でも。自分が男だと気づかないところもあるので、女性視点での男らしさを知りたいというか……」

「まぁ言いたいことはわかったけど。で、どうしたの?」

「えっと、実は……」

 僕は、今日決まった、文化祭での出し物のことを説明した。

 あの後、僕ももちろん抵抗というか反対したんだけれど、岡本くん同様、クラスの総意によって無視されてしまった。民主主義って怖い。

 そう僕が、いかに強引に配役が決められたかを熱弁したにも関わらず、「へぇ。面白そうじゃない」と、絵梨姉ちゃんも気乗りした様子を見せる。

「けれど、そういうのって、たいてい男装の麗人タイプが選ばれるのにねぇ」

「うん。僕もそう言って抵抗したんだけど、なんでもショタっ子王子様が見たいとかなんとかで……」

「ああ。なるほど。それはよく分かるわ」

 ……分かるんだ。

 ちなみに、ショタっ子なら眼鏡を取った岡本くんでいいような気がするけど、それはそれで違うみたい。

「そのコンセプトなら、変に男っぽく演じようとしないで、そのままの優ちゃんで良いんじゃないかしら」

「……そうかなぁ」

 いまいち納得がいかない。そんな僕に向けて、絵梨姉ちゃんが意地悪い笑みを浮かべる。

「それに、完璧に男の子を演じきっちゃったら、優ちゃんが小学生まで本当の男の子だったってことが、ばれちゃうかもしれないよ」

「うっ。それは――」

 僕はびくりと肩を震わせた。――その可能性は考えていなかった。

「ふふ。冗談だって。いくら男の子っぽく演じても、普通そう考えないって」

「そ、そうだよねっ」

 絵梨姉ちゃんに合わせて僕も笑ったけれど、内心はちょっとひやひやだった。絵梨姉ちゃんの言う通り、普通はそう考えないと思いたい。

 僕が選ばれたのも、僕が僕っ子だったからで、変に疑われているわけじゃないよね、きっと。

「ところで、男装の不安は分かるけれど……」

 絵梨姉ちゃんが急に真面目な顔をして続けた。

「台詞や演技の方は大丈夫なの? シンデレラの王子って言ったら、それなりに台詞や出番も多そうだけど」

「あ」

 忘れてた。

 ていうか、劇の主演なんて。

 そっちの方が大変じゃないか!



いよいよ二学期突入です。

今後、少し更新が滞るかもしれませんが、気長に待っていただければ幸いです。

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